人間の価値は平等ではない
「そこまでじゃ!」
ウインガーレイ侯の声が響いた。
侯は、全裸のサーシャにとりついて、その首に剣をつきつけている。
彼は、俺たちが護衛の気をひいているあいだに、見事にやってのけたのだ。
俺は、護衛の手に掴まれ、いままさに床に叩きつけられようとしていた。
が、護衛は、ピタリと動きを止めた。
「動けば、サーシャの命はないぞ。わはははは!」
そう言って、侯は笑った。
やっぱり、すげえじいさんだ…。
こんなときに笑ってやがる…。
俺は、護衛の手の中でそう思った。
もしかしたら、俺の命なんて、本当にどうでもいいと思ってるのかもしれないが…。
護衛は、ゆっくりと手を下ろした。
だが、俺を離そうとはしない。
「姫から離れろ。こいつと交換だ」
護衛はそう言ったが、ウインガーレイ侯はまた大笑いした。
「わはははは! その小僧とサーシャが、まさか本気で、人質として対等だと思っておるのか? いやいや、人間の価値は平等ではないんじゃ。その小僧とサーシャでは、価値がまったく違う。小僧を放せ。放さなければ、サーシャを殺す」
「サーシャ様を殺せば、二秒以内に、おまえらを全員殺してやるぞ」
護衛は、俺を握る手に力をこめた。
痛い…。
だが、それでもウインガーレイ侯は笑う。
「まだわからんのか? 人間の価値は平等ではないんじゃ! わしら全員の命より、お主にとっては、サーシャ一人の命が大事。違うかな?」
「この老人の世迷言に惑わされるな! 今すぐこやつらを抹殺せよ!」
サーシャが冷たい声で命じた。
だが、護衛は氷のように動かない。
「わしは、サーシャを殺せれば本望じゃ! ここにいるみなも、きっと喜んで一緒に死んでくれるじゃろう。レジスタンスの勇敢な戦士じゃからな」
「惑わされるな! 私こそ、ここで死んでも悔いはない。このウインガーレイを道連れにしたとあっては、父上にも誇れるというものよ! 頼むから私に、名誉の戦死を選ばせてくれ‼︎」
護衛の手に、ぐぐっ力が入っていく…。