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6ページ目 『ある初恋のおはなし』(2)

 この5.6ページ目は少し分かりにくいかもしれません…。

 それでも読んでいただきたいです。


 

『少年は1人の女性に出会いました。わずか16歳にして王女様になった少女。

 その人は強く気高く、美しい人で、例えるなら太陽のような明るい人。でも、それ故にとてつもなく大きく、重い十字架を背負っていました。

 だから少年は、この人に関わるとろくでもない運命が待っているであろうことは、なんとなく最初っから分かっていた……』




 走りついた先は大きな扉の前。

 王女様は鍵を取り出して開け、2人は入っていく。



「ここは代々、王女のみが入ることを許されている場所だ。つまり、君は歴史に名を刻まれることになるだろう。光栄だな」



「なにが光栄ですか! 王女様、僕はあなたとの逃走や遊びに時間を掛けている余裕は無いのです! 私は次の国へ旅に出なければいけないのです!」



 王女様は彼の言葉に強く反応した。



「君は旅人なのか! 私はこの国に生まれ、一度も国から出れずして王女となった。外の世界を私は知らない。君さえよければ、旅の話を聞かせてはくれないか?」




『少年は王女様の悲しそうな表情を見て、ほって置くことができませんでした』




 舞台の真ん中で2人は座り、少年は旅の話しを語りだす。

 旅に出たきっかけ。始めての外の世界。知らない言葉や文化。

 王女様も国をおさめる大変さや、あと1年で結婚をしないといけないなど、心の叫びを声にして少年に話した。



 互いに意気投合し、仲良くずっと話し続ける。

 そして気付いた頃には数時間が経っていた。



「君に会えてよかった。私の知らない物語せかいを知れて面白かったよ。今日はもう戻らなければ、私は2度と出られないように監視されるだろう」



「……王女様。僕もあなたに会えてよかった。出会いは最悪だったけれど……。僕にとってあなたは大切な人です。だって、そう――あなたは僕の友達ですよね?」



「君はあっさりと恥ずかしいことを言うな! だけど、元気が出た。本当に君と話せてよかった。……私にとっても、君は大切な友達だ」




『王女様は頬を赤く染め、俯きながら走って行きました』




 静かに、ゆっくりと照明が消される。







『さあ、ここから物語りは思わぬ方向へ向かう』






 王女のみが照明を浴びる。




『王女様が部屋へ戻り、服を着替えていると一通の真っ白な封筒が床に落ちました。


 〝王女様へ。明日、朝日が姿を現す前にあの場所で待っています〝と』



 照明が切り替わり、少年だけを照らす。



『少年のもとにも一通の真っ白な封筒が服に忍び込まれていました。


 〝少年へ。明日、朝日が昇り始める頃にあの場所で待っています〝と』



 また照明が切り替わり、王女様を照らす。

 



「それにしても、少年は一体何のようだ? まさか、愛の告白か……。いや、それはないな! しかし遅いな少年は……。もうそろそろ朝日が昇り始めるぞ。私を待たせるというのか――」



 一瞬にして照明は消され、何か重たいような物で叩かれたような鈍い音が響いた。

 照明が付き、少年のみを照らす。



「それにしても、王女様は一体何のようなんだ? まさか、愛の告白か……。それはないな。あの場所って昨日のところだよな」


 少年は扉に手をかざす。鍵は掛かっていなく、ゆっくりと開く。



『少年の目の前には血を流した王女様が倒れていた。』



「えっ……。王女……様……?」




 ―――――!


  

「王女様! いったい、一体なにがあったんですか!」



「やっと……きたか……。気配すら気付かなかったよ。わたしはここ数日間、ずっと狙われていたんだ……」



「なにも話さないで! いま人を――!」



「いままで1人だったんだ……。だから、最後まで1人なんて……嫌なんだ」



「なに言ってるんですか……。いいから、いま人を呼びますから!」



「……いいんだ。私はもう、きっと、長くない……。だから――」



「諦めるなっ! あなたは僕の友達じゃないですか! 勝手に死ぬなんて許さない!」



「――ごめん。あれ……なかったことにしてくれないか?」



「…………!」



「君と私は友達じゃなかったことにしよう。私たちは出会っていなかった。今までの時は無かったんだ。赤の他人と話した程度……。そうだ、その方がきっといい。そうしたら……君は悲しまないですむ。いまも目の前で見ず知らずの人が命を落とすだけだから……。ほんとうにそれだけ……それだけなんだよ。だから、お願いだから……泣かないで。

 君の人生に幸あれ。満面の笑みをいつも。それだけが私の……最後のお願いだよ」



「ふざけるな! あなたが言ったんじゃないか! あなたの言ったことだ、しっかり守れ! 死ぬなんて許さない。いいか、生きるんだ。生きてまた――」


「君は元気だな。そんな君に本当に助けられた。感謝しきれないほどだ。君と初めて会ったのはぶつかった時だったな。私の初めての恋は君だった。幸せだったんだ、私は……」





『王女様はまぶたを閉じて急に喋らなくなってしまいました』




「ちょっと、なんで話さなくなるんですか……。ねえ……起きてくださいよ、目を開けてくださいよ。」



「ここから男の声が!」「今は緊急事態だ! 突入するぞ!」

 バンッ!



 照明が消えて静かになる。




『少年が愛した1人の女性。その人に関わることでろくでもない運命が待っているのは分かっていた。それでも、その人が抱え持つ大きすぎる十字架を支えることぐらいはできると思った。

 しかし、王女様は何者かに暗殺されてしまい、のちに少年も護衛兵に捕まり、処刑されてしまいました。そして、この国に少年の名は深く刻まれることとなる。そう、王女様を殺した犯人として――』





 会場に照明がつき、全体が明るくなっていく。

 舞台の上に役者が揃い、一礼をして幕は閉じた。




「君にはきっと、まだ難しいお話だったね」



「ぼくわからない……。でも、かなしいのはわかったよ。すっごくかなしかった……」



 僕は知らない間に涙を流していた。

 僕にとって、このおはなしは悲しい話でしかないとそのときは思っていた。恋をするのは悲しいことだと思った。なぜ彼女がこんな話しを書き、僕に見せたのか……。僕はまだ、彼女の本当の意図を掴めずにいたのだ。



 演劇が終わり彼女に手を引かれ帰る途中、僕は彼女の哀しそうな顔を見た。

 そんな彼女になんて声を掛ければいいか分からなかった。感想を言うには言葉が足りず、励ますには理由が見つからず、想いを伝えるには勇気が足りない。



 そんな悩んでいる僕に彼女は優しく声を掛けた。



「辛いお話しを見せてしまったね……」



 上から一粒のしずくが落ちてきた。上を見上げると彼女は泣いていた。頬を伝う涙が夕陽に照らされ輝いている。



「おねえちゃん……?」



 彼女はそれから一言も言葉を口にしないまま、僕の手をぎゅっと握り締めて歩いた。

 空に宵の明星が姿を現した頃、古びた本屋に着いた。

 出迎えたママに彼女は今日の出来事を簡単に話し帰っていった。彼女のその後ろ姿が弱弱しく、儚く見えたのはきっと見間違えではなかった。



 その日の夜、彼女が消えてしまう夢を見て眠れなくなってしまい、寒気がして身体が重くなった。そして、風邪を引いてしまった。










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