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第十話~見たことあるような風景~

 ノアに学生証を叩きだされてから、早くも一日が経過していた。


 学生証に使われていたカイルの写真をいつ撮ったのか聞いたところ、スキンシップという名の盗撮が原因ということが判明した。この世界にカメラと同じ物があるのにも驚いたが、ノアが隠し撮っていた写真の数の方が度肝を抜かれた。全部没収できたか不安でしょうがない……


 ヴェルはあのあとどこかに用事があると言って、出かけたっきり帰って来ない、しかもなぜかカイルの机の上にパンツを置いていくという大変意味不明なことをしていった。もちろん廊下に置いて来たさ。


 そして現在は、ノアと二人で学校に向かって村を出発したところだ。


 どうやら親にはノアから言ってあったらしく、日常品は向こうの寮に最低限のものは運んであるらしい。


 さすがにここまでされて断れるはずもなく、大人しく学校にいくことになった。ということだ。


「お兄ちゃん、やっぱり怒ってる?」


 家を出てから二時間弱、切り開かれた森道を歩きながら、そろそろ着くころかと考えていると、ノアがそんなことを聞いて来た。


 う~んと少し唸ってから、カイルは素直に答えた。


「少し」


「はう、ごめんなさい」


「でもまぁ、そのおかげ学校に行けるんだし、感謝もしてるよ」


「お兄ちゃん……」


「ほ、ほら早くしろ」


 ノアが感動して目をキラキラと輝かせながら見つめてくる。


 その恥ずかしい視線に耐えきれなくなったカイルは、視線をそらして歩くスピードを上げる。


「うん! あ、見えてきたよ!」


「お?」


 ノアの指さす方向を見ると、そこには大きな石作りの門が立っており、その先にはビルに近い建物が点々と見えてきた。

 

 近づいてみると門は結構頑丈に出来ており、両端には虎のような獣が彫られている。


 門に警備員みたいな人がいたが、特に何も聞かれずに通してくれた。話を聞くと、主に魔物が入ってくるのを止めているだけで、特にあやしくなければ人間は普通に通しているということだった。


 そんなんで大丈夫か? とも思うが、下手に捕まっても面倒なので良しとしよう。


「ここがノ―レラス街か」


「そういえばお兄ちゃんは初めてだったよね?」


「ああ、本で読んでたけど――」


 カイルはキョロキョロと辺り一体を見渡す。


「本当に村とは全然違うんだな」


 建物のつくりもコンクリートのようなものでできているみたいだ。ビルのような高い建物も数点確認できる。


 電気や水も通っているところをみると、前の世界の街並みとそこまで大差はないように思える。大きな違いは車のや馬車などの乗り物がないことだろうか。

「すごいでしょ~」


「ああ……そうだな」


――なるほど、街全体を塀で覆って外からの防衛に力を注いでるのか。


 カイルが冷静に街の作りをじっくりと観察していると、ノアが実につまらなそうに、


「お兄ちゃんリアクション薄い~」


「え? そうか?」


「薄すぎだよ~! 村とこんなに違うんだよ?」


「っていっても、本で読んでたからさ」


「私も読んでたけど、実際に見るのとは迫力が全然違いますよ……」


「まぁ、それは人それぞれと言うことで」


「むぅ、それって私が子供ってことですか?」


「そんなこと言ってないだろう」


「いいですよ。私なんて所詮おこちゃまですから」


「あのな~」


 どうしよう、何故かわからないが、ノアが不機嫌になってしまった。すごく面倒くさい。


 溜息を吐きながらノアを見ると、正面を向いて仏頂面を決め込んでいた。そんな彼女をじっと見つめて、カイルはぼそっと言葉を漏らした。


「体は大人なんだけどな……」


「はい?」


「ああ、いや」

 ――でも体が成長しただけで、中身はまだまだ子供だな。まるで親離れできない子猫みたいだ。


 そんなことを考えていると、本当に猫に見えてきた。カイルはノアの頭に手を置くと――、


「お、お兄ちゃん?」


 撫でた。


「ん」


 なでなで


「んにゅ~」


 なでなでなで


「お兄ちゃん、くすぐったいよ」


「あ、ああすまん」


 ノアの一言でようやくカイルは撫でる手を止めた。 


 ついつい子猫のような妹の可愛さに和んでしまった。


――これは強い中毒性があるな、気をつけよう。


 そう心に決めて、ノアの頭から手をどかす。


 あっ、と声を上げて名残惜しそうにこちらの手を見てくる妹は、きっと見間違いだろう。


「まぁでもさ、子供っぽいほうが可愛らしくていいんじゃないか?」


「かわっ! くわぁいいですか!?」


「あ、ああ、ちょっと活舌悪くなってるぞ」


 異常な興奮を見せたノアは、バッと正面に向きなおると、手を結びながらなにやらぶつぶつと呟き始めた。


「大丈夫……まだ……大丈夫」


 何この子怖い。


 妹の呪詛のような独り言を見なかったことにしようと、カイルは視線を街へと戻す。


 そこでカイルは街の中にあるものを見つけ、目を見開いた。


 時計だ。


 前の世界では都会にしか見受けられなかった、大きな時計台が設置されていた。


 それだけなら問題ない。問題は――


「なぁノア」


「ふぁい?」


「学校の集合時間は何時だ?」


「八時ですよ?」


 うつつをぬかしているノアに、時計台を指さすと、彼女も同じように目を見開いた。


 問題は、時計の針が八時半を指していることだった。


「さっそく遅刻かよ!」



 なかなか早い更新です、やっぱり感想があると書く気力がわいてきますね……これからもよろしくお願いします。

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