第19話~それぞれの道~
キリが悪かったので、とりあえずキリがいいところまで投稿
学園での公式試合後、教師達に睨まれながらも、カイルとヴェルは何とか入学を許可されたのだった。
ようやく一難さったと思ったカイルだったが、そんなことおかまいなしに、カイルはまた一つ、あることに頭を悩ませていた。それは――
「納得できません!」
ノアが机をバン! と強く叩く。
「ん? 一体何が気にいらないの?」
「何って! なんでお兄ちゃんの部屋にヴェルも一緒に住むのよ!」
そう、それはカイルの暮らす部屋に、ヴェルも一緒に暮らすということについてだった。そしてそれを聞きつけたノアが、部屋まで殴りこんできたのだ。
「あら? あなた今さら何を言っているの? 学校の規則も忘れたの?」
ヴェルは余裕な表情で紅茶? を飲みながら指摘する。
ヴェルが言っている規則というのは、校則第3条、使い魔所有の生徒は、任務、授業、特別な時以外、常に近くに置いておく、または召喚しないこと。
とまぁこんな校則があるため、カイルとヴェルが一緒に住むことは仕方ないことなのだ。が、
「そんなことわかってるよ! 問題はなんで四人部屋を二人で使うかってことだよ!」
ノアの言う通り、これからカイルが暮らす部屋は四人部屋だ。だが同居人はまだ一人も見つかっていない。
ノアは部屋唯一の机をガンガン叩きながら抗議するが、ヴェルはまったく動じない。
「必要ないからよ、他の人間なんて」
「どう考えても必要でしょ! お兄ちゃんと二人っきりなんて絶対許さないから!」
「そんなこと言われても、入居希望者がこないんだから仕方ないじゃない」
「そんなわけないでしょ! ただでさえ部屋が足りない状況なんだから! どうせまたお兄ちゃんと二人になるために――」
「いや、それはないぞ、ノア」
ノアの言葉を遮りすかさず割り込む。
まぁ確かにヴェルならやりかねないかもしれないけど、今回は関係ないからな。
「どういうこと? お兄ちゃん」
「どういうこともなにも、ヴェルは今回本当に何もしてないんだよ」
「でも! じゃあどうして同居人が現れないの!」
「それは……」
ノアの怒鳴り 声を受けながら、ちらりとヴェルを目にやる。
本当は本人の前でこんなこと言いたくはないんだが、
仕方ない、とカイルが口を割ろうとした瞬間、ヴェルが言った。
「私が魔王だからですよ」
「? それが何」
「……はぁ」
「な、何よその溜息は」
ヴェルがまるで可哀そうな子を見るような目でノアを見つめる。
「あなた、馬鹿なの?」
「なんでよ!」
「まぁまぁ落ち着けって二人とも」
ヴェルの言った通りなんだが、まぁノアがわからないのも仕方がない
「ノア、お前は長い間ヴェルといるから気付いてないかもしれないけど、ヴェルは一応魔王なんだぞ?」
「だからなに?」
まだわからないのか
「だから、知らない魔王と一緒に寝泊まりできるかってことだよ」
「……ああ!」
ようやく意味を悟ったノアが手を叩いた。
この四人部屋に人が来ない理由、それは間違いなくヴェルがいるからだろう。カイルやノアはそれなりに一緒に住んでいたため、感覚がなくなっているかもしれないが、一般人から見れば、土地一つを納める魔物の王、人間の敵なのだ。
いくら使い魔になったからと言って、そう易々と人が来るはずもない。
「ほら、わかったでしょ? わかったら諦めなさい」
「ぐ、だ、だったら私もこの部屋に住む!」
ああ、やっぱりこういう展開になったか、予想はしていたけど。
ここからまた二人の妙な争いが、
「いいわよ別に」
「無駄だよ! 私もう……ってえ?」
「おい、こんなところで……てあれ?」
始まらなかった。
おかしい、いつもなら上手い具合にノアを追い詰めていくのに、こんなあっさり認めるなんて……
「何? 二人共、そんな金魚みたいに口開けて」
「……何を企んでるの?」
「何が?」
「だっていつもなら“は? 何言ってるの? 寝言は豚小屋で一人でなさい”くらい言ってくるのに」
――さすがの俺もそこまでひどいことは言わんと思うぞ。
ノアの暴言に、ヴェルは特に怒った様子も見せず、テーブルにカップを置いて言った。
「別に目的なんてないし、企んでもいないわよ?」
「どうして?」
「だってあなた、言ってもどうせ聞かないのでしょう?」
「もちろん」
「それにあなたはご主人様の“妹“だもの、これ以上言っても意味ないことくらい理解してるわ」
ヴェルの言葉に少し戸惑いを見せていたノアだったが、少し考えてから、やがて視線を外していった。
「……よ、よろしく」
その光景を見ていたカイルは思わず頬が緩む。
――よかった、こいつら仲がわるいと思っていたけれど、実際はそうでもなかったみたいだな。
ヴェルもノアの言葉が少し予想外だったのか、少し目を見開いてから、小さく笑って言った。
「別によろしくする気はないから、勘違いしないで」
「な! や、やっぱりヴェルなんて嫌い!」
……いや、やっぱりいつもどおりなんだな。
こうして一応? ノアの同居が決定したのだった。
一方、大都市ヘヴンサイル 正門前
一人の白い布を被った人物が、複数の人に賑やかに送りだされていた。
「いや~今回はわざわざおこし頂いてありがとうございました」
「さすがはノ―レラス一の騎士様ですな、あんなにいた魔物を一人で片づけてしまうなんて」
「もういっそここに住んでくれればいいのに」
村人から賞賛の言葉を受けるが、白布の人物は手振って断る。
「いえ、私には学校がありますし、それに、まだ見つけていないので」
「おお、そういえば探し人、まだ見つからないのかい?」
「はい……」
「う~ん、やっぱり俺達も一緒に探した方が良くないか?」
優しそうな男性がそう言うと、周りの人々も賛同の意志を示す。だが白布の人物は首を横に振る。
「いえ、あの人は私が探さなければ意味がないので」
「そうかい?」
「はい、心遣い感謝します。ではまた何かあれば呼んでください」
そう言ってぺこりと頭を下げ、白布の人物は背を向けて街を後にする。すると後ろからすぐに声が聞こえた。
「おい! 護衛はいいのかい?」
その声に白布の人物はくすっと笑う。
「そのセリフは聞き飽きましたよ」
???
暗い、暗い、暗い
少女は一人洞窟内で膝を抱えていた。
きゅるるるる、と腹の音まで響く。
お腹減ったよ……でも外に出たらまた人に襲われる。どうして人は私をいじめるの? 私は別に悪いことしてないのに、どうして……
少女は身に纏っているボロボロの布切れをギュッと握り閉め、そして、
「助けてよぉ……お母さんっ……」
誰にも気付かれず、ただ一人、啜り泣くのだった。
――亡き母を想って――
???
山道を一人の男が魔物の群れに囲まれていた。
だが男は特にきにした様子もなく地図を見ながら頬を掻く。
「……ふむ、また道に迷ったか」
「おい、そこのお前、こんなところでなにしんだ、ああ?」
「む?」
その声に顔を上げると、沢山の魔物の群れの中で、トカゲのような容姿をした魔物が大きな槍を持って立っていた。
リザードの一種で、上位種のみが言葉を発すると言われている。戦闘能力も高く、性格は――
「ちょうど良かった、おまえ、ここがこれのどこに位置するかわかるか?」
「ああ? しらねえよんなもん、それに知ったところで意味ねぇだろ? どうせお前はここで死ぬんだしよぉ!!!」
極めて獰猛で、すぐに襲いかかってくる。
リザードが飛びかかったのを合図に、周りにいた魔物が一斉に男へと喰らいついていった。
…
……
………
「……ふむ、弱ったな、また道に迷ったらしい……ま、適当に歩いていればなんとかなるか」
そう言って男は地図を懐にしまうと綺麗な白いマントを翻し、再び山を登り始める。
赤く染まった魔物達の残骸を残して――
それぞれの運命は、少しずつ廻り出す。確実に――
久しぶりの投稿でした、これからはちょくちょく更新したいと思います。