サイアクの修学旅行
修学旅行は楽しい。
ふつうはな。
だが、世の中には、楽しいはずの修学旅行が、ぜんっぜん楽しくないヤツだっているのだ。
そう。
たとえば、この俺。
新久保圭介。
17才。
俺は今、高校二年生として、一年でいちばん楽しいはずの修学旅行の夜、ホテルの薄暗い廊下で見張りをしている。
万が一、教師たちが見回りに来た場合は、即座に携帯メッセージで、部屋の中の連中に、知らせることになっているのだ。
そもそも、いったいなぜ、俺がこんなミジメなことをやらされているのか…。
そこは察してくれ…。
ちなみに、俺が立っている廊下の前にある部屋では、同級生たちがトランプを楽しんでいる…わけではない。
同じクラスのイケメン三人組、横山、錦戸、丸山が、それぞれ女子を連れ込んでいるのだ。
口ではトランプをする、と言っていたが、あのリア充どもが、大人しくババぬきをしているわけがない。いったい何を抜いたり、抜かれたりしていることやら…。
ふー。
それにしても、廊下は寒い。そして、薄暗い。
そりゃそうだ。もう11月だしね。
しかもここ、山奥だし…。
俺らの学校の修学旅行って、なぜか自然体験とか言って、山奥の研修施設みたいなところに泊まり込むのだ。
明日の夜なんて、山でキャンプするんだぜ。めんどくせ…。
あまりにもヒマなので、俺は携帯をとりだしてゲームをしようとした。
するとなぜか、ゲームが起動しない。
電波がきていないのだ。
あれ?
おかしいな?
さっきは確かに電波がきていたのだけど…。
俺は、横山に、メッセ入れろよ!と言われたときのことを思い返した。あのとき俺は、反射的に電波を確認したのだ。
俺は手で携帯を持って、あちこち動かして電波をキャッチしようとした。
そのときなんだ。
ただでさえ薄暗かった廊下の電灯が、いきなり消えて、真っ暗になった。
それが俺にとって、いや、俺らみんなにとってサイアクの修学旅行のはじまりだったんだ。