新しい服
サーシャが服を脱いで、風呂に入るあいだ、俺と稲田だけは、もとの隣の部屋のタンスの上に押し込められた。
美空さんが、ばっちり俺たちを見張っている。
なんだか、完全に覗き犯の扱いだ…。
やがて、
「もういいわよ」
と、高田先生から声がかかった。
浴室が見える位置にもどると、サーシャは、湯船に浸かって、すっかりくつろいでいるのが見えた。
あの凄腕の護衛兼女中は、脱衣スペースの端に、タオルを持って控えている。
サーシャが風呂からあがると、すぐにタオルをわたすのだろう。
サーシャは、湯船の中でじっと動かず、なにか考え事でもしてるみたいだ。
もしかしたら、俺たちをどういうふうに死刑にするか、考えているのかもしれない。
そうしているうちに、また別の女中が浴室に入ってきた。
サーシャの新しい服を持ってきたようだ。
女中は、新しい服をカゴに入れると、かわりにさっきサーシャが脱いだ服を持って、すぐに部屋を出ていった。
「チャンスじゃ!」
ウインガーレイ侯が、またささやいた。
だが、こんどは、すぐには動き出さない。
「チャンスって? どういうことすか?」
「さっきの女中が持ってきた服じゃ!」
「あの新しい服?」
「鈍いやつじゃな。あの服にまぎれて待つんじゃ! そうすれば、サーシャのほうから、やって来てくれるんじゃ! あの護衛より速くサーシャに近づきさえすれば、わしらの勝ちなんじゃ!」
なるほど…。
たしかに名案かもしれない。
だが、
「服に近づくときに、あの護衛に見つからないすかね?」
俺は、素朴な疑問をぶつけてみた。
「なにもなければ、見つかるじゃろうな」
「なにもなければ?」
「誰かが、あいつの注意を引けばよいのじゃ!」
「誰かが?」
「え〜い、鈍いやつじゃな。お主が、囮になるんじゃ!」