第20話 擬態イタチ
かわいいウサギさんに釣られてまんまと誘き出されたわたし。
そんなわたしに、本命の捕食者である謎の巨大生物が襲いかかる。
全長は二メートルは超えているだろうか。
幼女に飛びかかり、鋭い牙をギラつかせて捕食しようとしている。
(不味い! 早く魔法で迎撃しないと!)
わたしはサングラスを外そうとした。
でも、その時にはもう目の前に魔物の大きな口が迫っている。
(さ、最悪だ! こんなところで、わたしは――!)
死を覚悟した刹那、大きな声が轟いた。
「――――そのままじっとしていよ、アイリ!!」
背後から、強烈な光が発される。
モッフィの聖魔法がレーザー光線のように魔物の胸に命中。
易々とその胴体を貫いた。
「ギャィイイイイイン!!」
モッフィの魔法を食らった魔物は、たまらず後ろに倒れた。
すごい! 一撃で倒した!
おかげで、何とかわたしは生き延びる。
わたしは感激の目でモッフィに振り返る。
「モッフィ! ありがとう!!」
そして、ドサッと倒れる大きな魔物の正体を『鑑定』を発動した。
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【擬態イタチ】:尻尾を小動物に擬態させて獲物を誘き出し、捕食する肉食系の魔物。隠密行動と潜伏に秀でる。危険度はAランク。
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擬態イタチ……!?
この魔物、イタチだったのか!!
その鑑定文を読んで、わたしはハッと気付いた。
「"尻尾を小動物に擬態させる"ってあるけど、まさかさっきのウサギさんはわたしを誘き出すための疑似餌!?」
茂みの裏から、にょろにょろと長い擬態イタチの尻尾が覗いていた。
その尻尾の先には、ウサギの上半身だけが不自然に生えている。
なにあれ、キモッ!?
だけどあのウサギさんの体部分は、わたしがもふろうと思って近寄っていったウサギさんに違いない。
あんなキモい尻尾の先っぽだったのか!
「でも、モッフィがやっつけてくれたから、もう安心――」
「アイリよ、まだ油断するでない!」
モッフィの忠告と同時、背後からしゅるるる、と細長い尻尾が体に巻き付いた。
「へ?」
直後、ぐんっ、と引っ張られる。
こ、この尻尾、まさか擬態イタチの――!?
そう悟った瞬間、わたしは尻尾に巻かれてぴゅーんと連れ去られてしまった。
「ひゃああああああ! た、助けてぇぇえええええええええ!!」
情けない叫び声をあげながらみるみる引きずられていくわたし。
モッフィは瞬時に魔法を放とうと光球を出現させたけど、舌打ちして魔法の発動を止める。
「くっ、この位置ではアイリにも命中してしまうやもしれぬ……!」
モッフィの一瞬の躊躇。
その間に、わたしはずざざざと茂みを真後ろから突っ込んでいく。
「いだっ! いだだだ! 痛い痛い! 枝とか葉っぱが体に刺さる!」
乱暴に森をひきずられるわたしは、茂みの枝葉でチクチクとダメージを負う。
だけど、予め冒険者用の服装に着替えていたからダメージは最小限だ。この服はふりふりで可愛いけど、防御性能が高いからね。
山小屋で着ていた貧相な服だったら今ごろ穴だらけになってダメージを負っていただろう。
「ギャギャ、ギャイイン……!」
擬態イタチは悲鳴をあげるわたしのことなんて一切構わず、森をひた走った。
だけど、胸元から血を流しているから、結構な重傷を負っているみたいだ。
さっきのモッフィの魔法は無駄じゃなかった。
「で、でもこのままだと木とか岩とかに激突させられて死ぬかも……!」
擬態イタチは逃げることに精一杯で獲物のことを気遣う素振りもない。
まあ、わたしを食べるつもりなら獲物が生きてても死んでても関係ないからね。
「でも、わたしだってこんなところで死ぬわけにはいかないんだ……!」
わたしは引きずられながら、頑張って後ろを振り返った。
擬態イタチのお尻から背中にかけてのなだからな体のラインが見える。
少し足を引きずっていて、動きはそこまで速くない。
これなら……!
わたしはかけていたサングラスを勢い良く投げ捨てた。
「悪いけど、ここで倒させてもらうよ!」
わたしは両目に魔力を流す。
魔眼が発動。
右目に熱を、左目に水気を感じた。
そして、それは『魔法』となって擬態イタチを襲った。
「食らえ、炎と水の魔法!!」
擬態イタチに炎の球が迫り、体を燃やした。
「ギャ!? グギャアアアアン!!」
体に燃え移った炎に驚いた擬態イタチは、じたばたとがむしゃらに暴れまわった。
少しでも火を消そうというしているのだろう。
その姿を見るのは少し心苦しいけど、尻尾を伝って炎がわたしの方に来ているのを見て意識が変わる。
次に水魔法が発動した。
水の渦が擬態イタチに殺到し、その体を蹂躙した。
「ギャイイン!」
水魔法のおかげで、火あぶりになっていた擬態イタチの炎は鎮火する。
だけど、変わりに水で出来た槍のような攻撃が擬態イタチの体を破壊していく。
擬態イタチはもがくように暴れるけど、次第に体から力が抜けていった。
やがて、ゆっくりと倒れる。
「た、倒せた、の……!?」
わたしが恐る恐る擬態イタチの様子を探ると、擬態イタチは立ち上がることすらままならないようで、力尽きてしまった。
これでようやく解放されると安堵するのもつかの間、ガクンと下に引っ張られる感覚に襲われる。
「――え?」
前を見ると、擬態イタチの正面は山の急斜面が広がっていた。
わたしは、サァーっと顔を青ざめる。
「や、やばい! このままだと山を滑り落ちちゃう! は、はやく尻尾から脱出しないと……むぐぐぐぅ~!」
体に巻き付く尻尾を剥がそうと試みるも、幼女のか弱い力じゃビクともしない。
それに死後硬直のせいか、擬態イタチの尻尾はわたしを放さない。
擬態イタチはずるずると急斜面を滑り落ちていく。
となれば必然、わたしも運命を共にするわけで。
「きゃあああああああああああああ!!」
わたしは情けない叫びをあげながら、どことも知れぬ山の斜面を滑り落ち、深い谷底へと吸い込まれていくのだった。




