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 オレ様はカッコいい!!!   作者: 犬草
異世界入門編
8/17

07 オレ様、狂う

長くなってしまいました


 話をしていた少年が去り、閑散とした広場には静寂とリチャードだけが残る。

 解放されるかもしれないという希望は、少年といっしょに遠くへ去ってしまった。仕方なくもう一度縄抜けに挑戦しようかと思ったとき、リチャードに客が訪れた。


「ちゃんと縛られたままいい子してたかな?」


 ロッソ。

 腰に小物入れを付けたエプロンと短髪の赤毛を覆う三角巾。いつもの格好に加えて、今は違ったものを両手で抱えていた。気になるリチャードだったが、最初に自分の要求を伝えた。


「その通りだ。いいこのオレ様は素直に縛られていたぞ。抜け出そうなんて考えもしなかったな! 清く正しく美しい公正明大なオレ様を(はりつけ)にするなんて可哀そうだ。そう思わないか」

「もし抜け出していたら大変なことになってたわよ」

「何をする気だ。オレ様が暴力に屈っすることはない! 」

 

 半月を描く黒い笑顔を浮かべるロッソに慄くリチャード。

 話を逸らそうとロッソが抱えるものに対して問いかけた。


「ところでそれは何だ 」


 広場を去った少年が人目を気にしていたのと同じように、顔を左右に動かして挙動不審に陥っている。


「この子、カワイイでしょ。毛はさらさらでパチッとした目元がキレイだし、ぽちゃっとしてるところもあるけど魅力の一つだと思わない? 」

「思わない。まったく思わない」


 オレ様はNOと言える男だ。そんなオレ様は超カッコいい。

 そんな現実逃避を一つしてから現実を直視した。


「カワイイ女の子だと言ったはずだ。なのにそれは何だ! 」

「失礼だと思わない? この子はもうレディよ。子供だって産めるのに」


 今日の夜は何を食べようか。それとも食事抜きになってしまうのか。

 空の端に大きな黒い雲が見える。明日の天気は雨かもしれないな。

 ひょっとしたら自分は相当に心が弱っているのかもしれない。

 リチャードそうは思った。  


「言葉は正しく美しく! レディじゃなくメスだ! 産むのは卵だ! そいつはニワトリだ! 」


 僅かな希望を胸に【黄金鑑定】(ゴールドスミス)を発動させる。

 自分の力を知るために行った試行錯誤の結果、力の概要を理解するに至った。


 【黄金鑑定】の三つの性質。

 1 生きている生物は金銭価値が見えない

 2 鑑定物の種類としての価値であり、個別の価値ではない

 3 鑑定物の種類名が見える


 結果としてリチャードの視界に映ったものは【ニワトリ白毛種 成体】だった。

 ロッソを見て、いつも目にするもの種族と同じものが映ると、冒険者に憧れる村の美少女という幻想を諦めることにした。

 二人と一匹だけの広場にニワトリの鳴き声が染み渡った。


「そのチキンがオレ様の話し相手ということか。このオレ様がニワトリに向かって一人寂しく話しかけろと」

「一人じゃない。この子はちゃんと答えてくれる、ね」


 語りかけるロッソへ応えるようにチキンが鳴いた。


「さっきまで緊張していたみたいだけど、やっといつもの調子を取り戻した。エリザ、頼んでもいいかしら。あっ、ちなみにこの子の名前はエリザベス。間違わないでね」

「もしかして‥‥‥‥‥‥‥そのニワトリは」


 リチャードはニワトリについて気づいたことがあったものの、その内容に口を閉ざした。


「どうやら気づいてしまったようね。それがどうしたの。いけないこと?」

「だが、それはあまりに悲しすぎる」

「構わないの。私の選んだ道だから」

「歩いた先に待っているのは、心の凍てつくような孤独な時間だけだ! 」


 強い視線を向けていたロッソは顔を逸らした。


「おもしろそうだと思ったけど、思ったより疲れる。話し方もとに戻すから」

「‥‥‥‥‥‥‥少しくらい付き合っても罰は当たらないぞ」 


 沸き上がた勢いは再び突き落とされた。

 手も足も出ず口で攻撃を始めた。


「鳥だけが友達の寂しいロッソさん」

「どうして人が誤魔化したところを、わざわざ会話の種にするのかな」

「街で誰にも見向きもされず行き遅れになりそうなロッソさん」

「死にたい? 死にたいのね? 大丈夫、優しくしてあげるから少しの間だけ目を瞑ってて」

「違う状況で言われたい言葉だな」


 リチャードの言葉に笑みを深めて、両手で抱えていたエリザベスを自由にする。両翼を羽ばたかせて地面に降りると、首を前後に揺らしながらリチャードの足元へと向かう。


「私だって友達くらいいた。けど今はもういない」


 続く言葉はなく、ロッソの言葉は広場の空気へと消えていった。

 空を見ると蒼穹は風に流されてやってきた黒い雲に侵食されていた。朝には感じなかった空気の重みを肌で感じる。雨雲から風が湿気を運んできたのだろう。

 雨は嫌いだ。天気を推測して、リチャードは少しだけ気分に陰が入ったと感じた。


「ねえ、サンタローくん」

「オレはリチャードだ」


 それこそが魂の名前だ、と継げようとして


「今は」とロッソが遮り「私の話を聞いて」と言った。


「私にはたくさんの友達がいた。ある日街から出て帰って来なかったの。イアン、エリック、ガンザ、コーダ、サイオン、ジョニー、スケラス、ネーブ、ハボ、バクス、ベーガ、ホルダ、ムメンキオ、メルク、ラージア、レス。みんな死んじゃた。死んじゃったの。そう、あなたがやってきた日に」


 リチャードは告げる言葉を知らなかった。

 思い浮かべるのは絶世の美少女によって行われた殺戮劇だ。


「あの日、重傷を負って気を失ったとして運び込まれた君は身につけていた。私の友達の装備を」


 湿気を含んだ空気が喉元に絡みつく。

 呼吸を重く感じならも、彼の反応を待つロッソにリチャードは口を開いた。


「つまり、お前はこう言いたいのか、オレがお前の友達を殺したのかと。殺して装備を奪ったのかと。そう言いたいのか。一つ言わせてもらおう、ふざけるなっ!!! 勘違いも甚だしい。オレは今まで……」

 

 人を手にかけたことなどない。

 殺人を否定する言葉を放つことはできなかった。

 記憶の中で再現された、肉を打つ剣から伝わる名状し難い感覚を。

 そして彼は理解した。自分は確かに目の前の女性の友達を殺している。

 

 ならば罰を受けなくてはならない。致命傷を負わせたものが自分ではないとしても、最後の幕引きを行ったのは自分だ。

 覚悟を決めようとしたリチャードにかけられた言葉は全く関係のないものだった。


「君は、もう知ってるよね? 私たちが隠していること。秘密に気づいて、見なかったことにした」

「オレはただ聞かされるのを待っていただけだ」

「へぇ、やっぱり知ってたのね。これも必要ないか」


 いつも身につけている花の刺繍をした三角巾を取り外す。

 リチャードはこの村の秘密を知っていた。そして、今も目にしていた。

 【黄金鑑定】(ゴールドスミス)の視界の中で、ロッソの頭上に浮かぶように


鬼人(オーガニア)】 文字の下にその証。頭頂部を飾る二本角。


 初めて見る獣のものとは違った輝く色艶にリチャードは感想を漏らした。


「思ったよりも似合ってるな」

「そうかな。君に言われても全然うれしくないけど」

「お世辞じゃねえよ。本気の本気だ」  


 それこそ全身を震わせて体が動かなくなってしまうくらいに。

 ロッソから溢れ出る狂おしいほどの感情のうねりに、これ以上ないくらい似合っている。


「思ったよりも落ち着いてる。それとも理解していないのかな。不思議に思わなかった? 妙に自分に優しい人たち。妙に自分を目の敵にする人たち。どうして、宿じゃなくて野営をしなくてはならないのか」


 それは自分の努力が実ったから。スタイルの成長の為だから。と、リチャードが考える。


「本当にわからない? 本当に気づいてない? 誰も君のことなんて見てない」


 遠雷が鳴る。嵐が来ようとしていた。

 リチャードは一言一句漏らすまいと集中する。

 なら、どうしてロッソはそんな目をしているのか。

 

「みんなも、ラオットも、私だって、みんなこう言いたいのよ。どうして君なんだって……」


 誰かの手を探すようにロッソは手を上げ、何もない場所を彷徨うと、リチャードの首へと動いた。


「どうして帰ってくるのがみんなじゃないの! どうして君一人なの! 誰か一人だけでもいい! 誰か一人だけでも帰ってくればよかったのに! みんないない。少し前までギルドはあんなに寂しいところじゃなかった。街のみんなを手伝ってるのだって君じゃなかった。ねえ、どうして君なの……お前なんか」


 その言葉はリチャードという殻を安々と食い破り、サンタローの心を貫いた。


「死んじゃえばいいのに」 


 ああ、つまり。

 自分を甘やかしてくれた人達は、亡くなったギルドのものたちを悼み。

 自分を目の敵にする人達は、失われたものの大きさに苦しんでいる。

 誰もが自分を通して自分ではない誰かを見ている。

 

 異世界


 この世界に来てかつてないほどの寒さが、静かに彼を包んだ。

 

「      っ!」


 突如として喉元を痛みが襲う。息ができない。


「ねえ、どうして! どうして! どうして、あなたは生きてるの! 」


 わずかに息を()く。


「こんな小さな街だけど、こんな何もないところだけど、私たちは毎日頑張ってた。依頼を受けて、解決して、感謝されて、ときには失敗して、落ち込んで、励まして。お酒を飲んでまだ早いって言われたり。隠れてバカなことやって怒られたり。そんな毎日が続くって、思ってたのに、ねえ、どうして……」


 語気の力と同時に腕も力を失っていく。

 自由になった喉で息を整える。


「ふざけるな」


 リチャードは叫んだ。


「ふざけるな! オレ様はここにる! オレ様は生きてる。なんでだとか知ったことか! そんなものオレたちを斬ったやつに聞け。そしてお前は言ったな、どうしてオレだけがって」


 遠慮なんか必要ない。

 昔ばかり見ているバカに今を突きつけてやる。


「そんなの運が良かったからに決まってるだろ!」  


 偶然会っただけで切り殺そうとするやつにあって生き残った。

 偶然、最後に斬られて、偶然、生き残る力を持っていて、偶然、助けてくれる人がいた。

 運が良い。


「あいつらは運が悪かったんだ!」

 

 偶然、自分たちでは抗うことのできないものに襲われ、生き残ることができず。助けもこなかった。

 運が悪い。


「ただ、それだけだ」


 風足はリチャードが予想していたよりも早かったらしく、空を覆う雲に太陽は姿を隠していた。

 リチャードとロッソを等しく強風が(あお)ぐ。 


「ふざけないで!」


 人の形をした殺意が、そこにあった。


「運が良いとか悪いとか。そんなもので皆、死んだっていうの」

「そうだ!」

「うるさい! 本当はお前が何かしたんだ! お前がみんな殺したんだ! 」


 ロッソが纏い始めた色に危機を感じて、リチャードは忘れていたように四肢の力を込め直した。

 が、身動き以上のことはできない。


「今度のことだって、本当はお前が何かしたんでしょう」


 声は弱々しく、だが込められた意思は苛烈そのままに。


「ラオットおじさんが言ってた。村がなくなるかもしれないって、そうなったら私たちどこに行けばいいの? 皆バラバラになっちゃう。皆いなくなっちゃう。ねえ、教えて。どうしたら村は助かるの。みんな助けられるの。教えてよ、ねえ!」


 武器もなく自分の腕でリチャードを殺そうとする。


「お前が殺したなら、すべての原因なら、私が皆の仇を殺れるのに! 」


 わずかに力が弱まる。殺す前にこれだけは聞いておこうと言うように。


「アルトをどこにやったの」

「…………誰だ?」


 意識が霞始めた中で反射的に生まれた答えだった。

 瞬間、誰かを理解して嫌な予感に駆られる。


「ここに来たのはわかってる! あなたに悪戯をしようとしてた子の一人よ! あの子は絶対にここへやってきた。そして帰って来なかった。どうしてあなた一人しかいないの! 」


 リチャードは【俯瞰図】(バードスカイ)を発動させていた。

 薄い青に染まる鳥の世界。

 探し物をしてわずかな距離を保ち彷徨う白点たちとは別に、明確な目的地を持って進んでいるかのように、まっすぐ動く白点が見えた。二つ動きはリチャードを中心に別方向へと動いていた。

 声をあげようとして失敗する。


「その目。私は知ってる。誰も信じてないけど私は知ってる。魔眼。ホラ話じゃない。それで何をしてるの。それでアルトにも何かしたの! 」


 誇大妄想ものだな。

 目の前の殺意に慄きつつ。


「勇気の花」


 何とか伝えられた。わずかに命を繋ぐ。


「取りに向かった。一人で」


 間

 

「どうして」


 言葉を皮切りにロッソは駆け出した。

 

「待ってくれ。アルトも村のみんなもオレ様が助ける。助けてみせる! だからオレ様を自由にしろ」


 足が止まる。振り向き。リチャードを見て。


「ごめん」


 一言だけ残して走り去った。

 残されたリチャードは悪態をつく。


「ごめんて何なんだよ。何に対して言ってんだよ。訳が分からん! 友達とか村のみんなとか、かたきだとか、もっと早く言ってくれよ。言ってくれなきゃ分かんねぇだろうが! オレ様に手伝わせろ! オレに救わせろ! 誰かいないのか! いたらオレを自由にしてくれ 」

 

 曇天から落ちた雨粒が地面に染みを作る。

 雨は強さを増し、リチャードの話し声はかき消された。

 それでも何かを諦めまいとするリチャードは開放感を感じた。

 足の縄の縛りが緩み、動かぜば自由を取り戻すことができた。

 足元を見る。そこには


 クルックー


 彼女は口と足を用い、リチャードには理解できない方法によって彼を自由にした。


「エリザベス、お前は最高だ。今日からもう鶏肉は食べない。ありがとう、愛してるぜ」


 早く行けと言っているかのように鳴く彼女を置き去りに、リチャードは走り出した。

 雨の中、頭をよぎるものは異世界に来たばかりのころ。

 切り裂かれ、悲鳴を上げ、殺されていく男たち姿。吹き出す血と、赤く染まる地面。

 

「くそっ!」


 誰もオレ様を見ていない。誰もが昔を忘れられない。

 

「だったらオレ様が刻んでやる。オレ様を忘れられなよう、その目に焼き付けてやる。オレ様はリチャード・サクセス。やがて英雄となり世界に名前を刻む男だ」


 だがこの時はと言葉を続け


「今のオレ様は怒るもの。猛る者。狂えるもの。その身に宿すは狂気の力」


 《宣誓》が響き渡りスタイルは【探索者】から【狂戦士】(バーサーカー)へと変化する。

 とたんにリチャードの頭の中に音が響き渡る。


【スキル【怒り】(アンガー)が成長、スキル【激昂】(ルナティック)へと変化します

 スキル成長によりスタイル【狂戦士】に成長ボーナス

 【狂戦士】Lvが規定値を超えたため、スキルを付与します

 【狂戦士の鼓動】(バーサークビート)を取得                   】


 スキル【激昂】発動 精神侵食により状態異常(バッドステータス)【狂化2】発生

 スキル【狂戦士の鼓動】発動 

 全身体能力上昇 精神侵食により状態異常(バッドステータス)【狂化3】発生

 【狂化3】により全身体能力中上昇 知力中低下

 

 村の外れ、森との境界線。自分が生活している場所。

 地面に突き立てられている剣を見つけて、抜き取った。


「行くぞ、エクスカリバー! オレたちを世界に刻んでやる! 」 

 

 強く大地をを踏みしめ走り出す。


 スキル【疾走(ダッシュ)】発動

 【狂戦士の鼓動】により変質 スキル【狂った競走】(ランナーズハイラン)発動

 体力減少量増加 速度大上昇


 リチャードの足は深く地面へと沈み、土煙を巻き起こして動き出した。

 巻き上げられた土は遥か上空へと飛び、雨と混ざって泥水になる。

 リチャードは速さを増して、自分を頼みに来た少年と、自分を殺そうとした女性の元へと向かう。

 嵐は強さを増し、森の木々は悲鳴を上げた。

 

 

 スキル【疾走】を取得   

 スタイル変更により一部スキル使用不可

 状態異常【狂化3】により一部スキル使用不可


・サンタロー・サトーあるいはリチャード・サクセス(仮)

 【種族】ヒューマンLv1

 【自称】来訪者Lv5 狂戦士Lv23

 【剣適性】

 【跳走】【滑走】【気合】【忘我】【激昂】【狂戦士の鼓動】

 【黄金鑑定】【俯瞰図】【透視眼】【???】【???】【???】【???】【???】


 読んで下さってありがとうございます

 次こそ戦闘シーンをば。


 主人公のLvが下がったのは街の住人たちにボコられたからです。

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