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番外編2

 魔王、未来兵器に震撼する


 居間に、妙に張り詰めた空気が流れていた。


 テレビの前に座る、小さな黒い影。

 魔王である。


 普段なら、退屈そうにチャンネルを変えたり、結衣に質問を投げてきたりするはずなのに――


 今は、まったく動かない。


 ただ、画面を睨みつけている。


「……?」


 キッチンから顔を出した結衣は、首を傾げた。


(こんな時間に、何か見るものあったっけ)


 そっと覗き込む。


 そこに映っていたのは――

 国民的な子供向けアニメだった。


 コミカルなBGM。

 丸くて愛らしいキャラクター。

 のんびりした日常風景。


 なのに。


 魔王の顔は、完全に戦場の指揮官だった。


「そんなに面白い?」


 思わず声をかける。


 魔王は振り向かないまま、低く言った。


「……結衣」


「うん?」


「あの青い丸い存在は……一体何者なのだ」


「え。未来からやってきたロボット、って設定だけど」


 ぴしり。


 空気が凍った。


「……未来から、だと?」


「うん。そういうお話だけど」


 魔王が、ゆっくりと画面へ顔を向ける。


「未来には……このような存在が、実在するのか」


「いや、アニメだからね?」


 聞いていない。


「……なんだ、あれは」


 魔王の指が、震えながら画面を指した。


 そこには――ピンク色の可愛らしいドア。


「ああ、有名なやつだね」


「説明しろ」


「どこにでも行けるドア。開けると行きたい場所に行ける」


 数秒の沈黙。


 魔王の瞳孔が開いた。


「……空間転移、だと?」


「まあ、そうなるのかな」


「しかも……固定型ではない」


 テレビの中では、軽々とドアを持ち運んでいる。


「持ち運び可能な転移門……座標固定なし……詠唱も魔力反応もない……」


 魔王の尻尾が、ぶわっと膨らんだ。


「なんて恐ろしい」


「いや、アニメだってば」


「これでは城壁も意味を持たない」


 真顔だった。


「結界も、監視網も、すべて無意味になる」


「そんなガチ分析いらない」


 魔王は画面から目を離さない。


「……こんな術式、見たことがない」


 低く呟く。


「……だが、ひょっとして……空間を歪めるのではなく、“接続”しているのか」


 結衣は何も言えなかった。


 完全に研究者の顔だった。


「つまり――空間座標そのものを重ねる……理論上は可能だが、魔力量が……いや……」


「ねえ、聞いてる?」


「……未来文明、恐るべし」


 ⸻


 その後も、魔王の分析は止まらなかった。


 画面が切り替わる。


 次に登場したのは、頭に装着する小さな回転翼。


 魔王の体が、びくりと震えた。


「……今度は何だ」


「頭につけると空を飛べる道具、らしい」


 静寂。


「……嘘だろう」


「嘘じゃない。設定的には」


 テレビの中では、軽々と浮かび上がる子供たち。


 魔王はゆっくりと立ち上がった。


「重力を……無視している」


「まあ、そう」


「揚力だけで人間を支えるのは不可能だ」


「いや理屈とか知らないけど」


「頭部に装着するだけで飛行――」


 魔王の手が、自分の頭に触れる。


「……首が折れる」


「現実だとね」


「これは……」


 息を呑む。


「どう考えても軍事転用が可能だ」


「怖いこと言わないで」


 ⸻


 さらに画面が変わる。


 ロボットのお腹のポケットから、道具が次々と出てくる。


 魔王の声が震えた。


「……収納魔法」


「まあ、そんな感じ」


「いや……違う」


 画面を凝視する。


「容量の制限が見えない」


「そういう設定」


「……国家規模の兵站が個人単位で運用可能になる」


 結衣は頭を抱えた。


 ⸻


 番組が終わり、エンディングが流れる。


 静寂。


 魔王は動かない。


 やがて、ぽつりと言った。


「……結衣」


「なに」


「未来は……敵に回すべきではない」


「誰も回さないよ」


「だが、備えは必要だ」


 真顔だった。


「もしあのロボットが敵対勢力の手に渡った場合――」


「敵対勢力いないから」


「国家は一夜にして崩壊する」


「だからアニメ!」


 魔王は腕を組んだ。


「……恐るべき文明だ」


「夢の道具って言うんだよ」


「夢……」


 一瞬、言葉を失う。


「……民に夢を見せるための兵器、か」


「違う!」


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