類は友を呼ぶ 5-3
「今日は疲れたよ」
共同浴場でお菊はぼやいた。
「ほんまや。誰かさんのせいでしゃべり過ぎて疲れたわ」
お凛はおいちを睨んでいた。
「ウチは馬がいるから走らんでええのに。あんなに走らされたら足は痛いし爽やか美少女が汗で台無しや」
おいちはお凛など気にせずふくらはぎを湯船の中で揉んでいた。
この日は走り込みが苦手なお凛とおいちは脱走しようとしてお菊、こずえ、ひなた、お静に捕まって仕方なく走り込みに参加させられたのである。2人とも汗を洗い流したいので共同浴場に来たのである。
「ところでみんなさ。どうもつがいが決まるようだよ」
奈阿が切り出すと女子は興味ありと身を乗り出したのである。
「ま、既にご察しのつがい以外に興味やね」
こずえも分かってるやろと言わんばかりに続いた。
奈阿とこずえは他の女子より年長なので先に情報が入っていたのである。
お静とひなたはえへへと苦笑いしみずなも顔を赤らめていた。
この3人は地元の男子と既に親しかったので他の女子もそれほど違和感なかったのである。駿河のお静は隣国伊豆の清兵衛、美作のひなたも隣国の備前の松丸、四国阿波のみずなは四国同士讃岐の新兵衛と良い雰囲気になっていた。
「みずな!なんか顔赤いで!どこまでいったん?」
おいちが嬉しそうにみずなに絡むと
「こら!おいち!やらしい!」
お菊がおいちを止めたのである。
「ところで本願寺はやっぱ実家の近さで決めてるんかいな?」
京香が聞くと
「そうだね。本願寺の基本は実家の距離とまぁ性格みたいだね」
奈阿が言うと
「じゃあ加賀のたまは越前の庄助?ま、ええやん」
まえこが言うとたまは顔を赤らめてたが。
「(伊勢の)千代目も隣の尾張の一郎かな?」
「一郎だったら別に良いよ」
お静の問いに千代目もまんざらではなかった。
「こずえも平助といつもケンカしてるからちょうど良いね」
ひなたが言うとこずえはちょっとずっこけながら苦笑いしてたが。
「となると太郎兵衛、倉蔵、弥吉と曲者揃いだね。あ、小次郎も居たな。小次郎は悪い奴じゃないけどしゃべらな過ぎで分かんないんだよね」
千代目が言うとみんなうなずいた。
「これってお断りってあるのかな?」
お菊が小声で聞くと
「有りだよ。性格合う合わないは仕方ないからね」
奈阿が返した。
「確かに太郎兵衛と倉蔵、弥吉はちょっと癖あるわな。あたしも自信ないわ」
まえこが正直に言うとみんなうなずいた。
「ま、あたしと京香、まえこ、お菊は本願寺にお任せだね」
奈阿が神任せと言うと
「おいちとお凛はどうすんねん?」
京香がおいちとお凛に聞くと
「ウチらは寺に行かへんから」
「別につがいなんて頼んどらんし」
おいちとお凛は素っ気なく返したのである。
「こうゆう恋話を聞いてる方がウチは楽しいな!誰が一番早く子宝できるとか掛けへん?」
おいちが目を輝かせながら言うと
「意外とあんただったりして」
「ウチもそう思う」
お菊とお凛が返すと
「何でやんねん!ウチは決まった男なんておらんで!」
おいちが口を尖らせたが
「なんか気に入ったのが居たらすぐ手を出しそうだから」
お菊が返すと
「何やと!聞き捨てならんわ!お菊こそ清楚な振りして色々ちょめっとしてるんやろ?」
「なにおぉ!あたしは清く正しく美しくいたいのよ!」
おいちとお菊はいがみ合いを始めたのである。
「ま、ええわ。今日は堺に帰るの面倒だからお菊の坊に泊めさせてもらお。そこで男の気配無いか探したろ」
「ウチも泊まるわ」
「もう!やらしい勘繰りやめてよ!勝手にどうぞ!」
お菊は口を尖らせたのである。
他の女子は呆れ気味に苦笑いしながらやり取りを見ていた。
ついにつがいの件が石山本願寺から発表されたのである。石山本願寺にとっては重要な行事なので顕如の重臣の坊官の下間頼総がわざわざ来て対応したのである。ただ、今年は少し例年と方針を変えるとも伝えられたのである。
つがいだが奈阿とこずえが話していた通り、途中までは予想通りだったのでみんなあまり驚きはなかった。
こずえは平助、お静は清兵衛、千代目は一郎、ひなたは松丸、たまは庄助、みずなは新兵衛である。
「ええんちゃう。ベタ過ぎるくらいかな」
「静かに!」
おいちをお菊が黙らせたのである。
いよいよ問題の4人だが奈阿は太郎兵衛、京香が倉蔵、まえこが弥吉、お菊が小次郎になったのである。
お菊だが消去法だが小次郎で安堵したのである。
「みんなの国元や性格を考えて選ばせてもらったよ。物言いがあったら後からでも構わないので私に連絡するように」
頼総が言うと太郎兵衛と倉蔵は何か言いたそうな顔をしていたが黙ったのである。ただお菊だけでなく他の女子もだが奈阿、京香、まえこが黙って面倒な男子を受け入れたのに驚いていたのであるが。
「あと今年から色々ありそうなので方針を少し変える。去年までは優れた修行者を六地蔵や六花仙の候補にしてそうでは無い者は国元に帰していたが我々に敵対する織田信長に対抗するため六地蔵や六花仙の候補だけでなく予備候補をも擁立する事にした」
「六地蔵や六花仙の予備候補?」
みんな不思議そうな顔をした。
「まず六地蔵候補は太郎兵衛、一郎、小次郎。六花仙候補は奈阿、こずえ、お菊。予備の六地蔵候補は倉蔵、平助、清兵衛、松丸、庄助、新兵衛、弥吉。予備の六花仙候補はおいち、お凛、京香、まえこ、お静、ひなた、たま、みずな」
「え?全員じゃない?」
お静が驚くと
「そうだ。今は1人でも戦力が要るのだよ」
「戦に向いてへん子もいると思うけどなぁ」
京香が言うと
「後方でも構わないよ。今年に限り全員、阿弥陀如来様のために戦って欲しい。諸君の働きに期待してるよ」
頼総がそう言うと微妙な空気が流れたのである。
お菊も内心は驚いていた。今回の子女、男子も明らかに武の道に向いていない面子がいるからである。
そのような面々も戦場に送るのは命が危険でさえあった。
「今までは生き残り試験を行い選別していたが今年はみんなの仲が良く選べなかったのだよ。あと阿弥陀如来様に盾突く織田信長を倒さねばならない。分かって欲しい」
頼総が言うとみんな黙ったのである。
「まずはみんな相手が決まったのでお互いに話して分かり合って知ってもっと近くなるようにね」
弥生が戸惑うみんなを落ち着かせようと間に入ったのである。
まずは弥生の言う通りみんな決められたつがいになって互いに言葉を交わしたのである。
元々地元の同士で仲が良かったお静と清兵衛、ひなたと松丸、みずなと新兵衛は爽やかな良い若者たちである。喧嘩が多いこずえと平助、微妙に遠いように見えた千代目と一郎、口数が少なかったたまと庄助も2人になるとそれなりに良い感じになったのである。
ただ奈阿と太郎兵衛、京香と倉蔵、まえこと弥吉、お菊と小次郎はお互いに見えない壁を作って全く会話が無かったのである。
奈阿、京香、まえこは女同士で話し、太郎兵衛、倉蔵、弥吉も男同士で何か話していた。
お菊だが小次郎とはほとんど話した事が無かったのである。小次郎を悪い人間とは思ってなかったし小次郎の腕はお菊も認めたが無口でお互いに話す機会が無かったのである。
今回、お菊は小次郎との間を近くしようとしてみたのである。
「小次郎?よろしくね」
「おう」
おう で終わりかよとお菊はむっとしたのである。
「小次郎って無口だね」
お菊は直球を投げてみたが
「そうだな」
小次郎はそのまま返して来たのである。
お菊は予想以上に我が道を行く小次郎にいらっとし再度直球で返したのである。
「なんでさ?」
「だって六地蔵になったらいつ死ぬか分からないだろ?」
「生きてる間にいろんな人と話すのは嫌なの?」
「お前だって六花仙になったらいつ死ぬか分からなないだろ?」
つまんない奴 とお菊は思ったのであるが
「生きてる間だけでも楽しく過ごせば良いじゃないさ!」
お菊は少し強い口調で言うと小次郎は少し黙った後
「お前、良い事言うな」
他人事のようにお菊に行ったのである。
「あなたねぇ!もう!知らない!」
お菊はがくっとなり呆れてぷいっと反対を向くとそのままどこかに行ってしまったのである。
「あれ?あいつ何を怒り出したんだ?」
あまりに我が道を行く鈍い小次郎はお菊が分からず呆気に取られていたが。
「お菊?」
「お~い!お菊!」
弥生だけでなくみんなが驚いてるのも気にせずお菊は出て行ったのである。
お菊だが石山本願寺の本堂の縁側に座ってすねていた。
「おったわ!」
「どうしたんだい?」
おいち、お凛、京香、奈阿、まえこが探しに来たのである。
「ちょっと小次郎があまりに我が道を行くんでね。呆れちゃった」
お菊が正直に言うとみんな苦笑いしたのである。
「奈阿なんであいつらを受けたの?京香も」
「同じ三河衆だしね。あのバカをちょっと懲らしめてやろうかってさ」
「あたしも奈阿に賛成したよ。今は世間知らずのお年頃なんだよアイツら。今からお互いに大人になれば良いってさ」
「なるほどね。前向きだね。まえこは?」
「いつも太郎兵衛や倉蔵にいじられてばかりでだらしない弥吉を鍛えてやろうってさ」
「みんな偉いね。すごいよ」
お菊はなんだか自分が恥ずかしくなってしまった。
「小次郎はちょっと鈍いからね。あんたも我慢して気長におやりよ。薙刀に関しては小次郎もあんたも良い腕だから良いつがいになると思うよ」
奈阿が言ったのである。
「そうだね。みんなありがとう。あたしも癇癪を起して反省かな。もう少し小次郎と話してみるよ」
お菊がそう言うと
「長生きして大人になったら良い事もあるさ」
奈阿も返した。一同道場に戻ったのである。




