第41話 賑やかな旅路
ひょんなことから金髪幼女に転生してしまった元社畜OLこと水城愛璃。
転生先の幼女ボディは『虹の魔眼』という特異体質を持っていて、その魔眼の暴発を抑えるために女神様から授かった『神のサングラス』というスキルで何とか凌いでいる状態だ。
だからわたしは常時サングラスをかけて暮らす怪しげな『グラサン幼女』として異世界で新たな人生を歩みだした。
そんなわたしは最初に訪れたグリィトの街を出発し、今は次なる街を目指して旅をしている、そんな道すがら。
わたしはほっぺを抑えて歓喜に震えた。
「――――んんん~~!? な、なにこのお肉!? めっちゃ美味しいっ!!」
お昼時。
草原が広がる小高い丘の片隅で、わたしたちは昼食をとっていた。
目の前には、焚き火のような炎で焼かれるお肉があり、そのお肉をサイコロステーキ状に切り分けたものがわたしのお皿に乗っていた。
これは以前にいたグリィトの街に滞在していた時に仕留めたレイジグリズリーという魔物のお肉だ。
塩コショウで簡単な味付けをして焼いただけだけど、肉汁がしたたってめっちゃ美味しい!
わたしの隣で大きな体のもふもふフェンリル――モッフィが、満面の笑みで吠えた。
「なんじゃこれは! 激ウマではないか! 神獣である我に食事は必要ないが、これだけ美味いならば毎日でも食いたいくらいじゃ!」
モッフィが白銀の毛並みを揺らしてガツガツと大きなクマ肉にがっつく。
ああしてお肉に夢中になっている姿を見ると、もはや神獣としての荘厳な面影はない。
サングラス越しにモッフィの食事を眺めていると、反対側の隣に座る忍者少女――ナデシコちゃんが動き出した。
「アイリ様! 追加のお肉が焼き上がりました!」
ナデシコちゃんは忍者が持つような短刀で素早くクマ肉を切り分け、幼女が食べやすい大きさにカットされたお肉が乗ったお皿を差し出してくる
ニコニコ笑顔でわたしがおかわりのお肉を受けとるのを待っていた。
「ありがとうナデシコちゃん! でも、ナデシコちゃんも食べていいんだよ? さっきから焼いてばっかりであんまり食べれてないでしょ?」
「いえ! まずはアイリ様の分のお肉を焼くことに専念いたします! 私はその後で、焦げた肉の切れ端でもいただければ十分ですので!」
「なに言ってんの!? 全然十分じゃないからそれ!!」
わたしは全力でツッコむ。
ナデシコちゃんは忍者少女だけど、元々は暗殺組織で奴隷として無理やり働かされていた。
一時は命令に逆らえずわたしの命を狙ってきたこともあったけど、根はとても優しくて良い子なので、今はこうして一緒に旅をしている仲……なんだけど。
ナデシコちゃんは少しわたしに忠誠を誓い過ぎというか、お世話が過剰な時がある。
わたしを気遣ってくれるのは嬉しいんだけど、あんまり自分を犠牲にしすぎちゃダメだよね。
わたしは前世で社畜OLとして心身共にすり減らしてきた人生だったから、他人のことばかり気にして生きていくのがどれだけ辛いかは分かるつもりだ。
だからここは、少し強引にナデシコちゃんにお肉を押し付けた。
「とにかく、ナデシコちゃんも一緒に食べようよ! わたし、皆で仲良くご飯を食べたいな!」
「ア、アイリ様……! こんな私のことをそれほどまでに想って……!!」
ナデシコちゃんは感動しながらわたしのお皿を受け取った。
なんかちょっとリアクションが大袈裟な気はするけど、まあナデシコちゃんは大体こんな感じだ。
てな訳で、しばらく皆でお肉にありつく。
グリィトの街で買い込んでおいたパンやサンドウィッチも並べて、旅の途中とは思えない豪華な昼食となった。
どっちかっていうと、ピクニックみたいな感じだね。
うまうま~、とご飯を食べまくっていると、うぐっ、と食べ物が喉につまりかけた。
すかさずナデシコちゃんが水筒を差し出してくる。
「アイリ様! お水です!」
「あ、ありがと、ナデシコちゃん……!」
わたしは水筒を受け取り、ごきゅごきゅと飲み干す。
そして、ぷはぁ~! と息を吐き、喉に詰まっていた絶品クマ肉を強引に胃へと押し込んだ。
ちなみにこの水筒は高性能な魔道具なので、飲んで無くなるとまた新たな水が底から湧き出るようになっている。
心配そうな目を向けるナデシコちゃんにお礼を言い、ほっと一息つく。
と、モッフィが鼻先をわたしに向けてきた。
「ところでアイリよ。次の街まではどれくらいなのじゃ?」
クマ肉をきれいに完食したモッフィが、ペロリと舌なめずりをしながら聞いてきた。
わたしは記憶を辿り、返答する。
「もうあと少し進んだら到着すると思うよ。モッフィの足だったら多分、今日中には着くんじゃないかな?」
「そうか。クマ肉やパンも美味かったが、そろそろ新規発掘といきたいところじゃな。次の街にはどんな美味い食い物があるのか楽しみじゃ」
いまお肉を食べたばかりなのにすでに次の食の話とは……相変わらずの食い気だね。
しばらくわたしとナデシコちゃんの二人で昼食を楽しみ、ちょっとだけ休憩した後、再びモッフィの背に乗って旅を再開することにした。
■ ■ ■
モッフィのもふもふの背中にまたがり、草原をひた走る。
わたしの真後ろにはナデシコちゃんも乗っていて、わたしが落ちないようにしっかりとホールドしてくれていた。
まあ、モッフィの背中に乗ってる時はモッフィが魔力でわたしたちの体を固定してくれているから落ちる心配はないんだけどね。
風に揺られるゆるふわ金髪を手で押さえて前を見ると、わたしは遠くに気になるものを見つけた。
「――ん?」
「どうかしましたか、アイリ様?」
背後のナデシコちゃんが聞いてくる。
わたしはサングラスを少しだけ傾けて、オッドアイの瞳で色彩あふれる景色を眺める。
そして、違和感の正体を突き止めた。
「あれは……煙? なんか遠くにもくもくと煙が立ち込めているような」
疾駆するモッフィが、くんくんと鼻を鳴らした。
「周囲の匂いが変わってきたのう。多くの人間の香りもする。しかし、全体的にどこか気味の悪い匂いじゃが……」
そう言うと、モッフィは徐々に減速し、やがて丘のてっぺんで止まった。
付近で一番標高が高いこの場所で、さらにモッフィの背に乗る幼女は、目の前に広がる街並みに息を呑んだ。
「ついに到着したんだ! わたしたちが目指していた次なる街――――錬金都市『アルケシュ』へ!!」
わたしの目の前には、いくつもの煙突からもくもくと煙が立ち込める賑やかな街が広がっていた。
ここが、国中の錬金術師が集うと言われる、レシピと素材と薬品の街。
ケミカルな雰囲気が漂う新たな舞台――錬金都市『アルケシュ』の全貌にわたしは心踊るのだった。




