むちゃくちゃ高いよ!
城内に鐘の音が鳴り響いた。
その音は、いかにも乱打という感じで打ち鳴らされている。
しかも、鳴り止まない。
ウインガーレイ侯の脱獄がバレたに違いなかった。
城内のいたるところを、衛兵たちが走りまわりはじめた。
この調子なら、俺たちが部屋にいないことも、すぐ発覚するだろう。
サーシャが怒り狂う様子が、思い浮かんだ。
わがままなお嬢さんだったけど、俺たちには親切にしてくれた。
でも、もう会うことはないだろう。
もし会ったら、殺されるのだから。
「どうするの? こんなに兵士たちが走り回ってるんじゃ、小さくても見つかる可能性が高いわ」
高田先生が、緊迫した声でウインガーレイ侯に詰め寄った。
「大丈夫じゃ。わしは、誰よりもこの城のことを知っているんじゃぞ」
侯は、余裕たっぷりだ。
「まず、城の屋根に登る。こっちじゃ」
俺たちは、侯について、城の裏庭の隅を走って、雨樋の排水管の下までいった。
その排水管は、城の屋根に降った雨を、庭の端に作られた排水路に流す役割を果たしているようだった。
排水路に水を流し込む管の口が、そこにぽっかり口をひらいているわけだ。
「この中を登るんじゃ」
と侯が言った。
排水管は、城の屋根まで一直線に伸びている。
確かに、この中を行けば、外からは見つからないだろう。
だが…
「むちゃくちゃ高いよ、これ…」
稲田がつぶやいた。
そうなのだ。
ふつうサイズの身体で見ても、城の屋根まで伸びる管は、相当な高さだ。まして、いまの俺たちは、小人サイズなのだ。
その管は、果てしなく伸びる高い塔のように見えた。
「大丈夫じゃ。古いレンガで出来ているので、中は意外に凸凹しておる」
そう言って、ウインガーレイ侯は、自分でさっさと管に入って登りはじめた。
「なにをグズグズしておる⁉︎ はやく入って来んか⁉︎」
中から、くぐもった怒鳴り声が響く。
マジか?
でも、もうこれしかない‼︎
しかたなく、俺たちも排水管に入って、両手を内壁について、登りはじめた。
はるか先に、屋根の光が見えた。