世界の真実、世界の始まり
これが始まりだった、世界の始まりだった、そして、全てのこの終わりだった………………
ありきたりな冒頭であり、あまりにも唐突なことですまないのだが……。
僕は死んだ。
いや、人間いつ死ぬかなんて誰一人解らないのだから死が唐突に訪れるのは至極当たり前のことなのかもしれない。
結果から述べるとあの日僕は死んだのだ。
あの日は、丁度高校一年の一学期終了式の日だった。部活動とは縁のない、平凡な男子高校生である僕は、学校ですることもなく、また、友達と遊ぶでもなく、帰路に着いたのだった。
そこまではいつも通りだった……。僕は偶然見てしまった。いや、これは必然だったのかもしれない。例え、これから起こることがこの時分かっていたとしても、避けることは出来なかったのだろう……。帰り道にある桜第一公園なんて、どこにでもありそうな平凡な名前の、そして、そこは本当に平凡な公園だった。そんな平凡な場所で非凡な彼女を見つけてしまった。
美笛桜成績優秀、スポーツ万能、その上、モデル並の体型に整った顔という非の打ち所のない彼女が新緑に染まる桜の木を撫でていた……。
ひどく美しかった。今まで彼女ほど美しい女性を見たことがなかった。一目惚れだった。ひとつのシワもない桜の木を連想させる眩いまでのピンク色の長髪に、まるで宝石のようなこれもピンク色の目、透き通るほど白い肌に、やはりほのかにピンクな頬。僕はじっと見つめてしまった……。僕の拙い文章力では描写することの出来ない、彼女を。
「あら、そんなことないわよ。綺麗に出来てるわ。」
僕は話しかけられてしまった。いや、じっと見つめてしまったのだから当たり前なのかもしれないのだが。だが、彼女を見ていたのは、ほんの数秒の筈だ。彼女はずっと桜の木を見ていた筈だった。なぜわかったのだろうか。
「何故って顔してるわね。」
何故なのだろう?さっきから僕の気持ちが読まれている。
「答えて上げましょう。それはね……私が美しいからよ。」 ?、何を言っているのだろうか。この女には、確かに僕は綺麗な人だと思って見とれてしまった。だが、こんなに堂々と私が美しいなんてゆう女がいるのだろうか。それも初対面の男に……。わからない、僕は家族と妹と必要最低限の会話をするだけで他の人とは普段会話を交わすことはない。一般の女子高生とはこういうものなのだろうか?
「何!反応悪いわね、この私があなたなんかに話しかけてあげているのよ。何か言いなさいよ!」
やはり、この女は美笛桜だ。成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗でありながら一人も友達がいない美笛桜だ。友達のいない僕でさえ知っているほどの有名人、常識はずれのナルシストの中のナルシスト……。僕は関わらないことを決めた。
そう、これが彼女との出会いだった。そして、これからの物語を話していく上でこいつの説明をしておく必要があるので、ここで話しておこうと思う。
美笛桜、年齢17、所属部活動、陸上競技部、成績は常に学年トップ、インターハイ3位……。これが彼女の表向きの顔だ。しかしながら、彼女は学校の顔なのである。良い意味でではなく、問題、という意味で、ここで僕が入学したての4月の出来事を話そう、あれはようやく新入生が学校に馴染んできた頃だった。僕は例のごとく、友達がいないので一人で下校してしまったため、直接見ることは出来なかったのだが、7時のニュースで見ることとなった。ニュースの内容はこうだった。5人組の男が市内の大手銀行に強盗に入り、現金8000万円をトラックに積み込み逃走した。そのトラックを釘などを撒き散らし、タイヤをパンクさせ停止させ、周りに石油をばらまき発火させた女子高生それが美笛桜だった。奇跡的に犯人達は軽い打撲が二人火傷が3人という結果で済んだが周りには大変な被害が出た。勿論、普通は裁判沙汰になるはずたが特に大きな問題にはならず、これが彼女の仕業だということも学校側は隠した。もちろん、そんなことはすぐばれて
しまうわけで、美笛桜は政治家の娘だとか社長令嬢だとかそんなような噂が飛び交ったが、あくまでそれらは噂であってあいつが何者であるかを知るものは一人もいない。あいつに対してわかっているのは、絶対に近よってはいけない存在ということだけだ。
そんなこんなで、この物語は僕と美笛桜との出会いで始まったわけだ。この時既に物語は始まっていたのだ……。僕は知らなかった、自分が何者であるかも、この先待ち受けている悲惨な運命も。
「ごめん、僕用事があるから。」
うん、きっとこれで大丈夫だろう……。そう思った僕が愚かだった。そう彼女は美笛桜なのだ。あの美笛桜なのだ。
「ねぇ、あなた。」
「えっ…僕で、ふか?」
声が裏返ってしまった。
「あなたしかいないじゃない。」
ヤバいヤバい、僕の中の危険信号がもう黄色から赤の点滅に変わっている。
「ねぇ、分かってるの?貴方は話し掛けてもらったのよ。このあ・た・しに!」
話し掛けてなんて頼んだ覚えはない!!……あっいや少し思ったが。でも、それは『普通の綺麗な女の子』だと思ったからだ。『異常な綺麗な女の子』ではない。しかも学校一の変人なんてまっぴらだ!
「うん、そうだね。それが?もう僕用事あるから行くね、じゃあ。」
逃げる、逃げる、全力で逃げる!僕は面倒事が一番嫌いなんだ。こんな奴に絡まれてたまるか!僕の平和な生活は必ず守る!!
「はぁはぁはぁ……。もう大丈夫だろう。」
「ねぇあなた?」
「へっ!?」
何故だ?何故この女がいる!?そう僕が逃げた先には彼女がいた。美笛桜がいた。
そんなバカな僕は彼女より先に走り出したのだ。全力で……。
「ねぇ何で逃げるの?人が話し掛けてるのに、逃げるなんて失礼よ。それも、あ・た・しを無視するなんて。」
あなただから逃げたんですよ。
僕は小声で愚痴っていた。
「あら、何か言った?」
なんでコイツはこんなに態度がデカイのだろうか?
「いや、何も言ってないよ。」
はぁ、僕は何をしているのだろうか。そうなのだ。コイツは美笛桜なのだ。やはり、美笛桜なのだ。間違うことはけっしてない。そうコイツは変人だが、容姿端麗、スポーツ万能、成績優秀であるのだ。しかもコイツは陸上部の期待のエースだ。僕のような非運動体の人間が逃げきれるわけがない。必然だ。先周りされていた。僕はいまでも肩を上下動させて、はぁはぁって変態かよっ!って言われるくらい疲れているのに、この女は息を乱していないどころか汗ひとつ掻いていない。いくら僕がヘタレだとしても、男が全力で逃げたのだ。コイツの恐ろしさが段々と僕の中で膨れ上がっていく。
「何で逃げるのかしら?」
うわっマジでわかんないんだ……。
「いや、だから用事があるんで……。」
「あなた逃げたわよね。」
くっ、なんだってこの女は鈍い上にドSなんだ。
「に・げ・た、わよね?」
「…は い。」
駄目だコイツから逃げることなんて不可能なんだ……。
こいつは美笛桜なのだから……………………………。
――――――――――――
「はぁ……………。」
僕はベッドの上でため息をついていた。すっかり太陽は綺麗なオレンジの光を町中に煌めかせている。
「なんだってこんなことになった。」
僕は右手の高に刻まれたフォルティシモを見つめていた。フォルテよりもさらに強いその記号を……。
あの後のことを語りたくないがために、ここまで引き延ばしたわけだが、これを語らずには先に進めないので話そう。僕の不幸を、僕の終末を。
「じゃあ、逃げた理由を聞きましょうか。」
あの後、僕は一つの廃ビルに連れられてきた。廃ビルという表現が適切かどうか甚だ疑問なのだが、何せこの建物は地下にある。僕が住んでいるこの町には大きな貯水炉があるのが、まず、あの公園の桜の木のすぐ近くにあるマンホールから階段を使い貯水炉の業務員用通路に降りて、そこから壁をたどっていくと一つの階段が見える。
「神よ、我が御霊に応じ我々を導き拾へ……。」
彼女はそんなようなことを唱えていた。その後だ。壁が縦に割られ一つの町が現れた。
「ここは?」
「世界の狭間とでも言うのかしらね。」
はい?なんですか、このデンパさんは?いや、さっきからやたら厨二臭いし……。こいつは危険だ、早く逃げなければ。
「えっ!……………………………。」
僕の横を何かが通過した。いや、確実にその何かはヤバいものだ。何故かって明らかに僕の人生で見ることのない、火焔が両脇を過ぎ去ったのだから……。
「のわっ…つっ、いてぇ。」
僕は爆風で五メートル程吹き飛ばされていた。
「ちっ、何でこのタイミングで物理学者なのよ!」
はい、ふぃじしすと?なんすかそれ?いったいなに、なんなのこれ冗談でしょ?
「これはこれは、断罪の四月、桜様ではないですか!これは光栄です……。私がここで消してあげましょう!私は、物理学者ドリトロル・リフレクト・ライトリフトと申します。称号名は天界のギバーです。この名に誓いあなたを」
「ペラペラと煩いわね。死ぬのはあなたのほうよ!」
「12の神よ!我が願いに応え敵に断罪を与えよ!」
桜の足下から光の柱が生まれ、リフレクトを包みこんでいる。光の柱からは力の暴発が起きているように大地を焼き払っている。
「ちょっなんだよこれ!」
「黙りなさい!あなた目を逸らせば死ぬわよ!」
死ぬって……。おいおい、何の冗談ですか?
「はははっ!私に対して光とはっ、陰月の異名もこんなもんですか!」
桜が放った光の柱を真っ正面から受けたはずのリフレクトは無傷だった、光の柱を巨大な凸レンズのようなもので屈折させ軌道をずらしている。
「私はあらゆる攻撃を反射する、あきらめて殺されなさい!」
うわっ、ヤバい桜もろとも僕は死ぬ……。逃げる!
「逃げるな!たくっ、こんな雑魚が怖いなんて……。あなたは私達の指揮者に選ばれたのよ。」
何の話だよ!
もう、町の6分の1が燃え尽くされている。この出力を耐えきるなんて、この白衣を着たインテリ眼鏡化け物だな!桜もだが、なんなんだ。
「そろそろ反撃に移りますよほほぉー!」
「くそぉ!このインテリ眼鏡テンション上がって語尾までおかしくなってきやがった!」
「黙りなさい!」
インテリ眼鏡は凸レンズを四つ中に浮かべ、中でも一番巨大なものを正面に向かって打ち出した。
「くらいなさぁぁぁい!!リフレクトおぉブーメランwith全反射あああ!」
ネーミングセンスねぇ!!
3つの凸レンズと全反射された光の柱が桜を襲う。
「詠唱を防いだくらいで調子に乗るんじゃないわよ!あんた!早く振りなさい!」
桜は僕にタクトを投げてきた。そう、僕に。
「はい?こんな物でどうしろと?」
「いいから振りなさい!」
桜は鬼のような形相で僕をにらんできた。
「えい!!どうなっても知らないからな!」
すぅっと桜が息を吸う、彼女の口から一つの唄が紡ぎ出される。
光の柱が綺麗な黄色から澄みきった青に変わっていく。その上、僕のタクトはまるで光の柱に呼応するように青に光輝いている。
「そんなもので私の反射を防ぐことは出来ませんよ!」
リフレクトの凸レンズはまるで鎌鼬のように桜を切り裂こうと迫ってくる。あれを喰らえば間違いなく八つ裂きになるだろう。
「防ぐんじゃないわ……壊すのよ。」
桜の手から3つの閃光が走る、その閃光はリフレクトの凸レンズを一瞬にして水が蒸発するかのように焼失させた。
……………。
沈黙が起きる。この世界に音がなくなってしまったようだ。
「馬鹿な……。私の凸レンズはプロミネンスさえも弾き返すというのに!くっ
そぉぉぉぉぉぉぉぉおお!だが、指揮者には死んでもらう!」
桜も油断していたのだろう。僕はその場から一歩たりとも動くことが出来なかった。リフレクトは凸レンズではなく、無数の球体を作り出した。それらが全て僕に弾丸のように打ち出される。
「はっふえっ!?」
僕は間抜けな言葉が口から出ただけだった。
「何してるの!!」
僕は見ていた。何が起こったのかは、わからなかった。ただ気づいたときには桜が血だらけで倒れていてリフレクトの頭はなかった。
桜は死んだ。まるで薔薇が散ったように赤く赤くどこまでも赤く血の花が咲いていた。
「これは、夢だ。そうだ!夢だ!だってあり得ない!あり得ないでしょ!辞めろよ!冗談だろ!ははは…………。ありえねぇだろうが!!起きろよ桜!馬鹿にしてんのか!仕組んだだろ!おい!」
僕は叫んでいた。人の死を初めて知った。見た。耐えられなかった、怖かったのだ。
「冗談でもなければ、仕組んでもいませんよ。」
「誰だ!!」
僕は震えていた。あまりに非現実的過ぎて、頭が追いつかない。そんなことお構い無しにその男は現れた。
身長は二メートル近くはあるだろう長身で、少しキツメのスーツを着込み、大きめのサングラスをつけた厳つい男だった。
「そんなに厳しい顔しないでください。何もあなたに危害を加えるつもりはありませんよ。」
「ひっ!嫌だ、来るな、近づくな!」
まだ、戦いの残り火が辺りを包んでいる。熱風が顔に吹き付けて妙に気持ちが悪い。その男は怯える僕を全く気にすることなく、近づいてくる。
「まぁまぁ、落ち着いて始めに言っておくけど彼女、そう君が桜と呼んでいた少女はまだ生きてるよ。」
…………………?