プロローグ
気がついたら暗く霧につつまれた場所にいた。
記憶がない……。そう思った。いや、そうだと断定した。
「ここはどこだ?」
辺りを見渡してみると、不気味な生き物やその死体があった。
「僕に似ている……?」
その生き物たちは自分に似ていた。みんな同じような顔をしている。
首から手が生えたもの。
頭が2つで足のないもの。
背中に頭があるもの。
と、どれも見ていると気分が悪くなった。
「おまえは生きているのか?知識があるのか?」
突然声が聞こえた。
「だれだ?」
「知識はあるようだな。私はお前を創ったものだ」
……!?意味がわからない。記憶はない。でも知識はある。でも、理解はできなかった。
なぜなら人は生まれてくるものだ。創ることはできない。
「理解ができないと言った顔だな。しかし無理もないだろう。……私は神族だ。神ではないが神になる権利のあるものだ」
「なっ!?」
神の力で創ったということだろうか。たしかに知識にはそういったものがある。
「お前が僕を創ったのはわかった。……が、何のために僕を創った!?」
天に向かってそう叫んだ。しかし天は僕の知識にあるようなものではなかった。暗く、光さえも飲み込んでしまいそうな……、そんな光景だった。
「創った理由……それは私の弟を殺してほしいからだ。……わかりやすく言おう。例えば国があるとする。そこには国王がいる。そして子供もいる。子供は2人。兄は国のことを考える優秀な子供。しかし弟は自分の欲のために権力を使うような子供。一般的には後継者は国のことを考える兄の方だろう?しかし国王は弟の方がかわいいと言って弟を後継者にしてしまった。そして国王は死に、弟が国王となった。おかげで、国は大変なことになっている。それがこの世界で起きている。だから私は弟を殺すことにした。神になるには弟が死ななければならないからだ。しかし、神の弟は私の力ではどうにもできない。私が直接殺せば神にはなれなくなるからだ。だから最初は人間を使った。しかし神は自分の創ったものを消すことができるため、創られた人間では無理だった。だから私自身が人間を創ろうと思ったが、人間は神にしか創れない。だから人間ではないものを創ることにした」
「まさか僕が……!?」
僕は自分の手を見た。しかし、僕の知識の中では人間と同じだ。
「そうだ。しかし私は親に神の知識を教わっていない。だから何度も失敗した。お前の周りの生き物はその失敗作だ」
「――!」
僕はそう言われて辺りを見渡した。僕に似ているのも納得はできる……。
「別にやりたくないと言うのなら、やらなくてもよい。また創るだけだ」
「……考えさせてくれ」
「いいだろう。気が向いたら話したいと祈ればよい」
……確かに世界が滅茶苦茶になるのは困る。でも、神を殺す……?そんなこと、できる自信はない。悩んでも答えは見つかりそうにはなかった。
「おい……」
後ろから声が聞こえた。振り向くとちゃんとした体の、やつれた僕がいた。
「……あいつの言うことには従ったほうがいい。……僕みたいな失敗作が……またたくさん創られる。
ちゃんと生きることのできない……ただ死ぬを待つだけの存在が……ケホッケホッ……はぁーはぁー、
ぐはぁっ……これからそんな存在が生まれないためにも従ってくれ……」
咳き込み、血を吐くその姿からはとても説得力のある言葉に聞こえた。
「お前は生きることができないのか?」
「ああ……僕は自分でエネルギーを作ることができない……だから他の生き物からエネルギーを吸収するしか……ない……他から奪ってまで生きたいとは思わない」
「……そうか」
しかし、説得力はあっても僕の気持ちは変わらない。
「……僕を助けて……くれるか?」
「え?」
「あいつが神になったら僕は……僕たちは普通になれる。……だから神を、みなの為にも殺してくれ……」
その言葉を聞いて僕は決心した。みんなを助けるために神を殺すと!