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 オレ様はカッコいい!!!   作者: 犬草
異世界入門編
6/17

05 オレ様、拘束される


「オレ今の状況を説明しろ、ヒゲ」

「自分の胸に手を置いて、よっく考えてみろ」

「じゃあ、オレを縛ってる紐を解け!これじゃあ、胸に手を置くどころか身動き一つできん!」

「うるさい!お前はしばらくそうしてろ」


 場所はリチャードの住処。

 睡眠中に体を預ける大木が見えることから場所を把握することができた。

 手を後ろで縛ったまま、その上から胸部、腹部、足首のみっつの箇所を押さえつけるように縛り付けられていた。首より上以外は身動き一つできない格好だ。

 何とかロープから抜け出そうとするリチャードの目の前に、ラオットが拳大の物体を取り出した。


「これが何かわかるか」

「緑の小人さんだろ!陽気なダンスでオレを幸せな気分にしてくれるナイスガイさ!」

「そいや」

「グホッ」


 ラオットは目の前で虚ろな笑みを浮かべるものの腹部へと攻撃を敢行した。それは軽いものだったが、衝撃を逃すことのできない状態にある彼にとっては、予想外に重い一撃となった。


「正気に戻ったか?」

「……とうとう本性を表したなヒゲオーガ。日頃の姿は人の目を欺く仮の姿。その真の姿は人を喰らい、狂暴な獣性を宿した鬼。そして今、本性を表したということは……」


 わずかな間に、息を飲み込む。


「オレを食べる気だな」


 二人の視線が重なり、互の考えを読み合うような猜疑心に満ちた目と目の交流があった。

 流れ始めた沈黙を破ったのはリチャードだ。


「オレはいかなる恐怖にも屈しない!例えこの身が尽き果てようとも、獅子の心が失われることはない!ただ、心を入れ替えるというのなら、その緑の小人さんを渡すだけで許してやろう」

「……まだ毒が残っているようだな」


 ラオットは可哀そうなものを見る目をすると、肩を回す。

 その姿に日々の修行(じごく)の時間を見たリチャードは危機感を覚えた。


「オレ様が許してやろうといっているのだ。さっさとその緑の小人を渡し慈悲を請うがいい。待て!本気か!お前こそ正気なのか!短いだったがオレたちは師弟関係を結んだ仲だ。厳しく接してくれているのもオレのためを思えばこそだと思っている。だから考えを改めろ!今すぐオレを解放するんだ。そして緑の小人さんをオレに渡せ!」


「安心しろ今すぐ楽にしてやる」

 

 それは悪魔憑きを前にした【悪魔祓い】(エクソシスト)のような慈悲の笑顔を浮かべるラオット。その姿は神による無限の愛(アガペ)を体現する信者そのものだった。例え苦しみ待っていようと相手を助けるためと聖言を唱えるように、ラオットは慈悲持つ一撃を敢行した。


「クソッ!例えオレが死んでも第二、第三のオレが生まれるだろう!心しておくことだな!」


 深い呼吸と長い溜めの後に放たれた一撃はひどくゆっくりとしていた。

 リチャードが死の危険に際して極限の集中力を発した‥‥‥‥‥‥というわけではなく、ラオットは力強さをまるで感じさせない動きで、開いた手の平をリチャードに押し当てた。


「清めること、陽の如く」


 スキル【錬気功】(チャクラ)

 スキル【浄化】(クリア)

 スキル【肉体破壊】(ボディブレイク)


 スキル組み合わせ(コンビネーション)闘技(アーツ)【清明光】


 リチャードは腹部から競り上がってくるものを感じて、とっさに口を強く閉じた。それでも腹部から喉を通ってきたものを我慢することができず、吐き出した。

 

「ッガ、ゴホッゴホッ、ゴパッ!」


 それは赤い色をしていた。

 すぐに自分が吐き出したものだと気づく。


「オレが死んだら公園でシロを埋めた場所に灰を撒いてくれ。死んだときくらいはいっしょに」

「いい加減、正気にもどらんか!どこも痛くないだろうに、まだ寝足りないのかバカ!」

「っえ?痛く………ない」

 

 血を吐き出しのが死んだられなくなるほどに、自分の体に異常を感じることはできなかった。

 目に見た事象と体が感じる状態の差異に、混乱に襲われる。


「さっさとすませるぞ。もう一度聞く、これが何だかわかるな?」

「あ、ああ。ゴブリンの頭に生えていたキノコだよな。見た目のワリになかなか美味だったな、うん。この土地の名産にしたら懐が潤うんじゃないか?」

「確かにこれを名産にしたら金は手に入るじゃろうな」


 いいこと言った。

 得意げに笑みを浮かべるリチャードに、ラオットは溜め息を付く。そしてキノコを目の前に晒しつつ情報を吐き出した。


「これはな、味もいい上に食べると幸福な気分になるキノコじゃ」

「そうだな。あの味は素晴らしかった」

「だが、食べると徐々に体力を奪われて理性を失い。最終的には食べた生物の体を乗っ取り苗床にする。法律で禁じられている悪魔のようなキノコだ。もう絶対に食べようとするなよ」


 そういえば、食べ始めてからの記憶が少々怪しいことに気付く。


「ちなみにコレは坊主の頭に生えていたもんだ」

「オレのキノコがそんなちっこいハズがないだろ!オレのキノコはもっとビッグだ!」

「話を聞いて言うことはそれだけか……」

「フム。感謝してやろうではなか、ヒゲ」

「こいつ、マジで殺してえ」

「ありがとうございます!生きてて良かった!生きるって素晴らしい!本当に感謝してます」


 修行の成果でラオットから溢れ出す殺気を敏感に感じ取ったリチャードは、手のひらを返すように態度を変化させた。

 その様子を見たラオットはリチャードを拘束するロープを解く。


「自由にしてもいいのか」

「これはお前の様子を見るために縛っていただけだ。案の定、毒が残っていたようだしな。このキノコは一度食べると病みつきになってしまう。文字どうり病的にな。食べた生物に毒を酔わせ、喰らわれ殺した死体を苗床にする」

「っハ。ぞっとする話しだな」


 さながら麻薬だな。

 心の中でつぶやくリチャードも、キノコに殺さるなんて死んでもゴメンだと思うに違いにない。


「待てよ。それならオレは大丈夫なのか。確か、腹一杯になるほど食べたはずだ」


 思い出すだけでも腹が減ってくる。内容はアレだが、味は本当に美味しかった。


「全部吐かせて、最後に毒素の全てを消し去ってやった。あれは本当に疲れるだ。もうキノコを食うなんてことしないような!おまけに体力も回復しているはずだ」

「ああ、むしろ年越えに心機一転に成功したときのような、爽やかな気分だ」

「そりゃよかった。元気になったならコレでそこら辺で死んでるゴブリンの左耳を取ってこい。討伐証明部位になる。端金にしかならないが、一応ギルドから討伐金が出る」

「いよいよ【冒険者】らしくなってきたな」


 リチャードは投げ渡された短剣と小袋を手に、意気揚々とゴブリンの死体を探しに歩き出した。


 ●○○○●


 ゴブリンの左耳を十個ほど集めたところで、リチャードは作業を中断した。

 金が貰えると聞いて【跳走】(ステップ)でギルドへと向かう。それはアホを見る目で注目される原因になるが、リチャードは全く気にしなかった。

 そうしてたどり着いたギルドはで、普段では信じられないほどの人で埋め尽くされていた。


「民衆どもオレ様のお通りだ。どけどけ」


 人を掻き分けて前に出ると、師匠であるラオットが声を張り上げている姿が目に入った。


「‥‥‥‥‥・というわけで、現状この一体は非常に危険な状態にある。応援を呼ぶことになるだろうが、暗くなる前に一度オレたちだけで近場だけでも探しておくべきだ。連絡は‥‥‥」


 なれた様子で村人たちに仕事を割り振っていく様子は、普段の鬼軍曹のごとき修行時間からは想像できず、リチャードにとっては奇妙な光景に映った。


「っていうか、あのオッサン。手馴れてるな」

「そりゃラオットおじさんは、ここのギルドマスターだからね」

「本当か!あのヒゲは凄腕の元冒険者で、ある依頼の中で重傷を負い、一命は取り留めたものの怪我の後遺症で戦えなくなり、昼から酒に溺れながらも、自分の技の後継者を探しているのではなかったのか!そんなバカな!」


 妄言を垂れ流すリチャードの熱気に押されて、街のギルドの受付であるロッソは後退(あとずさ)る。リチャードのテンションについて行けないロッソだったが、そこは荒くれ者の集まる冒険者の受付らしく、何の抵抗もなく疑問を口にした。


「どこでそんな話を聞いたの?」

「それは秘密だ。情報提供者からは決して他言しないことを条件に無理を言ったからな」

「私に言ってるじゃないの。というか、ラオットさんは現役だし。実戦で教えてるって聞いたけど」

「そうだった!では、オレを奥義の後継者として見初めて弟子にしたという話は」

「そんな話し聞いたこともないって」


 奥義ってなによ?という言葉を背景にして、無言のまま両手を天井へと突き上げた。

 「神は死んだ」とでも言わんばかりに、上を見上げて放心する。

 リヂャードが聞いた情報から無軌道に妄想を働かせていた現状、その間違いの指摘に今までの地獄の扱きに耐えるための支えを失い、一種の喪心状態に陥っていた。

 リチャードが勇者召喚から魔王を倒すまでの妄想を終えて現実に戻ってきたとき、自分の手に異物が握りこまれていることに気付く。


「なんだコレは」

「やっと正気に戻った」

 

 手の中には丸くて平たい金属があった。金属に二種類の絵を見つけるが、すぐに表と裏だと理解する。

 

「ゴブリンの討伐金。10匹で300ダラ。銅貨3枚ね」

「ちょっとコレは少なすぎないか」

「ゴブリンなんて大量繁殖することを除けば、力がある子供ほどの強さしかないでしょ」

「これが300ダラか」


 三枚の銅貨を見つめてリチャードは思う。

 金にならない。


「話は終わったな。ロッソは国に出す報告書と補助金申請の書類を用意しろ。坊主はこっちにこい、聞いてなかっただろうから説明してやる」


「今回はギルドからの依頼になる。ランク外特別依頼(クエスト)『有害指定植物の苗床の処分』。今回は非常事態だ。ランクに限らずこの案件が終了するまで、他の依頼は一時停止になる」

「ほう、ようやくギルドの秘密兵器であるオレの出番がやってきたということだな」


 おもしろくなってきた。いよいよオレの秘めたる力を見せる時だ。

 日頃、雑用してばかりいるオレをあざ笑うガキどもを見返してやる。


 毎日Fランクの以来しか受けることができなかったリチャードだが、今回の任務で活躍してランクをあげて貰おうと打算を働かせていた。

 

「今回は早さ重視だ。すぐに対応しないと森の中が【緑の小人】だらけになっちまう」

「言いようだけなら、随分と可愛らしく聞こえるがな」

「実際は全身からキノコを生やす死体の山だ。場合によっては森ごと焼き払う必要もある」

「ずいぶんと過激だな」

「最悪の場合は、ワシらごとこの辺一帯の村を巻き添えにして浄化する必要があるだろう。最悪を防ぐためにも急がねば」

「浄化ね」


 広範囲に影響を与える大規模な力の行使のことか、それとも全てをなかったことにする破滅の炎か。


「どっちにしてもやることは変わらないな。オレはオレのやるべきことをやるだけだ」

「珍しくいい面してるじゃねえか」

「ああ、世界がオレを求める日がこんなに早くやってくるとは思わなかった。だが、いつか必ずオレを必要とするときがくると信じていた」

「そうかそうか、確かにお前には他とは別にやってもらうことがある。こっちだ。付いてこい」


 ラオットに連れられて移動するリチャードに、周囲の村人たちから熱い声が掛けられた。


「お前が来てもう二週間だ。オレたちはお前のことを仲間だと思ってるぜ」

「コイツの言うとおりだ。この前もオレの上さん世話になったな」

「オレの母親もお前を見習えって言ってたくらいだ」

「今回のことには皆感謝してるんだ」

「だから、何も気にすることはないぞ」

「そのとおりだ。皆仲間。一致団結。それがこの街の力になる」


 不敵に笑いながらも、リチャードは内心で喜んでいた。

 下心はあったものの自分のやってきたことは無駄じゃなかった。奥義の継承だとか、頭の中の話ではない。自分が積み上げて来たものの形が目になって表れている。

 胸を張り、顔をあげてまっすぐ前を向いてリチャードは歩き出す。


 連れられてやってきた場所は村の広場。

 何に使うのかわからない棒が突き立てられている。成人男性ほどの高さを持つ金属棒の横にリチャードは立っていた。正しく言葉で表すならば、リチャードは棒を背に肩、腹、脚を括りつけられ、両腕を後ろに回して手首を縛られていた。

 そう、彼は縛られていた。


「ホワイ!」


 彼の周囲は街の住人である男たちに囲まれていた。


「おいキサマら、一体これは何の冗談だ」


 睨みつけるリチャードの顔に、仮面が押し付けられる。

 仮面の顔には、眉を八の字にし、目尻を下げ、涙の印の描かれた図柄があった。


「説明しろ、ヒゲ!」 

 

「これは《羞恥の仮面》と言って、【感覚強化】のスキルが付加されている」

「そうじゃねえよ!」 

「お前は覚えちゃいないだろうが、キノコを食べたお前はめちゃくちゃ暴走してたんだよ。都会じゃ牢屋にブチ込むんだろうが、田舎じゃこうやって見せしめにするってわけだ」

 

 説明しつつロープを固く締め直すラオット。


「つまりこれば罰だというのか」

「そういうことだ。人手が欲しいのは確かだ。でもお前はそうしていろ、街の掟というやつだ」

 

 話をするリチャードに周囲を囲む村人から声が掛けられた。


「いつもいつも胸ばっかり見て!気持ちワルいのよ!」

「お前のせいでオレまで草むしりさせられるんだぜ!」

「そうだ!お前のせいでオレの家庭内地位が揺らいでいる」

「娘がお前のお嫁さんになるとか言ってたんだ。死ね!」

「馴れ馴れしくロッソさんと話しやがって!」


「ほとんど私怨じゃねえか!」 


 先ほどとは打って変わった態度に、リチャードも声を荒げた。


「いいか!オレはやりたいことをやっただけだし、お前たちが冷遇されるのはお前たちが愚かだからだ!いいか、愚民ども!よく聞け、愚民ども!大切だから二回言ったぞ」


 《羞恥の仮面》の効果で他人の視線を敏感に感じるようになっていた。

 見られている。その感覚がまるで舞台の上にいるかのような錯覚を与え、気分が高揚していたリチャードの頭をさらに暴走させる。


「このオレは獅子の心を持ち、聖剣エクスカリバーの所有者であり、やがて世界に名を刻む英雄だ。お前らのような愚民に下げる頭などひとつもないわ!いつか、英雄に恥ずかしめを与えたとして、あとあと悔やむがいい。ハ~ハッハッハッハッハッハッハ、ア~ハッハッハッハッハッハッハッハ」


 煽るリチャード。怒る民衆。

 偶然にも、それらの状況がリチャードにあるスキルを発動させる原因となった。


 スキル 【狂騒】 (エキサイトメント)発動。


 効果は周囲に対して無差別に状態異常(バッドステータス)【狂化】を付加することだ。

 

 【挑発】(プロボケーション)を獲得しました





 ・サンタロー・サトーあるいはリチャード・サクセス(仮)

 【種族】ヒューマンLv2

 【自称】来訪者Lv5 探索者Lv7

 【剣適性】

 【薬草知識】【植物知識】【異世界言語知識】【算学】

 【跳走】【滑走】【怒り】【気合】【忘我】【野外生活】【探索】【発見】

 【気配察知】【狂騒】【挑発】

 【黄金鑑定】【俯瞰図】【透視眼】【???】【???】【???】【???】【???】


 第一章は4話で終了の予定です。

 毎日投稿ができなかったので、隔日を目標にがんばります。


 読んで下さってありがとうございます

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