サーシャの行進
サーシャは歩き始めた。
裸のままで。
浴室を出て、隣の私室に入る。
棚の戸が開いて、香油が床にこぼれている様子に一瞬目をとめた。
それから、まっすぐ前を向いたまま、
「どうやら、いろいろとやってくれていたみたいね」
と言った。
もしかしたら、俺に向かって言ったのかも、と思ったので、俺は、
「まあ…できる範囲で…」
と答えた。
「これで勝負がついたとは、思わないことね。あなたたちは、生きてこの町から出られないわよ」
サーシャの話し方は本当に静かだったので、そのぶんだけ迫力があった。
サーシャは、裸のまま私室から廊下に出た。
廊下には、すでに大勢の衛兵が集結していた。
全員が武装している。
サーシャは、微塵も動じることなく、彼らの真ん中を進んだ。
俺たちが、武器を彼女の喉元にあてているので、衛兵たちも手が出せない。
衛兵たちは、一様に暗い目をこちらに向けていた。
誰も、一声も出さないので、廊下は静まりかえっていた。
そのなかを、俺たちはサーシャに乗って進んだ。
ウインガーレイ侯だけが、一人満面の笑みを浮かべていた。
「うはははは! この城の真の主・ウインガーレイが凱旋じゃ‼︎ ドリアムに伝えるがよい! 娘は我が軍が捕虜にしたとな‼︎」
すべては、ウインガーレイ侯の作戦どおりに進んでいるかと思えた。
が、そうではなかった。
俺たちが城の廊下を歩いていると、誰かが大声で告げた。
「侯爵様がお帰りだ! ドリアム侯爵様がご帰還されるぞ‼︎」