懐中電灯が照らした先には
懐中電灯が照らした先には、銀色に光る、鋼鉄製らしき鎧を来た男が立っていた。
騎士だ。
騎士は、微動だにせずに、こちらを凝視している。
俺たちは、固まった。
誰も、何も言わなかった。
いや、言えなかった。
頭の中が、真っ白になっていた。
竜に続いて、こんどは騎士だって。
いったい、この修学旅行は、どうなっているんだ⁉︎
これじゃあまるで、まるでファンタジーRPG……
俺が、そんなアホなことを考えていると、
騎士がいきなり、無言のまま、剣をぬいた。
白銀のように光る剣は、下手したら俺の身長くらいありそうなほど巨大な西洋刀だ。
殺される。
そう確信した。
もはや、恐さを通りこして、夢を見ているような感覚だ。
が、そのとき、がっしりとした手が、力強く俺の肩にのせられて、俺はまた正気にかえった。
後ろから落合先生が、ずいと前に出てきて、木刀を構えた。
「お、おまえら、俺がこいつと戦っている隙に、廊下の反対側の階段から逃げろ」
「で、でも、それじゃ先生が…」
「大丈夫だ。一瞬、相手の気を逸らして、俺もすぐ逃げる」
「でも、でも…」
「落ち着け。それしかない。お前が懐中電灯をもって、二人を連れていくんだ」
そう言うと、落合先生は、さらに一歩、前に進み出た。
俺たちを、守るように。
俺の両目からは、ぼろぼろと涙がこぼれていた。
話しているうちに、落合先生が、死ぬ気だということが、わかったのだ。
口では大丈夫だと言っているけれど、
先生は、俺たちを逃がすために、死ぬ気なのだ。
最初から、そういう覚悟をしていたんだ。
後ろで、美空と高田先生も泣いていた。
「俺があいつに打ちかかったら、すぐに全速力で反対側に走れ。いいな?」
俺は、なんとか、うなずくことしかできなかった。
先生は、一瞬の間のあと、
「きえええええええっ!」
雄叫びとともに、木刀をふりかざして、騎士に向かっていった。
その瞬間、俺たち三人は、廊下の反対側に走りだした。