第壱話~新たな名前はカイル~
致命傷を受けた将は、確実に死んでいたはずだった、それは避けられない運命、それなのに……
「どういうことだ?」
将は生きていた。
横になっている体をむくっと起きあがらせ、体のあちこちをぺたぺた触り、異常がないかチェックする。
刺された場所に傷がない? どういうことだ、俺は確かにあの時刺されて死んだはずじゃあ……
とそこまで考えてから、自分のいる場所を確認するため、キョロキョロと周りを見渡してみる。
少し大きな本棚に、自分が寝ているベッド、それに勉強机が一つ置いてあり、扉の横にはクローゼットと、大きな鏡が設けられている。
どうやら病院でもないみたいだが、ここは一体どこなんだ。
今だはっきりしない脳を活性化させようと、ぶんぶん頭を振って脳を揺さぶってみたりしていると、突然扉の向こうからダダダッっという足音と共に、バン! と扉が開かれた。
「カイル! 起きてるかい!?」
そんなこと叫んで入ってきたのは、少し太り気味なおばさんだった。三十代くらいに見えるそのおばさんは息を切らしながら、こちらを見ていた。
――あれ? でも俺この人を知ってる気がする……
将が必死になって腕を組んで悩んでいると、慌てた様子のおばさんは、少し安堵の表情を零した。
「よかった、起きてんたんだね。ほらカイル、さっさと行くよ」
そう言っておばさんが、何故か腕を掴んで強引に引っ張り始めた。
――ちょっ、何このおばさん! しかもカイルって誰だし! ってか力強いよこのおばさん!
ベッドから連れ出され、そのまま外まで引っ張ろうとするおばさんを何とかしようと頭を巡らせる。
――なんなんだよこのおばさん、俺をカイルって奴と間違えてるみたいだけど……
その時だった。
部屋に置いてある、大きな鏡を見たのは、
「は?」
思わずそんなすっとんきょうな声を漏らしてまった。
鏡に映し出されるのは自分自身だ、鏡は嘘をつかない。そんなことはわかっている、現に自分の手を引いているおばさんも、鏡を見て固まっている将を見て、不思議そうに鏡を見ている姿が映っているのだから。
だが、ではこれは誰だ?
将は鏡に向かって手を伸ばす。触れた自分の手と、鏡の中の誰かの手が合わさる。その瞬間頭に電流が流れたような感覚に襲われる。
膨大な量の情報が頭の中を駆け巡っていく。
「くあっ」
「ちょっと、大丈夫かい?」
情報量のあまりの多さに思わず膝をつく、そしてもう一度鏡に写る自分の姿を見て、将
は全てを思い出した。
――俺が、カイル・クロスロードだと言うことを。