ば…、婚約者から婚約破棄を言われた
今、この時ほど神に感謝したことが無い。
目の前にいる婚約者とその横に立っている令嬢。そして、それを見せられている私こと、レイフィア=メーディア。公爵令嬢であり、この婚約者であるアポロス=ヤクヴァルから予想外の言葉を発せられた。
「……………、アポロス様?すみませんが、もう一度おしゃってもらっても?」
「本当にどうしようもないな、お前は。だから、お前とは婚約破棄をする。そして、俺はルビィと婚約すると言っているんだ」
はぁと呆れたように溜息をつくその姿に内心でイラァとしながらも表には出さないようにしている私を褒めて欲しい。
金髪、黄緑色の瞳、端正な顔立ちで周囲の淑女からは黄色の声を浴びることが当然だと思っているこの男は今、私にとんでもないことを言ってきた。
同じ公爵家で政略結婚の為の婚約であったのだが、今それを破棄すると。
四年間も婚約していた私に対してよくもまあきっぱりと言ってきたものだ。
内心で呆れながらも彼の隣に立っている令嬢、ルヴィリナ=ナーナリ子爵令嬢を見やる。
彼女は私たちが通う学園では有名人である。悪い意味で。
やれ王太子と一緒に城下を歩いていたり、やれ他の婚約者のいる令息たちと食事をしているなどそれはそれは令嬢としてあるまじき行為をしているのだ。
そんな問題のある令嬢を婚約者にするですって?いよいよ頭がおかしくなったのか?いや、元からおかしいか。うん。
そんな私をよそにアポロスはつらつらと惚気話をする。
「お前のようなつまらない女よりもルヴィの方が毎日楽しく癒されるんだ。だから、お前なんていらない」
「アポロス様ぁ」
媚びるように上目遣いで彼を見ている彼女を観察して、手慣れているなと呑気に思っていた。
「……………分かりました。婚約破棄の件、承りましたわ。それでは」
くるりと回れ右をしてさっさと退場する私に待てと制止をするアポロス。
「何か?」
「それだけか?なんなら、ここで懇願でもすれば愛人にしないことも無い」
さらにとんでもないことを言ってきたぞ、この男。
公爵令嬢の私を愛人にですって?馬鹿にするのもいい加減にしてほしいわ。
しかも子爵令嬢が婚約者で私がその格下に??
「そんなのお断りですわ。私を馬鹿にしたことを償ってもらいます」
彼を見ずにきっぱりと断り、その場を後にした。
屋敷から出てすぐに待ってもらっていた馬車に乗り込む。
待っててくれた侍女のラーメが驚いたように私に訊いてくる。
「ど、どうしたのですか?お嬢様」
「もうここにいる必要が無いわ。早く出発してくれる?」
ふかふかの椅子に座り、そう指示をすると何かを察してくれたラーメが素早く行動に移してくれて馬車が走り出す。
屋敷に戻る中でラーメに今先ほど婚約破棄をされたこと、愛人になれと言われたことを話すと彼女は顔を顰めて怒り出す。
「な、なんですか!!それ!!」
「ラーメ、そんなに怒鳴ったら馬が驚いちゃうわよ」
「だって、怒りたくもなりますよ!!こんなに素敵で可憐なお嬢様を婚約破棄した挙句に愛人ですって!?」
ふざけているし、頭お花畑状態ではないですか!?と言ってくる彼女にまさにその通りだとふふっと笑ってしまう。
「まあ、とにかくお父様に相談しましょう」
まあ、お父様ならあの男のことを許すなんてあり得ないけど。
「うん。あの馬鹿どもを潰そうか」
お父様、笑顔でそう言うのは怖いです。
屋敷に戻って、書斎で仕事をしている父であるファラス=メーディアに婚約破棄のことを話すと一瞬真顔になってから輝くような笑みを浮かべて先程の台詞を述べた。
二児の父親にも関わらず、艶のある鳶色の短髪と宝石のように輝くガーネットの瞳、色白の肌で端正な顔立ちなのに体格がいい。
若々しく有能で社交界でも有名だ。まあ、愛妻家と親ばかで家族に害ある者には容赦がないのも含めてだが。
そんな父の隣でうんうんと同意するかのように頷く執事長のポール。
「お嬢様がご立派な淑女であるにも関わらずにそのような侮辱的行為には制裁が必要かと思います」
「ポールは分かっているね。それじゃあ、ヘファイスを呼んで……………」
兄であるヘファイスを呼ぼうとした時だった。
バタンと扉がけたたましい音を立てて開けられた。
誰だと見るとそこには母であるミュニエルが立っている。
こちらも若々しく、社交界では顔が広い。
鮮やかなプラチナブロンドの長い髪は髪留めで結われ、こちらも色白で端正な顔。
ほっそりとした体格で淡い紫色のドレスを纏っている。
そんな母がぜはぜはと息を荒げて立っているから全員が驚いた。
いつもなら穏やかに笑っていて、おっとりとしているのに何かあったのか。
「ミュニ、どうしたんだい?君がそこまで慌てるなんて……、あ、もしかして私に内緒で飼っていた猫が子どもを産んだかい?この頃、気になっていたようだしね」
「な、なんで、知っているのですか!?あ、いいえ!それよりも大変ですっ」
そういえば、動物が好きでしたわね。まあ、そちらに構い過ぎて嫉妬した父が動物を飼うのを禁止になってしまったのですけど。
しかし、彼女の様子は尋常じゃない。
「で、ディヴィス殿下が訪ねてきましてっ、レイフィアに会いたいと!」
「…………………………へ?」




