ウインガーレイ侯の作戦
城の屋根で休息していた俺たちに、ウインガーレイ侯が言った。
「さあ、そろそろ行こう。目標が移動したら作戦が台なしじゃからな」
「さっきも言ってたけど、目標って何だよ? 教会に行かないのかよ?」
「まあまあ…。そのうち、わかるから心配するな」
俺たちは再び走り出した。
屋根といっても、城の屋根は広い。
その屋根の端にある雨樋を走るのだ。
当然、一歩足を踏み外したら、下まで真っ逆さまに落ちる…。
どこまで走らなければならないのだろうか、と思いはじめた頃、侯は走るのをやめた。
見ると、屋根の上に小さな出窓が出ている。
侯は、口に人差し指をあてた。
そのまま、そろそろと窓の近くまで進んで、慎重に中を覗き込んだ。
「なんなの? この下はなんの部屋なの?」
高田先生が、声を殺して、侯に尋ねる。
侯は、いたずらっ子のように笑いをこらえながら、俺たちを手招きした。
「静かにな…。すぐ下に、標的がおるんじゃ」
俺たちも、そろそろと足音がしないように注意して、窓に近づく。
侯にうながされて、窓の中を覗く。
(あ!)
俺は思わず、声をもらしそうになった。
窓の中の部屋には、サーシャがいたのだ。
「それではここで、わしの作戦について説明しておこうかの。今から、この部屋に侵入して、サーシャを脅すんじゃ。わしらは、サーシャに教会まで運んでもらう」
ウインガーレイ侯が、あらたまった様子で話した。