04 オレ様、緑の小人を発見する
毎日投稿は大変ですね…
皆は労働というものをどう感じているだろうか。
労働。
労いのある働き。
報酬を求めて行う社会的活動。
オレは今まで誤解していた。浅慮と言わざるを得ない。
労働は素晴らしい!
日々、汗水を垂らし人のために働き、その成果が良ければ喜ばれ、感謝される。
ありがとう。お疲れ様。がんばって。よろしくお願いします。
どこにでもあるありふれた言葉の一つ一つが心を撃つ。
笑顔で笑いかけかければ、オレもまた笑顔で応じる。
「お疲れ様です。こんな丁寧な仕事をしてもらえるなんて思っていなかったよ」
「仕事をキッチリこなすのは働く者として当然の心構えですよ。気にしないで下さい」
今日の仕事は草むしりだ。
雑草は強く逞しい。だが、掃除するものからすれば大敵だ。抜いても抜いても生えてくる。上っ面の部分をとっても、根が残れば再生する。肝心なのは見えない部分なのだ。
根っこが散切れて土の中に残らないよう、一つ一つを丁寧に抜いておく。
「残っているものは花の咲く種類のものです。今は綺麗にしていますが、後から雑草が生えてきます。ですが、あの花の部分に生えてくることはありません。草だけのものをとっていけば、そのうちここは綺麗な花の群生地になるハズですよ」
「それは楽しみですね」
この世界では娯楽というものが限られている。
田舎といえば、娯楽と言えるものなどないに等しく。旅人に話を聞くか、美しいものを見て無聊を慰める程度のことしかない。
「こんなものしかないけど、どうぞ」
「ありがとうございます」
こうして仕事を果たせば、報酬とは別にものを贈ってくれることもある。
そんな善良で心優しい人へ、オレ様からのせめてもの感謝の気持ちだ。
だが、偽りの平和は長く続かない。
理不尽にやってきては、平穏を蹂躙する鬼の雄叫びが響き渡った。
「いつまでやってんだ!仕事が終わったらさっさと戻ってこい!修行だ!修行だ!修行だ!」
「オレは働きたいだけだ!決して、ヒゲから逃げようとしたわけじゃない!オレは人に尽くす喜びを知り、その喜びを分かち合いたいだけなんだ!だから離してくれ!」
「大丈夫。ダイジョーブだ。お前は立派な冒険者になれるさ。オレがしてみせる」
「頼むから仕事をさせてくれ!」
あの修行から逃れられるなら、24時間労働だってやってみせる。
●○○○●
「今日はこのくらにしといてやろう」
貫禄を感じさせる広い背中を見せて立ち去っていく。その姿は長年の経験に裏打ちされた威厳を醸し出していた。それを見てリチャードは思う。
「それはこっちのセリフだ。この恨みは決して忘れないぞ」
と、自身の心持ちを虫の息ほどの大きさで吐露し、今の自分のように地面に伏させて頭をグリグリ踏みつけてやろうと決心した。
毎日の心を復活させる儀式のような何かを心の中で終わらせると、リチャードは足を震わせて立ち上がる。鉄のように重くなった肢体を震わせて、剣を杖がわりにつつ木を目指して歩き出す。体を不自然に揺らして歩く姿はさながら敗残兵。生きること諦めなず不屈の心で故郷を目指す兵士だ。
おぼつかない足取りでたどり着いた場所は森の入口。
修行が始まって以来、彼が住むことを強要されている場所だ。近くには焦げ付いた焚き火の跡があり、その近くには土を盛り上げて作った台座がある。生活の場の横を素通りすると、ひときわ大きな樹の根本に腰をおろした。
片足を山なりに曲げ、いつでも立ち上がれるようにしておく。
「だんだん地獄の時間が長くなってきてるよな」
それだけ自分が成長した証だ。初日よりも長く戦い続けることができるようになった。剣の重みに体が振り回されるようなこともなくなった。
自分が成長していると感じることは素直にうれしい。
それに加えて自分の努力が明確な成果となって目に現れることは、気持ちを前向きにしてくれる。
日課の一つ。
ギルドで作成したカードを確認して、一日の成果を確かめる。
・サンタロー・サトー
【種族】ヒューマンLv1
【自称】来訪者Lv5 探索者Lv7
「あー、いよいよLvが1になったか。いずれあのヒゲを倒せば解決する話しだな」
種族Lvの減少だけが残念だが、後のことには概ね満足していた。
リチャードは頭の中で、ここ数日で手に入ったLvに関する情報を整理する。
・この世界においてLvは上下するものである。
・種族Lvは戦闘の勝敗に応じて上下する
・スタイルLvは使用頻度によって上下する
・Lvが高いほど昇格が難しくなる
「こんなもんだな。にしてもこの【来訪者】ってのは何だ?変更不可な上に、効果が不明とか地雷に決定だな。他にもいろいろ言っていたような気もするけど、記憶にないなら大したことじゃないんだろ」
一方で、彼の使う【探索者】の効果は知覚系スキルの性能向上だ。
【探索者】→【探検家】→【冒険者】と成長するスタイルであり、本当の意味で【冒険者】と言うことができるのは、一部であるとリチャードは聞いていた。
「さて、Lv上げのためにも火種を取ってくるか」
【探索者】のLvを上げるために最も有効なことは、スキル【探索】【発見】【野外生活】だ。
【探索】は周囲の地形の調査。【発見】は探し物。【野外生活】はそのまま屋外での生活。それらによって成長するスキルだ。
リチャードは森の入口から奥へと入り込み、じりじりと自分の知っている範囲を広げていく。枯れ木や食べられる草木、木の実を探す。
Lv上げのためでなかったなら、3日と待たず止めていたに違いない。
自分でそう思うほどには、リチャードは自覚的であった。
それが10日。
初めは胃袋が鳴き声を上げる日々も大幅に変化があった。雑用クエストを受けることによって村人と接点が生まれ、その一人がリチャードのやつれ方を見るに見かねて食料を差し出したためだ。
――それじゃ、スキル上げにならならいだろうが!
リチャードの行いを戒めるラオットの言だが、腹が減っては訓練もまともにできないため、大目に見られている。
それでも成長期の盛りにある少年の体には足りない。
彼が求めているのは肉だ。油っぽさを感じさせないさっぱりした鶏肉だとか、豚肉だとか。パンパンに太らせて脂身たっぷりの牛肉だとか。とにかく彼は肉を欲していた。
「っち、獲物はなしか」
ラオットに習った【罠設置】も、未だに効果を見せていない。獲物を捕まえるために用意した餌だけカッ浚われている。
木の枝とツルを組み合わせた罠の残骸がリチャードの視線の先で揺れている。
そのとき、地面に落ちた葉のすれる音がした。
背中の武器に手をやり、音源を探る。
街の近くと言えど、獣は存在する。むしろその獣を探してリチャードは歩いていたのだ。
「肉かっ!」
逃げられないように息を潜め、探り果てたその先には緑の小人がいた。
正確には緑色の肌の小人だ。髪はなく禿頭で、大きな目と腰みのが特徴的だった。
リチャードの腰より少し大きい程度の小人は、何やらうれしそうに笑みを浮かべていた。
ハチャメチャに両手を振り回し、腰よ左右に降っている。
「ゴブゴブゴブゴブゴブ」
その鳴き声を聞いたリチャードは思った。
なんという古典!さすが異世界だ!そしてザコは勇者の経験値になると相場が決まっているのだよ。
何よりあの動きはキモい。見ていると頭が沸きそうだ。
目の前の珍生物をゴブリンだと判断した。リチャードは二もなく、ゴブリンに斬りかかった。背中の鞘から取り出し様に、振り下ろしの一撃。
リチャードに気づくことのなかったゴブリンは、肩から縦に切り裂かれ青い血を流して倒れた。
「うわっ!まだ笑ってやがるのか、キモっ。ゴブリンの笑顔なんか気持ち悪いだけだな」
悪態を付きながらも、内心ではファンタジーにおける入口とも言えるゴブリンを倒したことの感動で、胸をいっぱいにしていた。
次に興味を持ったのは、一つの物体。
「キノコだよな?」
森にきてついぞ見ることのなかったキノコが、ゴブリンの頭に生えているのだ。
明らかに怪しい。
「魔眼【黄金鑑定】発動」
手で顔を覆うという不自然な流れで、スキルを発動させる。
リチャードの右目が金色に輝き、視界に情報を映し出した。
【緑の小人 新鮮 1000ダラ】
【野外生活】において、最も役立ったものがスキル【黄金鑑定】だ。名前さえ覚えれば、似通った植物の判別ができ、食料や薬草となるものを心配なく集めることができる。
一食が100~300ダラの街において、1000ダラはすなわち1~3日分の生活費足り得た。
売れば金が手に入る。が、しかし修行という名目でリチャードの金は全て師匠であるラオットの手に握られていた。
「ヒゲの酒になるくらいら、いっそ」
食べてしまおうか。
いや、何を考えてるんだ
これはゴブリンの頭から生えてるんだ。どう考えても異常。普通じゃない。危険だ。
よく考えるんだ。緑の艷やかな笠。プックリと膨れている白い柄。中々に、おいしそうじゃないか。
空腹というものは、人の頭から知性という、人を人足らしめるものを吸い取っていく。
「ひ、一口くらいなら大丈夫だろう。そうだ、味見だ。これが本当においしいものかどうかわからないのだから。見つけたオレ様が味見をしておくのは当然のことだ」
いや、しかし。キノコ毒は危険だよな。
「やっぱり食べるのは止めよう。ヒゲに聞いてからにするかってハッ!」
リチャードの手の中に収まっていたキノコの笠は、すでに欠けていた。
「誰が一体こんなことを、だが口の中に広がるジューシーな味は一体!」
モグモグと口を膨らませるリチャード。
「まったくけしからん。けしからん。人を狂わせる魔性のキノコめオレが処分してくれモギュモギュ」
そうしてリチャードの口と胃袋が膨れていった。
「これでは食い足りない。もっとだ、もっとキノコだ。」
久しく満たされていなかった胃袋が、キノコに味を占めて騒ぎ出す。
もっとくれ。もっとよこせ。もっと食べさせろ。
強く飢餓感に苛まれるリチャードの感覚はいつしか鋭利に研ぎ澄まされていた。普段なら聞こえないような音や匂いも察知することできる。
気がつけば、そこらじゅうにゴブリンがいることに気づいた。同じようにキノコを頭に生やしているに違いない。
「キノコをよこせ!」
修行の成果を感じさせる見事な剣さばきで、謎の動きをするゴブリンを屠り続ける。倒したそばから、頭に生えているキノコをもぎ取り、かぶりつく。
「キノコ、きのこ、茸、KI・NO・KO」
そうしてゴブリンたちを殺し続ける中で、彼はとあるものを目にした。
「君ってカッコイイね」「さすが獅子王様、王様だよ」「赤いマント」「白銀の鎧」「黄金の剣」「さすが魔王を倒した英雄だね」「もかもかポイポイだね」「そこに痺れる憧れる~」「電柱でござる」「サルバトーレ!」
小人がいた。
コブリンのような醜い顔ではなく、愛らしい子供のような小人たちが自分の周りにいる。
そいつらはオレを称えている。
思わず手を見ると、白く輝く鎧で包まれていた。背中にあるものも、あのボロっちいマントではなく、獅子の文様な縫い込まれた重厚な赤いマントだ。剣はオレの背ほどもある黄金色に輝く剣。
「これぞーエクスカリバー!」「勝利のお約束だね」「出てくかも~」「あなたがマスターですか?」「妖精の国にようこそ!」「ボクらの国によっといで」「王様になって~」「可愛い女の子もいっぱいだよ」「お金も」「地位も」「名誉も」「みんなあるよ~」「置いてあるよ~」「飾って割って薪にするよ~」「ゴブリンを倒すと1の経験値が入るよ」「レベルアップだ!」「【気配探知】を獲得しました」「【狂騒】を獲得しました」
ああ!最高の気分だ!
「よ~し、オレ様に続け!」「ガッテン承知」「進軍だ!」「攻めろ攻めろ!」「世界征服だ!」「百万の軍勢だって倒しちゃうぞ!」「うわっ!なんだあいつ!」「オレは王様だ!」「このお方を誰と心得る~」「謎の未確認飛行物体を発見!」「正気に戻れ!」「ツチノコは実在します」「お姫様いませんか~、いたら返事をしてください」「ひとつ1億円です」「ハイル!イルパ○ッツォ」
今のオレにならなんだってできる。
千里を一日で走ることだって!
山を持ち上げることだって!
空を飛ぶことだって!
ドラゴンに勝つことだって!
魔王を倒すことだってできる!
「いくぞ魔王!今日こそお前を倒してやる!」
オレ様は、緑の小人の軍勢を引き連れて、どこかで見たヒゲ面の魔王へと戦いを挑んだ。
読んでくれてありがとうございます。
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