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星に願いを  作者: 唐上遼
3/10

空について

 

 この街の空は私の育った町の空とは全然違うけれど、突然あの頃と同じ空が見える時があるの。


 どういうこと?


 どういうことか、説明するのは難しいんだけどね。

 懐かしい人が会いに来てくれたみたいに感じる時がある。

 私の町に住んでいた誰かが、私を心配して見に来てくれたみたいに。

 そういうふうに空の色が慣れ親しんだ誰かに見える時がある。


 へぇ、神様ってこと?


 そうかもしれない。私はよく泣いてたらしいから、気にかけてくれたのかもね。

 私の育った町の空に住んでいた神様が、元気にしてる?って見に来てくれてるのかも。


 面倒見のいい神様だね。


 そうだね。

 きっと、目に見えてないことはたくさんあるんだよ。

 忙しいとよく考えなくなっちゃうけど、気付いていないだけで大切なことはいっぱいあるんだよ。


 そうかもしれないね。


 きっと彼女の脳裏にはあったはずだ。

 昔彼女から一度だけ聞いた話だ。


 彼女のお父さんはまだ彼女が小さい頃に亡くなった。

 とても仕事熱心な人で、力にあふれた人だったらしい。

 そんな人が、突然病に倒れて、入院して、一度も家に帰れないまま亡くなった。

 きっと伝えたいことがたくさんあったはずだ、きっと残したいことがたくさんあったはずだ。


 そろそろ、お母さんに会いに帰ろうかな。

 いいんじゃない?ゆっくりしてきなよ。

 うん。


 最期は、病院のベッドの上で、奥さんを抱きしめて、彼女の手を握って、それから亡くなったそうだ。

 彼女がお父さんの泣き声を聞いたのはそれが初めてで、それが最後だったそうだ。


 彼女の目が涙に潤んでいるのに僕は気付いていた。

 話さなくても、彼女がお父さんのことを思い出していることが僕にはわかった。


 いまもまだ、お父さんのことを安易に口にできないくらい、幼い彼女は深く深く傷付いた。


 どうして命は途絶えてしまうのだろう。

 この世界にあるものはすべて、消えてなくなったりはしない。

 壊れても、砕けても、それは形を変えただけだ。

 質量は常に保存される。

 それなのに、心は、感情は、息が止まった瞬間にすべて消えてしまうなんて、

 そんなことあり得るだろうか。


 空、きれいだね。

 うん。


 僕はいま何を見ているのだろう。

 空には何が隠れているのだろう。

 気付いていないだけで、きっとそこには何かがあるのだろう。

 彼女を見守っている誰かを見つけようと、僕は目を凝らした。


 僕には何も見えなかったけれど、

 空は青く、とてもきれいだった。



 

 

 


 

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