8ページ目 『星屑の声』
今回はちょっと不調です…
土曜日。
朝日が昇りはじめた時刻。時計の針は2本とも真下を指している。
小鳥のさえずりが聞こえる晴れた空。
そんな朝早くからお店のシャッターを軽く叩く音が聞こえた。ママもおじいちゃんも起きてはいないようだ。もともとここは、そんなに早くから開店はしないから当たり前だと思った。
僕はベッドから降りて扉へ向かう。シャッターを開けようとしたがびくともしなかった。そこで僕は裏口に回り、ママ達を起こさないように音を立てずに外へ出た。
そこにはシャッターを叩いている、若草色のトレンチコートに身を包み、ゴーグルを掛けた彼女がいた。
彼女は僕に気づいてにこっと微笑んだ。
「どうしたの、おねえちゃん?」
「キミなら起きてくれると思っていたよ。でもごめんね。こんなに朝早くに来ちゃって……。お母様とおじ様起こしちゃったかな?」
「だいじょうぶだよ。ママもおじいちゃんもねてる。それで、どうしたの?」
「あ、そうだった。今日はね、ちょっと忙しくて来れないの。それでね、本を読んであげれないんだ。だから今日はキミが好きそうな絵本を持ってきたの。きっとキミは好きだと思う。キミにも読めるように横に読み方を書いておいたから」
彼女はそういうとカバンから一冊の本を取り出した。鮮やかな色使いをした、本物の星空のような本。僕はその表紙に心を吸い込まれそうになった。彼女の言うように僕は、きっとこの絵本が好きなのだろう。そう思った。
「すごくきれいなえほんだね!」
「そうでしょ。キミみたいにきれいな世界を持ってる人はきっと好きになると思ったの。今日は一人で読んでてね」
「うん、わかった! あしたはほんをよんでくれるよね?」
「もちろんだよ。それじゃあ明日来たら読んだ感想を聞くからね。約束よ」
彼女は右手の小指を立てて僕の顔の前に出す。その小指に自分の小指を掛けて約束をした。
彼女はそっと小指を離し、僕の頭を優しく撫でた。バイバイと手を振って走っていった。
町はまだ寝静まっている。まるでこの町に僕と彼女しかいないかのような空間。それも悪くないと思った。
彼女が帰ってから僕は、静かなお店の中で1人絵本を広げた。
表紙をめくるとそこには壮大な星空が一面に広がっていた。四季の星々がそのページに集まっている。オリオン座やおとめ座、はくちょう座にやぎ座におうし座。他にも幾千の星や星座が載っている。
次のページを開くとタイトル名が書かれていた。表紙にも書いてはあったが、漢字で書かれていたので読むことができなかった。だが、そこに書かれているタイトルには振り仮名が書かれていたので読むことができた。
『星屑の声』
黒い背景に白い文字で書かれている。その白い文字は天の川を想像して書かれているようだった。
左のページに文が書かれている。
「満天の空に星屑の声が響いた。
幻想や夢幻で終わらないよう、少年は笑った」
少年が小さな丘の上で星空を見上げながら笑っている。星たちがきらきらと瞬き、まるでその場に僕もいるような感覚がした。
次のページをめくる。
「夜と闇が共に去り、祝福と共に朝がやってくる。
その短い間に、本当に伝えたい想いや願いは、うまく伝わらないように世界はできていた。
それでも……少年は笑ってみせた」
少年は膝を立てて座りながら夜風に吹かれて髪がなびいている。彼の瞳には薄っすらと涙が輝いていた。
僕は彼の泣いている理由を簡単に考えた。
……なにかつたえたいことがあったのかな?
ページをめくる。
「「キミの想いも願いもこの空に吐いてみて。キミの中で止まっていた時間が動き出すから」」
右のページに少年が描かれ、上を向いて呟いている。頬を伝う一筋の雫が光っていた。そして、左のページに違う場所から空を見上げる少女が描かれている。その少女の瞳にも涙が浮かんでいた。まるで2人の想いが通じ合っているかのように。すぐ隣で聴いているかのように。
「「そうしたらずっとキミの手と僕の手を繋いでいられるよ。……離したくなんかないんだよ」」
次をめくると、少年は顔を伏せてぼろぼろと涙を流していた。満天の空は悲しげな表情をしている。彼を慰めるかのように星屑の声が響いていた。
「「――――」」
そこには台詞が書かれていない。僕はそこにどんな言葉を入れればいいのか分からなかった。僕の中で慰めの言葉は「大丈夫」しか浮かばない。その言葉が適切だとは思わなかった。この少年に掛ける言葉はもっと他にあるはずだと考える。それでも、その時の僕には思いつかなかった。
そしてページをめくる。
真っ白な両ページをまたぎ、大きく横に少年の台詞が書かれていた。
「「そっか……。よかった」」
次のページで少年は涙を拭って笑っていた。
空を星が次々と流れていく。そして、少しづつ夜は明けて空から姿を消した。
僕はこの絵本を理解することが出来ずにいた。自分1人で読んだせいだからだろうか。少年の気持ちがわからなかった。出てきた少女と星屑の声は一緒のものだったのか。それさえも僕はわからなかった。
彼女ならきっと簡単に理解してしまうのだろう。そして、あの何も書かれていなかった台詞の答えも分かっているに違いない。ふと彼女との約束を思い出した。僕は彼女になんて感想を言えばいいのか困った。理解できなかったとは言えない。せめてまともな感想を言ってあげたい。僕はその後、何度もこの絵本を読み返した。彼女への感想を考えるために。
その日、彼女はやっぱり来なかった。だが、それでよかった。僕はまだ感想を言えるような状態ではなかった。僕は何度も繰り返して読んでいるうちに、疲れて寝てしまった。気が付けば朝日が顔を出していた。
読んでいただきありがとうございます。次を期待してください!




