第16話~戦闘開始~
カイルの挑発的な言葉に、ガリムはフっと含み笑みを浮かべた。
「へぇ、じゃあお前は魔具なしで俺に勝てるって言いたいのか?」
だが対するカイルは、至って真面目な顔で即答。
「まぁ、5割ちょいの可能性で勝てるんじゃないか?」
そしてそれを引き金に、遂にガリムが切れた。
「合図を!!」
ガリムの叫び声に、教師の一人がカイルへと視線を送る。
魔具を持っていない和則を心配しての確認だろう。今ならまだ止められる、ということなんだろうが、カイルは平気ですと頷いて見せた。
それを見た教師も、少し間を置いてルールを説明し始める。
「ルールは、お互いのどちらかが降参するか、戦闘不能になった段階で終了。魔法の使用も許可」
ちなみにこの場合の戦闘不能というのは、死も含まれている。
漫画やアニメと違って、都合良く非殺傷モードなどは存在しないのだから、当然といえば当然だ。
教師の短いルール説明も終わり、遂に戦闘の火蓋が、
「それでは、試合開始」
切って落とされた。
「へっ! 俺に喧嘩を売ったことを、後悔させてやるよ!」
試合開始の合図と同時に、ガリムがこちらに走ってくる。
カイルはそれをただじっと見つめる。待っているかのように、しっかりと両目でガリムの動きをみる。
走り方、呼吸の使い方、剣の持ち方、あらゆる情報を脳に叩きこむ。
――走り方は雑、速度は並み以上、呼吸は変則、剣は構えなし、我流か。
そこでようやく近距離まで近づいてきたガリムに備え、構えを取る。
「死ね!」
殺す気MAXだなと思いつつ、ガリムの斬撃を紙一重でかわす。
ヒュンヒュンと、二度三度繰り出される斬撃も全てかわすカイル。
「くそ、ちょこまかと!」
――剣の振りが大振りな上、振りも遅く、軌道も読みやすい、やはりコイツ。戦闘に関してはてんで素人か。
それにしてもコイツ。
「うるさい」
ドン!
振って来た剣をかわすと共に、右足でガリムを蹴り飛ばす。
やはり、動き自体は大したことはない。前の世界の静香や凛に比べたら天と地の差だ。
今の一撃でも、普通の人間なら余裕で昏倒させることのできる威力なんだが、
「やはりそう簡単には行かないか……」
ガリムが、お腹を押さえながら普通に立ち上がるのを見て、カイルがゆっくりと構え直す。
「んだ? その程度の蹴りで精いっぱいなのか?」
魔具がなくて戦闘に勝てない理由その2。物理ダメージ。
直接殴ったり蹴るなどといった直接攻撃は、いっけん魔力となんの関係もないように思えるが、この世界ではそうではないらしい。
調べてわかったことだが、魔力は人間の体の大きく活性化させているらしい。このおかげで、この世界の人間はほとんど怪我や病気もなく過ごしている。
まぁ今簡単に説明すると、防御力が比較的高いのだ。それに比べて殴る方は、筋肉を使用しているわけだが、魔力は直接筋肉には作用していない、それに比べ皮膚の細胞に直接作用している魔力に比べると、必然的に劣るわけだ。
つまり、普通の人間は、攻撃力よりも防御力の方が高くなる。もちろん魔力量が多ければ多い程、その差も出てくるわけで、魔力量が高いガリムに、直接攻撃はあまり通用しないということだ。
「まぁ、剣を振り回すだけの奴よりはマシだろ?」
カイルの明らかな挑発に、ガリムが苦虫をかみつぶしたような表情を作る。
ガリムの身体能力はさほど問題ないことが、さっきの攻撃でわかったわけだが、そうなると問題はやはり――魔法だ。
「だったら見してやるよ、力の差ってやつをなぁ!」
ガリムはそう叫ぶと、もっている剣、ギガバイトをこちらに向けた。
先程とは違う構えに、カイルはバックステップを取って距離を取る。魔法を使うつもりだろうと思って見ていると、やがてギガバイトの刀身が、銀色から赤色へと輝き始めた。
――刀身が赤く、ということはあの剣、紅霊石で作られた剣か。
紅霊石は、精霊石の一種で、赤色の魔素、火素を引きよせる能力を持っているのだ。
ということは、ガリムの魔法は――火!
カイルが魔法を見破ったところで、ガリムの前に、四角い形の魔法陣が完成していた。魔法陣の中に文字が書かれているが、なんと書いてあるかはわからなかった。
「焼かれて消し飛べ! 屑男! フレイム・ラン!」
主の叫びと共に、魔法陣が一瞬強い光を放ち――吐きだすように火の玉を飛びだす。
それをあらかじめ予測していたカイルは、よけることに成功したが、
「っつ」
思ったよりも速く、大きい火の玉に、右腕を少し掠ってしまったようだ。
――学年9位は伊達じゃない、ってことか
フレイム・ラン、本で読んだ魔法の中では、火の初歩的魔法だと書かれていたが、魔力の量が多いだけでここまで強化されるとは思ってもみなかった。
少なくとも本で書いてあった火の球の2倍近くの質量を持っていただろう。
ゲームやアニメで一番弱い火の魔法に値するわけだが、リアルになるとかなりの脅威ということが身にしみてわかる。
「どうだ? 俺の魔法は」
「まったくもって気に食わないけど、体術よりはまともなんじゃないか?」
と、挑発じみたことを言っては見るものの、状況は圧倒的に和則が不利だった。もちろんそれは本人が一番承知のはずだが、
――さて、あの火の魔法どうするか。正直この距離でぎりぎりかわせなかったとなると、かわしながら走って近づく、なんてことはできるはずもないし、かといってあいつの魔力切れなんて期待できない、というかこっちの体力がもちそうにないし。
ほぼ万事休すの状況だ。
「……これが、魔法を使える者と使えない者の差か」
ふぅ、と疲れを落とすような息を一つついて、ちらっと視線を観客の方へと向ける。
――あいつは……
ノアを探すでちらみしたのだが、探す必要はまったくなかった。
「お兄ちゃーん! がんばれー!」
なんせ最前列から、必勝と書かれた旗を振り回しているのだ、あんなことをしていれば、嫌でも目につくわ。
しかもあの様子だと、カイルが負けるなんていうことは微塵も感じていない、勝つことが当たり前と思っているようだ。
「まぁ、負けるつもりはないんだけどな」
「なんだお前、まだ勝てるつもりなのか?」
「言ったろ? 5割で勝てるって」
それだけ言うと、カイルはふっと笑みを零す、
「それに、まだ勝利を掴む手段は残されているんでね」
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