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第四話~5年の月日~

 ズドン!


「おふっ!」


 最初のタックルでの攻撃に加え、後ろに倒れた時の衝撃のダブルパンチに思わずお腹の中のものをリバースにしそうになった。


 マイクの商品達を下敷きにしないように、咄嗟に横に軌道変更したのはぜひ褒めてほしいぞ。


 カイルは突然飛びかかって来た、例の天才学生に目をやる。今だに顔をお腹に埋めながら、がっちりと両手で腰をホールドされている。


 ぎゅううううううううう!


「…! あ、あの、く、苦し!」


 すると彼女は一瞬ホールドを時、ハッと顔を上げた。長い金髪から良い匂いがふりまかれる。


 彼女と目が合うと、次の瞬間、


「……うわあああぁぁぁn!」


 綺麗な瞳から涙を滝のように流しながら、大声で泣き始めた。そして自然とホールドしているた腕に力が込められる。


 バキッ♪ ボキッ♪


「ぎゃあああああああ!!」


 こんな綺麗な腕に、どうしてこんな万力のような力があるんだい? とかどうでもいいことを考えながら、カイルの骨と意識は音を上げて崩れ去ったのだった。


 

「……最近この天井良く見るよな~」


 そんな呑気なことをつい口から漏らしながら、見慣れた自分の部屋の古い木の天井を見上げた。


 どうやらかっこ悪くも気絶してしまったカイルは、自分部屋のベッドへ強制送還されてしまったらしい。まだ目覚めたばかりでぼーっとしているが、何があったのかははっきり覚えていた。


 金髪の可愛い女の子にボディーアタックから、絞め技をかけられたことだ。


 そういえばさっきからお腹のあたりにすごい違和感がある。さっき強力な技を食らってしまったため、ダメージがひどいせいだろう。


 腹の具合を確かめようと、手を乗せる。


――……なんだこれ? サラサラしてる

 

 今だ覚醒しない頭を持ち上げ、触れているものを目で確認する。

 

――……ラーメン?


 美しい金色の麺が、布団いっぱいに広がっている。なんでこんなところに麺が? と思っていたのは5秒ほど、その後、金色の麺がラーメンじゃないことに気付いた時には、既に奴は目覚めていた。

もちろん奴というのは、腹の上で頭を乗せて寝ていた天才学生だ。まじかで見ると、その可愛さが良く分かる。遠目で見た時は、可愛いというより美しいという感じが強かったが、近くでみると、まだどこか幼さが残っていてとても可愛らしい。


 こんな子の髪をラーメンと見間違えるなんて……数秒前の自分にラリアットをぶちかましたい。


 そんなことを本気で考えていると、目を擦っていた優等生と目が合った。


 何を言っていいのかわからず、慌ててなにかを言おうとした。


「えっと、おはよう?」


――なんで疑問系なんだよ……


「……」


 カイルの言葉に反応せず、ただぼーっとこちらを見続けている。目と口を半開きにしているのを見ると、まず間違いなく寝ぼけていることがよくわかる。


 それでもこんだけ可愛かったら許せるな、おばさんがこんな顔してら地面へ叩きつけるけど


 しばらく天才学生の寝ぼけた顔を堪能していると、やがてはっきりと目を覚ましたのか、彼女は一瞬びくっと痙攣を起こし、こちらをはっきりと認識した。


 泣いていたのか、彼女の目尻は赤くなっている、ついでに鼻水もちょこっと出ていた。


 見つけ合うこと数秒、居たたまれなくなったカイルはもう一度声をかけることに、


「えっと、おはよう?」


 なぜか疑問系で返すと、彼女はすぐに涙を流し、そして叫んだ。


「うわあああああぁぁん!!」


「ぐふっ」


 ついでに抱きつかれた。それはもう痛いくらいにね。


「って、ストップストップ!」


 フジツボのようにべったり抱きついていた彼女をなんとか両手で引き剥がす。このままだと再び意識をもっていかれそうだったからだ。


 なんとか剥がれた彼女を落ち着かせ、話せる状態までもっていくことに成功した。それでもまだえぐえぐと涙は流しているが、気にしないことにする。


 とりあえず彼女が誰であるかははっきりさせておかないといけないと思い、優しく声をかけることにした。


「ねぇ――」


 バタンッ


「息子よーーーーーー!!」


「カイルーーーーーー!!」


「ぐはっ!!」


 突然扉が開いたと思ったら、今度は母と父が部屋に乗りこみ、抱きついてきた。


 訳がわからないけど、とりあえず腹が痛いことだけはよくわかる。


 なぜか泣きながら抱きついてくる両親を、とりあえず乱暴に引き剥がした。


「母さん! 父さん! どうしたんだよ一体!」


「どうしたじゃないだろーーー!!」


「ぢんばいしたんだがら~」


 腕で涙を拭いながら叫ぶ親父に、泣き過ぎで声が変わってしまっているお袋を見て、本格的に訳がわからなくなってきた。


 だがそれも、すぐに、いやでもわからされることとなった。


「当たり前だ! 息子が5年ぶりに目を覚ましたんだぞ! うれしいに決まってるだろが!!」


「……は?」


「ぞうよ! わだぢなんてうれぢくてうれぢくて……ああ」


「母さん? 母さん!? しっかりしろ!」


 なぜか突然倒れてしまったお袋を、親父がお姫様抱っこで、叫びながら部屋を飛び出して言った。


 一方カイルは、開いた口が閉じないというおもしろい顔をしている。


 親父の言葉を思い出して見る。


『当たり前だ! 息子が5年ぶりに目を覚ましたんだぞ!』


 修正


『息子が5年ぶりに目を覚ましたんだぞ!』


 息子=カイル


 結果『カイルが5年ぶりに目を覚ましたんだぞ!』


 ………

 ……

 …


「ええええええええええええーーー!!??」


――5年!? どういうことだ? 俺は確かに昨日ノアを助けて……もしかしてあれから5年もの間寝たきりだったってことか?


 そんなバカな


「でも……」


 それなら記憶の違いも説明がつく、一日で大きく変わったノアの部屋、記憶とは大分違う村の建物、魔法学校の話。そう考えると、お袋や親父が皺が増えて、少し老けていたような感じがした。


――だとしたらノアは? ノアはどうなったんだ?


 嫌な予感が頭の中で洗濯機のように回ったが、すぐに別の記憶が呼び覚まされた。それはごくごく最近聞いた言葉。


『お兄ちゃん』


それは優等生がさっきタックルをかましてきたときに叫んでいた言葉、何かの聞き間違いかと思っていたが、5年も経っていればあるいは……


――まさか……な


「なぁ」


 涙をごしごしとタオルで拭いていた彼女は、カイルの言葉に反応して顔を上げた。


「変なこと聞くかもしれないけどさ、もしかしてお前ってノア、か?」


「そうだよ? あ、そっか、あれから5年も経ったんだよね。私、結構変わったかな?」


 少し間を開けて、カイルは口を開いた。


「……変わり過ぎだ」


 結論、ノアは立派な美少女へと進化していたのでした。


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