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お人形の館 8-1 挿絵あり

 挿絵(By みてみん)

 近江の六角義賢への支援作戦だが六角義賢が織田信長と和睦したので作戦は終了し石山本願寺からの援軍も撤退する事になったのである。

 信長だが義賢と和睦したのでその支援に来ていた石山本願寺の支援軍の安全な撤退も約束したのである。


 信長だが同時に朝倉義景、延暦寺とも和睦し朝倉義景は拠点の越前一乗谷へ、信長も美濃岐阜城に撤退し1570年8月の野田福島城の戦いから始まった滋賀の陣はこの年の暮れ、12月にようやく終結したのである。


 朝倉義景と延暦寺の支援のため京街道を東に進んでいた篠原長房、三好三人衆の本隊だが摂津茨木城周辺で織田方の和田惟政の待ち伏せを受け再度体制を整えようとした矢先だが信長と義景、延暦寺との和睦交渉が始まったのもあり進軍を停止。本願寺からは篠原長房、織田からは松永久秀が交渉を行いこちらも双方人質を交換する事で妥結、本隊も大阪に撤収したのである。


 ただ大阪への帰りだが心眼、弥生、阿形、吽形、マリアら一行が暗い顔だったのはお菊も気になった。奈阿、京香、太郎兵衛を失い倉蔵が除隊になり痛手が大きかったからだろうとお菊も黙っていたが。


 お菊は2か月振りに石山本願寺の自分の暮らす坊の桜花院に無事に戻ったのである。

「婆や!ただいま!」

「お帰りなさい。ご無事で何よりですよ。大変だったみたいですね」

 婆やも笑顔で迎えお菊を抱きしめたのである。

「心眼様が休憩して良いって。つらい事は忘れなさいって。そうするよ。もう忘れたい。おいちと凛凛も大丈夫だったって聞いたから2人と久々に堺に遊びに行こうかな?今月はお小遣い多めにもらえるし」

 お菊が言うと婆やは暗い顔で返したのである。

「お菊さん。実はおいち様と雑賀衆ですが雑賀の里に帰ってしまったのです。お凛さんも堺のお家に戻ったままこちらには来ていません」

「え?なんで?」

「実は……」

 お菊がきょとんとすると婆やは事情を説明してくれたのである。


 篠原長房、三好三人衆と京に向かっていた石山本願寺の主力だが摂津茨木城(大阪府茨木市)周辺で織田側の和田惟政の鉄砲隊の待ち伏せを受けたのである。

 ちょうど鉢合わせしたのはおいちとおいちの叔父で後見の鈴木義兼らが率いる雑賀衆の部隊であった。雑賀衆は反撃体制を整えるために撤退を試みるもその時に六花仙第2席次のろくが率いる根来衆の部隊が雑賀衆の撤退を待たずに鉄砲で反撃したのである。そのため多数の雑賀衆が巻き込まれて死傷、おいちと鈴木義兼は奇跡的に無傷で済んだがおいちと義兼ら雑賀衆が激怒し根来衆の陣地に殴り込みろくと根来衆と乱闘になったのである。

 篠原長房が間に入ってその場は鎮めたがおいちと兼続、雑賀衆はそのまま部隊を雑賀の郷に撤退させてしまったのである。またおいちと一緒に行動していたお凛とその配下の堺衆(会合衆の私兵)も巻き込まれ死傷が出てお凛も奇跡的に無傷だったがお凛の執事が戦死しそれ以降はお凛も石山本願寺に来ずに堺の実家に居ると言う。


 石山本願寺に帰ったお菊だが道場に向かったのである。

 まず清澄と悠然からは奈阿、京香、太郎兵衛が極楽浄土に旅立ち倉蔵が心の病で実家(寺)に戻った事が告げられた。そして旅立った3人へ南無阿弥陀仏を唱えた後はいつも通り修行が始まったのである。元々清澄、悠然は淡々としていたがこの日も修行は人数が減った以外は普通に淡々と行われた。ただ心眼、阿形、吽形、弥生たちは来ていなかったが。今回の戦がまるでなかったように修行はいつも通り終わったのである。

 しかしみんな奈阿、京香、太郎兵衛が戦死し倉蔵が心を病んで除隊になった事を気にしていたようで修行が終わると近江の戦線に居たお菊、小次郎、千代目、一郎に色々聞いてきたのである。

「あの奈阿と京香が死んでもうたなんて信じられんわ!」

 2人と仲が良かったこずえが涙目に言った。

「巨漢の下衆(げす)な傭兵に捕まってしまって運が悪かったと聞いたけど」

 一郎が返したが

「それでも奈阿は襲って来た傭兵たち4人も返り討ちにした。悔いは無いと思う」

 小次郎が小声で言うと

「嗚呼!3人が極楽浄土に行っても残された方はやりきれんわ!」

 こずえが半泣きで言うと

「だからこの戦が終わるまで生き残ろうよ。何をしてでも。それしかないよ」

 お菊が言うと

「そうやな。それしかないな。でもあの強い奈阿が死んでまうなんて戦場は地獄や」

「これが進むは極楽。退くは地獄なんかいな」

 まえこが苦渋の顔で言うと

「違うよ。進むも地獄。退くも地獄だ。こずえ。もう深く考えるなよ。お菊の言う通りさ。俺たちは生き残る事を考えよう」

 こずえと組む平助が慰めながら吐き捨てるように言うと

「そやな。奈阿、京香、太郎兵衛、南無阿弥陀仏」

 こずえが言うと再度みんな手を合わせたのである。

「あのさ」

 いつも太郎兵衛や倉蔵にいじられて逃げてばかりいた弥吉が言った。

「太郎兵衛、倉蔵。南無阿弥陀仏。でも俺、思ったんだ。進むは地獄。退くは極楽って。太郎兵衛、倉蔵に教わったのかもしれない」

 弥吉が言うと

「良いよ!弥吉!」

「賛成だ!」

 お静と清兵衛が相槌を打つと

「進むだけじゃなく下がるのも勇気か!」

「今日は良い事学んだ!」

 松丸とひなたも言うと

「みんな!生き残ろうよ!」

「おう!」

 お菊が言うとみんな元気を取り戻したのである。


「ところでさ。おいちと凛凛、大丈夫かな?」

 婆やの言う通り2人が来ていないのをお菊が切り出すと

「雑賀衆の(おいちと一緒に居た堺会合衆とお凛の)部隊が待ち伏せされて後退が終わる前にろくの部隊が反撃して雑賀衆に死傷者を出したんだ」

「あたしたち後方の荷駄に居たから現場は分からないけど」

 庄助とたまが小声で言った。

「(篠原)長房様から聞いたけどあの明るいおいちが怒り泣きながらろくに飛び掛かったって」

「長房様も驚いていたよ」

 篠原長房の配下に入っていたみずなと新兵衛も小声で続いた。

「そうだったんだ。大丈夫かな。おいちと凛凛」

 お菊は心配そうに呟いた。


 数日後、お菊だが心眼と弥生たちがお凛の家に行くと聞いたのである。

 心眼と弥生たちだが本願寺の高僧と雑賀の郷に詫びに行って戻ったばかりであったが今度は堺衆とお凛の執事の戦死の件でお凛の実家に詫びに行くと言う。

 お菊だがお凛の様子が心配なので一緒に行きたいと言ったのである。心眼たちは渋っていたが弥生が承認したのである。


 お凛の家は堺の町中の豪商の家が建ち並ぶ一角にあった。堺だが石山本願寺から馬で移動すればすぐである。ただお菊が驚いたのは一緒に来た面子である。六地蔵筆頭の心眼、六花仙筆頭の弥生はともかく六地蔵の阿形、吽形も同行し、六花仙は空席の第5席次と事件を起こしたろく以外全員揃っていたのである。

「なんでお菊がいるんだい?」

 しかしお菊を見て珍しくマリアが声を荒げた。

「凛凛が心配で来たんですが」

 お菊が返すと

「お菊にはお凛の部屋に入って直接話してもらうわ。いつも通りのたわいの無い話だけで良いのよ」

 弥生も返した。

「そりゃそうかもしれないけどお菊がアイツに気に入られたらそれこそ最悪だぞ?」

 マリアが意味不明な事を言いながら嫌そうな顔で弥生に返した。

「弥生姉さん。やはりお菊は今回は参加しない方が良いかと。どうしてもなら俺がお菊とお凛の部屋まで同行します」

 第三席次の冬も緊張気味に言った。

「大丈夫よ。あなたはおふうと私と一緒に居て。彼もそこまでしないわ。誠心誠意で話せば通じるわ」

「しかし!弥生姉さん!」

「私も心配ですが!前もそんな感じでしたし。話がますますこじれるかと!」

 冬に続き第4席次のおふうも心配そうに言った。

「向こうもそこまで愚かじゃないわ。もう私たちに味方しないなら話は別だけど」

「そうですが」

 冬とおふうはそれでも何か不安そうであったが。

「?」

 お菊は弥生、冬、おふう、マリアたちが何を話しているのか全く分からなかったが。


「ところで弥生さん、おいちは大丈夫ですか?」

 お菊はおいちが気になって弥生に聞いてみたのである。

「大丈夫よ。ろくはしばらく謹慎させるわ。根来衆も詫びの使者を雑賀の郷に送って来たの。おいちの父上の(鈴木)重秀様も今回は偶発的な不幸な事故って納得してくれたわ。おいちはもうすぐ本願寺に戻るわ」

 弥生が返すと

「よかった!おいちのお父さん良いお父さんで!凛凛のお父さんも良い人で納得してくれないかな?」

 弥生だが一瞬暗い顔をした後に

「そうね。大丈夫と思うわ。だから今回あなたに一緒に来てもらったのよ」

 弥生も笑顔で返したのである。


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