↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/129

法力を感じよ 13-2

「おのれ!空気も読まずに小賢しい子供が!」

 光秀だがお菊に激高したのである。

「あなたたちみたいな汚らわしい大人は大嫌いだ!大嫌い!」

 お菊も構わず反論したが。


「家老様!イ草の茂みの中に我が軍の兵の遺骸が何体も転がっています!」

 佐久間の配下の兵が異変に気付いたのである。

「面倒な事に!ちっ!」

 光秀は小声で舌打ちしたが

「十兵衛!これはどう言う事じゃ!」

「坂本から来た女2人を斬るように命じました。可愛がろうと思ったら反撃された次第です。でも良かった。女2人が門徒衆だったのでね」

 光秀はとぼけたのである。

「それで兵を10名も失ったなんてどうするんじゃ!」

 佐久間は仰天してたが

「明日の坂本での延暦寺との戦では我が軍の兵ももっと死にますよ。もっとね」

 光秀は悪びれずに返したのである。

「柴田の隊でも徳川の隊でも同じような事件があって殿は成敗させた!軍規がたるみ切っておる!おぬしが責を取らせろ!」

 佐久間信盛は信長の父の信秀の代からの古参の家臣である。信長よりも年上で経験も豊富で慎重で手堅い男である。慎重で手堅いのが信長の方針とぶつかる事も多かったが。

 ただ信長だが残虐で粗野な面ばかりが現代に語られているが法規には厳しい面があり信長の意向に沿わない残虐や狼藉問題行為など軍規を守らない兵には厳しく自ら手討ちする事もあった。佐久間はそれを光秀に行うよう求めたのである。

 しかし光秀は下がらなかったのである。

「ご家老。言ったでしょう。明日我が軍の兵はたくさん死ぬんですよ。あなたの兵もね。明日戦死して責を取らせますよ」

「何を根拠にそんな言い訳をな!」

「比叡山坂本の部隊は強力な法力持ちなんですよ。人 相手ではないのですよ。僕には分かるんですよ」

 光秀だが佐久間とのやり取りに苛ついたのか体から光をわずかに放ち瞳孔を赤く光らせ始めたのである。

 これが分かる人は織田家ではわずかしかいない。ただここにはそれが分かるのは光秀とお菊だけである。

(何!この人!また何かを放ってる!前と同じ気配だ!これが法力?)

 お菊は光秀が怖くなり少し後ずさりしたのである。

「何を言ってるのか分からんが味方の兵を戦の前に死なせたのはおぬしに責があるんじゃ!」

 佐久間も法力は感じない人間だったが光秀の普段とは違う異常な気は感じたようで少し声を裏返しながら返したが

「女の尻はぬぐえても部下の尻ぬぐいは出来ないのか?」

 光秀は佐久間の言い草がよほど気に入らなかったのか怒りを露骨に佐久間にぶつけたのである。

「殿!おやめください!」

 慌てて光秀の重臣の溝尾茂朝や藤田伝五らが間に入ったが

「その言い草は我慢ならん!ワシは織田家の家老じゃ!慎め!」

「今すぐ僕に変わってもらっても構わないが?」

「生意気な若造が!」

「父上!落ち着いて!明智様も!」

 今度は佐久間の息子の信栄やその家臣衆が2人の一触即発を感じて2人を引き離したのである。


 甚兵衛は黙ってやり取りを見ていたが

「十兵衛様(光秀)、左馬介様(三宅秀満)。今回はすまない。俺の不注意でとんでもない大事になってしまった。帰蝶様にも迷惑をかけれん。息子たちを頼む」

 そう言うと突然脇刺を抜くと自分の首を刺したのである。そしてそのまま倒れたのである。


「はっ!」

 お菊は思わず声を上げてしまった。

「甚兵衛!」

「くう!」

 光秀も秀満も悲壮な声を上げたが甚兵衛はそのまま息絶えたのである。


 光秀はお菊を睨みつけると

「買いかぶり過ぎたよ!僕の責だがね!責を取ってもらおうか!」

 太刀を抜いてお菊に向おうとしたのである。

「う!」

 お菊も慌てて再度太刀を構えたが気合で既に押されていた。恐ろしくてお菊は少し震えていた。

「殿!おやめください!落ち着いて!あの娘はいろはの代わりになります!」

 溝尾茂朝が慌てて光秀を止めたのである。

「いろは?誰?」

 お菊は何か分からなかったが

「今は信長公に詫びましょう!甚兵衛の死を無駄に出来ませぬ!」

 藤田伝五も続くと光秀はようやく落ち着きを取り戻し太刀を鞘に収めると甚兵衛の元に駆け寄り

「すまない。甚兵衛。僕を気遣ってくれて」

 涙を流しながら甚兵衛に詫びたのである。

 そして

「家老殿。殿(信長)に謝るとはこうやるのですよ」

 光秀は甚兵衛の遺骸を背中に背負うと馬に乗ったのである。

「何をする気じゃ?」

「今から甚兵衛と殿の元に行って詫びてきますよ。茂朝。心眼殿とお菊たちの件は頼む」

 そう言うと甚兵衛を背負ったまま騎馬に乗り溝尾茂朝を残し、三宅秀満、藤田伝五と親衛隊衆と共に円城寺にすごい勢いで走って去って行ったである。


「若造め!帰蝶様の縁者と殿(信長)のお気に入りを盾に調子に乗りおって!」

 信盛は歯ぎしりしたが

「父上!落ちついて!余計な争いは殿(信長)に目を付けられます!ご辛抱を」

「兄者!十兵衛殿は人離れした妙な感覚を持ってると!絡まない方が良いです!」

「くう!分かったわい!」

 信盛を息子の信栄と弟の信辰がなだめたのである。佐久間も少し気が落ち着いたのか事情を悟っていたのか光秀らを追うように円城寺に向かったのである。


「あの人(光秀)、やっぱりやばいよ」

「さっきのあの人が言ってた明日の事だけど本当かな?」

 残された佐久間兵は光秀の事をひそひそと話をしていたが。


 茂朝の配下の者が心眼の縄をほどいたのである。

「大丈夫ですか?」

 お菊が心眼の元に駆け寄ったのである。

「大丈夫だ。貴殿の手助け、礼を申す」

 心眼だが茂朝にも礼を言ったのである。

 お菊も茂朝に頭を下げた。茂朝が怒った光秀を止めなければ成敗されていたかもしれないとお菊も思ったからである。


「さっきの明智殿の言葉、本気なんですか?」

「本気だ」

 お菊の問いに茂朝は返した。

「いろはって誰ですか?橘花殿も」

「強力な法力持ちだ」

 茂朝は淡々と返した。

「法力って何ですか?」

「俺には分からない」

 茂朝があっさり言うと

「さっき君が明智殿に感じた感触だ」

 心眼が代わりに返した。

「そんな恐ろしい力を持った人が坂本にいるんですか?もしかしたらさっきの坂本の門跡に居たのが橘花殿といろはなんですか?」

 お菊は心眼に聞くと

「そうだ。あの門跡は橘花の門跡だ。いろはは居なかった。おそらく坂本の町に潜んで信長公を待ち構えてるのだろう」

 心眼は淡々と言った。

「いろはは以前は殿(光秀)を慕っていた。でも信長公が延暦寺を焼くと聞いて殿と戦う道を選んだんだ」

 再度茂朝が話し始めた。

「女の人なんだ」

「いろはは君と同じくらいの子供だ」

「あたしと同じくらい?」

「でも彼女の方が君より桁違いに強力だ」

「桁違い?法力が?」

「もう気にしなくて良い。坂本も延暦寺も明日には無くなる。追って織田の通行手形を渡す。宿も用意する。この戦いの結末を見て大阪の本願寺に帰って見たままありのままを本願寺に伝えて欲しい。そうすれば本願寺も考えを改めてくれるだろう。俺は隊に戻る。さらばだ。生きていたらどこかで会おう」

 溝尾茂朝はそう言うと光秀らを追って行ったのである。


「あたしと同じくらいの子があそこにいるんだ」

 お菊は呟いた。

「そうだ。彼女の狙いは信長公ただ一人だろうな」

「その子の事を知ってたんですか?なぜ黙ってたんですか?」

「君が何でそれを知る必要があるのだ?我々は最初から戦うつもりはなかっただろ」

「そうだけどさ。でもさ」

 心眼の返しにお菊は不満そうに返したのである。


「明日は円城寺周辺で坂本の戦いの様子を大人しく見てくだされ。坂本からの2人の手形もどうぞ」

 溝尾茂朝の使いの荒深小五郎が手形を持って来た。坂本からの女子を解放した後にお菊と心眼を宿に案内した。

 心眼とお菊は光秀の手配した円城寺近くの琵琶湖湖畔の宿に入るとようやく落ち着いたのである。お菊は気分を変えようと独りで琵琶湖の湖岸に向かったのである。

「今日は疲れたよ。2人だけでも救えて良かったのかな。それにしても明智殿、あの人はあたしには分からない」

 琵琶湖と比叡山の山並み、遠くの坂本の町を眺めながらお菊は呟いた。

「こんなきれいな景色な場所なのに。明日、明智殿や信長公は本当に延暦寺や坂本の人たちを撫で斬りにして焼き討ちするんだろうか」

 延暦寺が欲していた篠原長房や三好三人衆の援軍はついに間に合わなかったのである。

「あの地獄が繰り返されるんだ。本願寺の偉い人たちはこの結果がどうなるのか気付かないのかそれとも知らんぷりしてるのかな」

 お菊はしばらく琵琶湖をぼんやり眺めていたが自分では何もできないと悟り宿に戻り今日の嫌な思いは忘れようと布団に潜ったのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。