終わりだ…
「念のため、そのカゴをあらためさせていただきます」
護衛は、ウインガーレイ侯がひそむカゴを指差した。
カゴの中を見られたら、おそらく一貫の終わりだ。
ヤバイ!
どうする⁉︎
サーシャは、無言で立ち止まり、不審げな顔で、カゴを見ている。
サーシャは、全裸だ。
「このカゴがどうしたの?」
「隣の部屋で、不審な出来事がありました。おそらく、敵が侵入しております」
「ならばいっそう、急いで服を着なくちゃ…」
サーシャが、あと二歩カゴに近づいてくれれば、ウインガーレイ侯が飛びつけるのに…。
そうなれば、侯の作戦どおりサーシャを人質にとれる。
あの護衛も、手が出せなくなるだろう。
「でも、まあ、いいわ。はやく調べなさい」
サーシャは、そう言うと、アゴでカゴをしめした。
護衛が、カゴに近づく。
「終わりだ…」
稲田がつぶやいた。
「いや、まだチャンスはある!」
護衛は、俺たちのタンスのすぐ目の前にいるのだ。
俺は、腰にさしていた木刀を引き抜くと、思いっきり叫びながら、護衛の頭めがけて飛んだ。
「うおおおおおおおおお!!!」
俺の叫び声が頭のすぐ上から聞こえたのだから、少しは驚いたはずだ。
護衛は、すばやくこちらを見た。
その目は、冷静そのものだ。
護衛の剣が、まっすぐに俺に向かってきた。
斬られる!
と思った瞬間、剣の軌道が微妙にゆらいだ。
小さな光る矢が、彼女の腕に刺さった。
稲田が、魔法の矢を射ってくれたのだった。
俺は、護衛の剣をかいくぐり、頭の上に着地した。
が、即座に手で掴まれた。
そのまま、頭の上まで持ち上げられた。
床に叩きつけるつもりだ。
今度こそ、死ぬのか…?
「そこまでじゃ! 動けばサーシャの命はないぞ!」
ウインガーレイ侯の声が響いた。
護衛の動きが、ピタリと止まった。
ウインガーレイ侯が、サーシャの喉もとに、ピタリて剣の刃をあてていた。