【結婚式当日に捨てられました】「替え玉はもう不要だ」と王太子は姉と結婚。でも実は私、世界唯一の治癒術師でした。命を救った英雄が皇帝となり私を奪いに来たので、この国はもう終わりです
「お前の姉が戻って来た。身代わりの役目はもう必要ない」
結婚式の当日に王太子が私に言った。
(——これで、どれだけの人が死ぬのだろう……。まあ、私には関係がなくなった事だけど)
「嫌よ、私は。双子でサイズが同じだからって、妹のお下がりのドレスなんて」
「国中から全ての花嫁衣装を集めさせる。君は好きなものを選んでいいんだ。だから、俺と結婚してください」
私の花嫁衣装はサイズだけ合うものを探してきただけだった。
「うーん、それなら……って、ダメよ。宝石も選ばせてくれなくちゃ!」
「もちろん、君のためならなんでもするよ」
……何を見せられてるの、私。
これが、この国の終わりの始まりだった——。
「あなた、何をしているの? 本物が戻って来たんだから、偽物が家で隠れていなさい」
母が私を見つけて結婚式から追い出す。
私の結婚式のはずだったのに……。
まあ、逃げたいと思っていた結婚式だから、逃げられて良かったけど……。
いやがる私を双子の姉の替え玉に王太子と婚約させておいて、当日に姉が戻ったら、結婚式からも追い出して隠れていろなんて……。
あまりにも人として扱われていない……。
それだけが悲しい。
帰り道に途中で止まって泣き腫らす。
王太子と神子の結婚にわく人々は王城に押し寄せて、通りには誰もいない。
大通りのど真ん中で泣き濡れるのは、案外気持ちが良いものだ。
「あー、すっきりした」
伸びをして気持ちを切り替え——ようと思っていたのに……。
予想していなかった方向に切り替わった。
空中に魔法陣が現れたと思ったら、魔法陣から騎士が現れる。
いくつかもの魔法陣が空中に現れ、騎士が出てくる。
話に聞く、隣国の最強騎士団の魔法だ。
魔物との戦いで使われると聞いていたのに……。
隣国がこの国に攻め入ってきた!?
王太子の結婚式当日に!?
結婚式の当日に捨てられた花嫁と、攻め込まれた王太子。
どっちが惨めなんだろう?
……もちろん、王太子だ。
だって、私を迎えに来たのだから。
空中に一際大きな魔法陣が現れる。
空気が変わる。
他の魔法陣からあらわれた騎士たちも恐ろしかったが……。
次元が違う。
これは厄災だ。
魔物よりも魔物じみた、暴力の塊。
隣国の英雄皇帝。
私は——あの男に、求婚されたままだ。
◆◇◆
死にかけの、ボロ雑巾の様な男が倒れていた。
邪魔だから、男を治癒した。
ガバッ
起き上がった男が自分は祖国を魔物から救った英雄だと言う。
英雄だろうが浮浪者だろうが私の前で倒れないで欲しい。
治してしまう。
「君の力は俺が管理しよう。全て任せろ」
私が十三歳だと言うと、大人になったらまた来ると言って帰っていった。
家の中で双子の姉と比べられる、虐げられていた私の力を認めてくれたのは、この人だけだった。
◆◇◆
「聖女……結婚式はどうした」
厄災が私の目の前にいた。
「結婚する神子は双子の姉よ」
私は王城を襲いに行く騎士たちとぶつかりそうになって転んで足を捻っていた。
「来い」
英雄皇帝が座り込んでいた私を抱き上げる。
騎士たちもそれを合図に戻っていく。
そして、結婚式は無事に進んでいく。
神子を多く輩出する家系が私の家だった。
双子の姉が神子で、妹の私は要らない子。
それでも私は神子を産めるからと、王太子に望まれた。
本物は神殿で祈り、帰ってくる日もわからないから。
けれど、結婚式の当日に本物戻ってきた。
本物という幻想を手に入れた国は、実体を失ったことにまだ気づかない——。
怪我なんて、祈るよりも治した方が早いでしょう。
治癒術の価値もわからない人たちの側になどいられない
◆◇◆
私は隣国の皇帝の前にいた。
「お前が結婚すると知らせが入ってすぐに迎えにいったんだ」
「私との結婚はずっと前から決まっていたのに、隠しておきたいことだったのね……。姉との結婚はすぐ知らせるのに……」
姉と差をつけられるのには慣れてる。
国家規模でまで差別されるとスケールの大きさに笑えた、あはは。
心の中では笑ってるのに、俯いて暗い表情のままだ。
人の悪意に触れるのは慣れようがない。
「君は素晴らしい。この国で君の力を知らないものはいない」
皇帝は私の手を握ってくれるけど……。
「私、ロリコンはちょっと……」
王太子との結婚はいやだったけど、二歳しか違わないから許容範囲。
「同じ歳だろ」
「は?」
いや、十三歳で会った時、すでにおっさんでしたよ?
「……あれ? よく見たら、若返りました?」
「子供の頃は老け顔だったんだ」
「え? でも、十三歳で英雄だったの!? 規格外すぎる!!?」
私は驚いて立ち上がる。
「っ!?」
捻った足をまた捻った。
「君の方こそ、俺を治したあの治癒術は規格外だったろう。君がいなければ俺は死んでいた」
「……っ!」
捻っただけじゃなく、折れたのかも……。
「どうしたんだ? 何故、立ち上がったまま止まってる……」
「さっき、足を……怪我したんです。ちょっと痛すぎて……」
「ま、待って、君は治癒術が使えるのではなかったのか……」
「自分には使えないんですよ。そんなに酷い怪我じゃないと思ったのに……」
「な、なんだって!?」
皇帝に抱き上げられた。
「な、何するんですか!?」
「君より大事なものなどないんだ。急いで城の医術師に見せるぞ! 何処にいる!?」
「兵舎で怪我人を診ています」
英雄皇帝が魔法陣を開くと、一瞬で兵舎の医術師の前にきた。
な、なにこれ!? すごい!!?
「皇帝、どうしました?」
医術師は慣れているようで驚きもしない。
「聖女の足を診てくれ」
皇帝が言うけど、
「待って! こんな怪我人がたくさんいるのに、順番があるでしょう!?」
ベッドに寝かされた怪我人が恨めしそうに、皇帝に抱き抱えられた自分を見つめる。
惨めな私と華やかな姉。
その再現のようで胸が痛む。
「……皇帝、降ろしてください。治癒します」
床に足をつけた私は兵舎全体と接続する。
汚れがたくさんシミのように兵舎全体に散らばっている。
この汚れはあってはいけないもの。
人を怪我や病にするもの。
手のひらを開いて汚れを集める。
光が私の手のひらに集まってくる。
光が集めた汚れは、いつもよりも大きい巨大な塊になる。
この国にはこんなに病理が溜まっていたんだ……。
命を見捨てない国なんだ……。
汚れの塊は生き物のように蠢き、離せばまた人を害する。
死の国へ人を連れていく使者たちだ。
「ここに留まりなさい」
私が言うと塊は姿を変える。
黒い羽を纏う死の象徴、カラス。
だけど、もうこの世の生き物だ。
誰も連れて行かない。
バサバサ
カラスを窓の外に放した。
黒い羽が光を帯びて舞い上がる。
「……っ!」
二、三歩、歩いたら足が痛む。
「聖女、大丈夫か……!」
皇帝が私を支えてくれる。
兵舎には他にも人が居るのに、時が止まったように静かだった。
——。
「……痛くない」
ベッドに寝ていた誰かが言った。
「俺も! 傷が塞がってる……!」
「ね、熱も下がった!」
「食堂で働いてただけなのに、肩こりが治ってる!?」
一斉に騒ぎが広がった。
「聖女さまだ! 建物全てが光に包まれて、全てを治してしまった! なんて力だ!」
「皇帝が国中の美女との婚姻を断ってでも、探し続けていた理由がやっとわかった!」
患者以外の国の重鎮たちも騒いでいる。
「私の仕事がなくなってしまいましたね」
医術師が言う。
「聖女の足を診てくれ。今から、全ての医術師は聖女専属にする」
皇帝が宣言した。
◆◇◆
「帝国が攻めてきていた!?」
王太子は結婚式の後に報告を受けて驚いた。
「替え玉の無価値な妹を連れて行っただけで帰った?」
あんな女を、連れて行ってどうするんだ?
何か俺が見落としている価値があったとでも言うのか!?
「……あの子が……」
神子が不快な顔をする。
「なに、あなたと双子で姿だけは美しい。間違えたのでしょう。奪われたのが真に価値のあるあなたでなくて良かった……」
「当然よ。私の祈りによって、この国には重い怪我や病気になる人がいないのだから……。大事にしてくださいね、王太子!」
「もちろんだ、神子」
この国は、魔物との戦いが激しい世界の中で、隣国のような英雄はいないが、神子のおかげで怪我人が少ない。
神子の加護を得たものは無傷で生還し、そうでないものは死ぬ。
神子への信仰の薄い怪我人や病人はいるが、僅かだ。
怪我人や病人が少ないと言うことは、医術師など、治せるわけでもないのに用意しなければいけない人材も減る。
無駄のない配置で、英雄がいなくとも自力で我が国が最強だ。
——しかし、最近は信仰心のないものが増えた。
王都に怪我人や病人が転がっている。
まさか……あの女がいなくなってからか……。
「選別が必要なようね」
神子が怪我人たちを見て言う。
「選別……だと……?」
「祈りで、弱いものに怪我や病気の汚れを集中させて、他のものを治すのよ」
「……弱いものは……どうなるんだ……」
「汚れによって死の国連れて行かれるだけよ。弱いものなどいても邪魔なだけでしょう」
神子が冷たく笑う。
「あの子は……こんなに弱いものを治して。王都にゴミを増やしていたのね。嫌だわ」
口の中がザラつく。
嫌な感覚が止まらない。
「……っ!」
神子の微笑みを思い出して、嫌な気分のまま歩いていたら、階段から足を滑らせた。
「……折れています」
この国の数少ない医術師が言う。
「な、治せないのか!?」
「神子さまのお力ですぐに治りますよ」
「神子の……!!」
『選別が必要なようね』
『弱いものなどいても邪魔なだけでしょう』
神子の冷たい笑み……。
弱いものとは、俺か……。
「うわああああああ!!」
王子の絶叫が王都に響いた。
◆◇◆
「早く君の足が治るように、歩く時は必ず俺を呼べ」
皇帝の優しい口調と顔に、ドキドキしてしまう。
だけど、一歩で届くテーブルの上のものを取るのに皇帝を呼ぶ方が面倒……。
「よいしょっ!」
私は自分で取った。
「……呼べと言ったのに……」
廊下から皇帝が見ていた。
「うわああああああ!!」
……。
「お、驚かせないでください! ホラーになるところでしたよ」
「君が俺を呼ばないからだ……って、なぜ指を舐めている」
「紙で切ってしまって……」
「医術師!!! 聖女が怪我をした!」
皇帝の呼びかけに、国中の医術師が集まってくる。
「消毒しないといけません!」
はい! はい! はい!
と、消毒液や包帯が前世で見たバケツリレーみたいに、医術師の手から手へと運ばれてくる。
舐めて血は止まったのに、大袈裟すぎる。
「こうでもしないと、聖女がみんな治してしまうので、医術師に仕事がありません」
「聖女に何かあったら大変だからな、この城から紙をなくそう」
皇帝が治療の終わって包帯が巻かれた私の手を握っていう。
「ものすごく迷惑です、皇帝」
◆◇◆
帝国に王太子が来た。
「私の花嫁を結婚式当日に騎士団を率いて盗み出したのは皇帝だ。返して貰おう」
勝手なことを言う。
王太子は足を引きずっている。
怪我の汚れが見える。
私は光で汚れを吸い取ると、白い百合に変えた。
「治った……! これで神子に殺されずに済む……!」
王太子は涙を流して喜んだ。
「なぜ助けるんだ、お前を捨てた男だぞ」
「汚れは邪魔だから消したまでです。あの国では、汚れを放っておけば、他のものを死に追いやってしまう」
王太子が目を見開く。
「そうだ、あの悪魔のいる国にはお前が必要なんだ!」
悪魔とは姉のことか……。
「その悪魔を選んだのはお前だろう」
皇帝が言う。
「お前さえいれば、悪魔も天使になれる。戻ってきてくれ!」
王太子は私に懇願する。
「姉を制御できないからって、頼るのはやめてください。不用品の後始末をするのはもう嫌だわ」
王太子の顔が白くなる。
この百合みたいに……。
「私はもうあなたとは無関係のこの国のものなので」
皇帝が私を抱きしめる。
私の持っていた百合の花が皇帝と重なるけど、あまりの似合わなさに思わず笑ってしまう。
私は王太子に百合を捧げる。
死がよく似合う——。
王太子は帝国から追い返される。
「……あの国は長くないな……。早く悪魔から解放された方が幸せだろう……」
◆◇◆
王都に増えていた怪我人や病人は減り出している。
墓の数が増える。
家族を失ったものたちも増えた。
「お父さん……」
泣いている子供たち。
子を失った夫婦が項垂れる。
悲しみは増え続ける。
誰もが、弱いものとして切り捨てられることに怯えていた。
豪華な馬車に乗り戻った王宮で、家臣たちが首を垂れて俺を迎える。
神子が笑っている。
「あの子に会っていたの? 足まで治され……。もっと、強い男だと思っていたわ……」
俺が一番にこの国から逃げ出したい——。
◆◇◆
「けほっ」
皇帝との食事中にむせってしまう。
「聖女がむせったぞ!!!」
「聖女さまがむせった!」
「聖女さまがむせった!」「聖女さまがむせった!」
と、バケツリレーのように医術師たちの間を駆けめぐる。
むせって処置もないから、まあ、まあそれだけ……。
“絶対にむせってはいけない皇帝との食事”、
ただただウザい。
皇帝も実はうんざりしているが、止めると医術師たちが失業してしまう。
全てを治癒してしまうのも問題だ。
「皇帝、治癒術についてですが、何度も同じような怪我や病気になるものが多いのです」
「そうなのか?」
「本人や環境に問題があるんです。医術師たちにはそこを解決してもらうのがいいと思います」
要するに予防だ。
「て、天才です! 聖女さま! 聖女さまがいらっしゃる前から、それは気になっていたのです」
医術師の一人が言う。
「聖女さまがいらっしゃる前は気になっても治療だけで手が回らなかったのです」
医術師達が次々に声を上げて賛同する。
「そ、そうか、医術師たちがいなくなると聖女の保護が手薄になってしまうが、仕方ないな……。俺が必ず聖女のそばにいるから、安心してくれ」
医術師たちがあからさまにホッとしている。
皇帝も言葉とは裏腹にホッとしてる。
医術師たちは新しい仕事のために戻って行った。
私と皇帝の二人っきりになる。
「聖女……部屋に送って行く」
皇帝が私を抱き上げる。
「皇帝、部屋が違います」
「必ずそばにいると医術師たちに約束したからな」
「え?」
「俺の部屋で今日からはずっと一緒だ」
「へ、部屋は隣だから、すぐそばでしょう!? なにかあればすぐに来れるわよ!」
「ベッドから落ちたり、聖女が怪我をした後に駆けつけても意味がない」
「……ベッドに柵をつけるとか……」
皇帝のベッドに寝かされる。
「俺が柵になればいい」
皇帝の腕が柵のように私の両側を囲む。
「治癒術師の手を煩わせないためにも、予防が大事だからな」
皇帝の柵の中に囲われて、私は一生溺愛される。




