第六話~絶望ってこういうこと~
ノアや、護衛の人達のおかげもあり、村人全員が誰ひとり死者を出さずに避難所に逃げてこられたのは、奇跡と呼ぶのに相応しかった。
今は工場のような避難所で、魔物が立ち去るか、アリオンからの救援がくるのを待つだけだ。
幸いこの避難所には、数日分の食糧が保存されており、数日だけなら過ごせる環境ではあった。
「お兄ちゃん、怪我してない?」
「ん、平気だよ、それよりノアは平気か?」
「平気だよ」
ノアはそう言いながらも疲れた表情を隠すように笑っていた。今日は学校に行っていたというから、もしかしたら魔力があまり残っていなかったのかもしれない。
それに今一番の問題は気温だ、今の季節がなにかはわからないが、深夜でこれだけ冷え込んでるのはまずい、といってもかけるものもないし、どうしようもないのが現状だ。
ちらっと親父達を確認すると、バカップルのように抱き合っている。
こいつら……と一瞬呆れ賭けたが、隣で震えているノアを見て、カイルは心頭が揺さぶられた。
「……! お兄ちゃん?」
「……」
肩を抱き寄せてきたカイルに、ノアはその意中を聞こうとしたが、顔が真っ赤になっているカイルには、そんなことを返せる余裕などありはしなかった。
ノアはカイルの胸の中で小さく微笑むと、安心したように一言だけお礼を言った。
「……ありがとう」
――よかった、ぶっとばされるかと思った……
急に抱き寄せてきた時にはどうすればいいかわからなかったが、案外うまくいくものだな。
「な、なぁ突然静かになってないか?」
唐突にだれかがそう言った。
それが誰かはわからないが、そいつの言った通り、さっきまでうるさいほど聞こえていた狼の鳴き声や足音が、一切止んでいた。
「も、もう諦めたんじゃないか?」
「そ、そうかな?」
「いや待て! もしかしたら待ち伏せしてるかもしれない、少なくとも朝方までは待つべきだ」
「で、でもここ寒いし」
「寒いのくらい我慢しろ! 死にたくないだろ!」
護衛役の一人である、体格の良いおじさんが怒鳴った。
確かにあの人の言うとおり、ここは慎重に動いておくべきだ。たしかにこの避難所にいればあの魔獣達が入ってくることはないかもしれないが、こちらから出ることもできない。助かったと思っていたけど逆に追い詰められたのはカイル達の方かもしれない。
やはりアリオンからの救援を待つのが一番安全だ、だがそれまでこの寒さの中待ち続けるのは限界がくるかもしれない。
カイルが冷静に今の状況を分析していると、さっきの護衛の人がみんなの前に出た。
「みんな! 落ち着いて聞いてくれ! 外にいる魔獣の数は約20程だった。 数匹が村に襲いかかってきたとしたらすぐに諦めて森に帰るだろうが、だが集団で襲ってきたのを見る限り、そう簡単に離れるとは思えない」
「じゃ、じゃあ俺達はここに閉じ込められたってことじゃないか!」
「落ち着け! 確かに見方をかえればそうだが、ここが安全なのも事実だ! やはりここはアリオンからの救援が来るまで待機していた方がいいと思う! アリオンは一日たっても護衛が戻らなかった場合は救援にくるということになっている! 少なくとも一日まてば助けが来るはずだ!」
「そ、そうね! みんなでがんばりましょう!」
護衛の人の言葉を聞き、村人全員の士気が上がった。誰もこの案に乗らない者はいなかった。
やっぱりこの護衛の人はかなり頼りになる。カイルだけじゃなく、そうみんなが思った瞬間だった。
バゴンッ!
突然扉が壊れた。
いや、違う正確には破壊された。
全員が悶絶して茫然と壊れた鉄の扉を見つめた。
壊れた鉄扉の奥から出てきたのは、狼ではなく、人の二倍の大きさはあり、顔が牛のような魔獣、いうなればミノタウロスのような化け物だった。
その化け物が大きなハンマーを肩に乗せ、やれやれと言った感じで喋り始める。
「まったく、帰りが遅いと思ってきてみたら、こんなところに隠れやがって、少しはこっちのことも考えろよなぁ人間」
恐ろしいまでに低い声で放たれた言葉に、村人はもちろん、護衛の人まで焦りを顔に出していてる。
安全と思っていた避難所は、今やただの監獄でしかない。出口は壊された一ヶ所のみ、奴らから見て、ここは食物庫のようにうつっているのだろう。
どうする? せめてノアだけでも助けてやらないといけない、カイルは頭の中で案を考えた。
だがどんなに考えたところで、行きつく先は死しか見えてこなかった。
「まったく、なぜヴェル様はこんな村を警戒していたのか……」
ミノタウロスは意味深に呟くと、担いでいたハンマーを地面に刺した。
いつの間にか集まっていた狼達が、ミノタウロスの後ろでじっとこちらを睨んでいた。まるで餌を与えられるのを待っているように、口から涎が垂れ流れている。
「まぁいい、どのみちこれを報告すれば、きっとヴェル様も喜んでくれるはず」
その大きな太い腕を大きく上にあげる。
「では、そろそろ死んでもらおう、人間」
そして大きく振り上げられた腕が、こちらに向かって振り下ろされる瞬間――
「やめろ」
その場の誰からでもない声が鳴り響いた。
ミノタウロスはその言葉に反応し、勢いよく後ろを振り向いた。すると一瞬体を震わすと、まるで執事にでもなったように道を開ける。
全員が助かったのか? と考えながら扉を見つめる。外はまだ闇に染まっており、その中に居る者を見ることはできない。
そしてそれは、小さな足音をたて、やがて姿を現した。
美少女だった。
腰まで伸びている漆黒の黒髪、小さい人形のような愛らしい顔、完璧すぎるプロポーション、雪のように白い肌、宝石のように赤い瞳、文句のつけようもない大和撫子だ。
しかし、カイルはもはやそんなことを考えてはいなかった。
体中から嫌な汗が流れていくのがわかる、気分が悪い、きっと自分は今、顔面蒼白だろう。
だがそれも仕方がない、なぜなら妹、自分を殺した妹、宮代静香と瓜二つの姿をしていたのだから
とりあえずここまで書きましたが、正直続けようかどうしようか迷っています。
ファンタジーはやはり難しいですね……
もしよろしければ感想や、こうしたら良いなどのアドバイスがあればうれしいです。
それによってはスパッと打ち切りにして、ヤンでれ……に専念しようと思います。
だけど書くことはやっぱり楽しい!! よろしくです!