魔法のクスリ
ウインガーレイ侯は、俺たちに丸薬を配って言った。
「これは身体が縮む薬じゃ。これを飲んで、小さくなって城を脱出する! これがわしの作戦じゃ‼︎」
ええっ‼︎
ち、小さくなるのかよ?
「いや、あの、小さくなったら、そのあとどうやって元に戻るんですか?」
稲田が尋ねた。
こればかりは、全員の疑問だ。
「心配無用! わしらが目指すのは、教会じゃ‼︎」
「教会⁉︎」
「神父の白魔術で、もとに戻してもらうんじゃ‼︎」
そうだった。
もともと俺たちは、美空さんを元の大きさに戻してもらうために、夜になったら、教会を訪れる約束をしていたのだ。
小人になって、城を脱出し、教会に行って神父に元の大きさに戻してもらう。
なるほど…。
ウインガーレイ侯の作戦は、一応筋が通っているような気がした。
俺たちは、互いに目を見合わせて、思い切って丸薬を飲んだ。
美空さんのときとは違って、身体がみるみる小さくなった。
なぜか服や木刀までも縮んでいく。
「この丸薬にも、魔法がかけられておる。わしの脱出を支援する者が、以前に差し入れてくれたものじゃ」
「これ飲んで、さっさと逃げればよかったのに」
「もちろん飲んだ。だが、駄目じゃった。あの鎖の魔力がまさったんじゃろう」
話しているあいだにも俺たちはどんどん縮んで、結局、美空さんとほとんど同じくらいのサイズになった。
体長二十センチくらいだ。
「ふふふふ」
美空さんは、身体が縮んだみんなを見て、かなりうれしそうだ。
彼女が、俺を見て言った。
「これでわたしも、新久保くんのシャツに押し込まれる心配をしなくて、よくなったわね」
小人になってみると、まわりの世界が突然、数倍も大きく感じられた。
巨人の国にまぎれこんだような怖さがある。
これが、美空さんが見ていた世界なんだ、と思った。
彼女は、こんな恐ろしい世界でたった一人、耐えていたのだ。
「さあ、城を脱出じゃ!」
と、ウインガーレイ侯が言った。
だが、俺たちの前に、城はあまりにも高くそびえていた。