18話~終了~
「さてと、契約も済んだところで、ご主人様に無礼を働いたものを排除しましょう」
「排除はダメだろ……」
「え~、ダメなんですか~?」
「頼むから本気で残念がらないでくれ……」
本気で残念がるヴェルを、カイルが溜息をつく。
「それよりもご主人様」
「何だ?」
「周りの連中はどうしますか?」
「周り……?」
ヴェルの一言で、カイルはようやく自分達におかれている状況を理解した。
「動くな」
「……え~と、これは一体どういう状況か教えてもらえますか? 先生方」
武器を展開した教師達が、カイル達取り囲むようにしてこちらを狙っている。
「とぼけるなカイル・クロスロード、そいつは十二魔王の一人、ヴェル・アークシェインだろう」
「忌々しい魔王め、今ここで排除してくれる」
まるで恨みでもあるかのように……いや実際に恨みがあるのだろう、ほとんどの教師が殺意を持っていた。
だが狙われている本人は特に気にした様子もなく、ただつまらなそうに周りをちらっと見るのみ、
「別に、死にたいのなら構わないけど……」
「貴様……いい度胸してるじゃないかこの人数差で勝てると思っているのか」
「ちょ、ちょっと待ってください先生方! 確かにヴェルは魔王ですが、たった今俺の使い魔になりました!」
「それはこちらも把握している、だがそこにいるのが人間の敵であるのは間違いない」
カイルの弁解も、教師側はちらりとこちらの顔を確認するだけで、すぐに興味をなくしたようにヴェルへと視線を戻す。
あくまで俺は眼中になしか……
「それにカイル・クローバー、どうやって契約したかはわからないが、魔王と契約をかわした以上、重罪はまぬがれない」
「……」
確かに、よくよく考えれば人間の敵である魔王と契約をするなど、他から見れば人間を裏切ったように見えてもおかしくはない。
だがその時、場の空気が一気に重くなった。
なんだ? と考えるまでもなく、もちろん原因は隣にいる魔王からのものに違いない。
「安心してくださいご主人様……」
「一応聞くが、何をだ?」
「ご主人様が重罪になる前に、この街全員の人間を死刑にしますから」
やっぱり全然大丈夫じゃなかったか!
「貴様ぁ! そんなことさせるわけにいくかぁ!! 全員! 魔法準備!」
教師の中でも一番いかつい格好のした教師の掛け声で、取り囲んでいた人達が一斉に魔法陣を展開し始める。
「……人間、一応忠告しておきますが、もしも魔法を撃ったら、もう後には引けませんよ?」
あくまで余裕の表情のヴェルが、最後の忠告を告げるが、
「ふん! 後に引けないのは貴様の方だ!」
さすがは教師といったところか、それともただ単に愚かなだけなのか、手を挙げて合図を――
「ほっほっほ、待ちなさいな先生方」
出そうとした瞬間、見た感じ高年齢のおばあさんが乱入して、教師達の魔法を止めた。
「が、学園長、どうしてここに! 今日は会議のはずでは……」
「ずいぶんと面白い魔力を感じたもんでね~。ちょっと見学に」
正直学園長って、もっと怖い人をイメージしてたのに、実際は駄菓子屋にいそうなおばあさんみたいな感じの人だった。
そんなずいぶんとのんきなことをいってのける学園長に、教師陣も困ったように顔を見合わせる。
だがその時、ヴェルの表情から余裕の表情が消えていることにカイルは気がついた。
「それにしても先生方、集団になって一人の生徒に魔法とは、関心できませんねぇ~」
「しかし学園長! 奴は危険です! 今ここで排除しておかないと……」
「口のきき方に気をつけなさいダイ先生、うちの生徒に悪い子なんていませんよ」
「ですが……」
「それにもし本当に魔法を撃っていたら、あなた達の命はなかったかもしれないわよ?」
そう言って学園長は教師達の足元をさす、すると全員の目の前まで、ヴェルの影が伸びていた。
「ひっ!」
「さてと……」
びびって腰を抜かした教師を見て、学園長が杖を頼りにこちらまで近づいてきた。
すると突然カイルを庇うように、ヴェルが一歩前へと踏み込んだ。
――まさか警戒してる?
「ほっほっほ、そんな警戒しなくても大丈夫ですよ、魔王殿」
「今は魔王ではなく、ご主人様の使い魔よ、おばあさん」
「おい! お前! 学園長になんて口をきいて、」
「構いませんよ。そんなことよりも、カイルくんにもずいぶん迷惑をかけてごめんなさいねぇ」
「あ、いえ、全然」
こちらに向けて頭を下げてきた学園長に、カイルが慌てて首を横に振った。
「ところで使い魔さん、一つ聞いてもいいかしらねぇ?」
「何?」
「あなたが故意にこの街の人間を殺そうとしたりはしないわよねぇ?」
「私からはそんなくだらないことをするつもりはないわ、ご主人様が命令すれば別の話だけど」
「なるほどねぇ、それじゃあカイルくんは?」
先程以上にカイルの首が横に振られる。
「そ、そんなことありえません!」
「そう、ならよかったわ~」
と、そこまで話して、学園長は後ろに振り返った。
「はいはい先生方、いつまでも油うってないで、自分の仕事に戻ってくださいな」
「え、しかし学園長」
「大丈夫ですよ、彼女の彼に対する忠誠心は本物ですよ」
学園長の一言に、教師達が驚いた顔をする。
「それに私達が下手なことをしても、彼女には勝てそうにありませんしねぇ~、ここはカイルくんに任せるしかありませんねぇ」
「くっ」
「ではみなさん、勉学に励んでくださいねぇ」
それだけ言い残すと、学園長は教師達を連れ、校庭を後にした。
「よかった、なんとかなったみたいだな、ヴェル」
「……そうですね」
なぜか釈然としない表情のヴェルに疑問を覚えるが、とりあえずこれで一件落着……
「お兄ちゃん……?」
なわけがないのが、現実なのでした……
一時間遅れてしまった、すいませんでした。