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「私が一番だと思ってた」

side???



「私が一番だと思ってた」


 


中学のころ、私は“モテる側”だった。


告白されたのは、3人。

もちろん全部付き合ったわけじゃないけど、「可愛い」って言われ慣れてたし、

「橘って、かわいいよな」ってクラスでもわりと話題になってたと思う。


髪型だって、メイクだって、それなりに研究してたし。

自分で言うのもなんだけど、鏡見て「今日イケてるかも」って思う日が多かった。

ぶっちゃけ、同じ学年の女子の中じゃ“勝ち組”だったと、本気で思ってる。


 


で。

そんな私が、胸を張って進学してきたこの高校で――

出会ってしまったのが、白河ユウリだった。


 


入学式のとき、成績首席で壇上に立った瞬間から、

なんかこう……違った。

あの顔立ち、姿勢、制服の着こなし。そしてモデル顔負けのそのプロポーション、完成されすぎてた。

その圧倒的な美貌から、私は中学時代で築いてきた色々なものが崩れ落ちていった気がした。



 




──そして今日、身体測定の日。


 


着替える前の教室、制服の上からでも分かる体のライン。

胸が大きいのはともかく、ウエストまで細くそうなのはズルくない?



 


 


──更衣室。


 

挿絵(By みてみん)

白河さんが制服を脱いだ瞬間、私の中で何かが崩れた。


 


なに、あの胸。


 


いや、そりゃ服の上からでも“大きい”のは分かっていた。

でも実際に見てみると、存在感が違う。

ブラの中にみっちりと詰まった豊満なソレ。

それでいて、重力負けしてない。ていうか、もはや国宝級の芸術品だ。




そして、そのすぐ下にあるくびれ。


 


えぐい。

折れそうなくらい細いのに、肋骨とか浮いてない。

健康的なラインなのに、めちゃくちゃシャープ。


しかも腰の骨のラインがほんのり見えるのがまたズルい。

胸からウエスト、そしてヒップまでの流れが、完璧すぎて視線を外せない。


 


私だけじゃない。

近くにいた子たちも、動き止まってた。

完全に沈黙する更衣室。なんなら下手な男子よりよっぽどガン見。


 


しばらくして我に返った誰かが、おそるおそる聞いた。


「白河さんって、運動とかしてたの……?」

「そのスタイル、努力の結果だよね?」

「絶対努力してるタイプだよね」

「スタイルキープのために食事制限とかしてる?」



……うんうん、そうだよね。

そーゆーのって、どっかで努力してるからこそ、整ってるもんだし――

答えを聞くまでもない。


絶対、なんかしてる。努力してる人の身体。

そう思ってた。


 


でも――


 


「え? いえ、特には」


 


その瞬間、心が折れた。


 


(してないの!? うそでしょ!?)


 


無意識に、手が動いてた。

気づいたら、私も含めて数人の女子が、白河さんのまわりににじり寄ってた。


手が……ワキワキしてた。

引き寄せられるように。


 


「な、なんですか……?」って白河さんがちょっと引き気味に言ったけど、もう止まらない。


「ごめん!ちょっとだけ触らせて!!」

「何そのくびれ!?柔らかいの!?固いの!?」

「下抑えてないってことは天然!?」

「ご利益ありそう……」


テンションはもう謎の探求者たち。

わたしも混ざってた。もう、仕方なかった。


だって――


 


(勝てるわけがないもん)


 


「一番可愛いのは私」って思ってた、

その根拠が、ぜんぶ砕けていったから。


顔も体も、どうしようもないレベルの差。

努力とかいう問題じゃない。最初から勝負になってなかった。


 


だけど、ちょっとだけ羨ましいなって思った。

本物を見た、って感じだった。


 







私たちが騒ぎまくって、詰め寄って、触りまくって

軽くパニックみたいな空気になってたとき。


白河ユウリが、

ほんの少しだけ――困ったように笑ったのを見た。


 


「あの、ちょっと……くすぐったい」


小さな声で、けれど柔らかく。

どこか“年下の子供たちを相手にしてる”みたいな目をしていた。


 


(……なにその顔。ズルいでしょ)


 


普段の無表情で無口な白河さんからは想像もできない、

ふっと仮面がゆるんだような、そんな優しい表情。


目が合った瞬間、わたし――ちょっと息が詰まった。


 


なんだろう。

優しそうで、柔らかそうな、ちょっとだけ“こっち側”に降りてきたような。




(あれが、本当の白河ユウリ?)




そう思った、その瞬間。


 


「はい、おしまいです」


 


いつもの口調で、

きっぱりと、線を引くようにそう言った。


 


それだけで、私たちはハッと我に返った。

まるでスイッチが切り替わったみたいに。


 


彼女は制服を手に取り、

いつもと変わらない無表情に戻って、静かに袖を通す。



もう背中しか見えないのに、

あの一瞬の笑みだけが、ずっと頭から離れなかった。


 


(そんなの……ちょっとだけ、ズルいってば)


 


そう思った。

悔しいとか羨ましいとか、そういうんじゃなくて――


なんか、ただただ惹き込まれる。

恐らく私だけが気づいた、白河悠里のもう一つの顔だった。












sideゆうり



これは……どう対応すればいいんだ




高校生活最初の体育、体力測定の日。

私は他の女子と一緒に更衣室に入り、制服を脱ぎかけたタイミングで――


空気が変わった。


 


(……ん?)


 


視線を感じる。


数人の、いやほぼ全員の女子たちの目が、あからさまにこちらに向いていた。


胸元、ウエスト、脚。


視線の動きでどこを見ているかはすぐわかった。

男子がコソコソ見てるのと違いあからさまにガン見だった。





「白河さんって、何かしてるの? スタイル、やばくない?」


誰かのその一言を皮切りに、周囲のテンションが急激に上がった。


 


「そのくびれ、どうやったらできるの!?」

「てか何カップ!? やばくない!?」

「触っていい? ちょっとだけ!」


 


一斉に詰め寄られる。


私の両脇に入るようにして、前後左右から手が伸びてくる。

胸、ウエスト、二の腕……次々と触れられていく。


 


(ちょっと、まっ!?)


 

端から見たらピラニアに集られてる獲物だったであろう。

一応、「くすぐったいです……」とだけ伝えた。

だが、効果は薄い。止まる気配はない。


触れてくる手に悪意は感じないのだが、元中年男性がJK複数に囲まれて身体をまさぐられている構図と言うのはちょっと、ヤバいのではなかろうか。


いや、今は俺も女ではあるのだが。


 



ただ――


 


ふと思い返す。前世、男子だったころ。


友人とふざけていた頃は、プロレスごっこだの、肩組みだの、

そういったスキンシップもあった。


あのときは、何も気にしていなかった。

むしろ、それが“普通”だった。


 


(これも……もしかして、同じ、なのか?)


 


俺は女子だから、って変に考えすぎていたのかもしれない。

彼女たちのテンションは、悪ふざけに近い。

好奇心と、ほんの少しの嫉妬混じりのノリ。


思っていたより、ずっと無邪気で、

ある意味では男子よりタチが悪いけど――根は変わらない。


 


(……案外、女子も似たようなもんか)


 


そう思ったら、少しだけ肩の力が抜けた。


だからといって、なんでも許すわけじゃない。


触れていい範囲と、踏み込まれたくない領域は、ちゃんとある。


 


私は、静かに一歩下がり、

声のトーンを少しだけ低くして、はっきりと言った。


 


「はい、おしまいです」


 


その一言で、空気がピタリと止まる。


あれだけ騒いでいた女子たちが、まるでスイッチを切られたみたいに黙った。


 


私は制服を手に取って、丁寧に袖を通した。

仮面をかぶり直すように、いつも通りの手順で。


 


視線はまだ感じる。

だけど、もう誰も何も言ってこない。


 


(……やれやれ)


 


思わず、そんな言葉が内心で漏れた。


不快、というほどではないけれど、やっぱり苦手だ。

でもまあ……今のは、女子ならではの“バカ騒ぎ”なんだろう。


 


ふと目を上げると、

さっき一番テンション高く詰め寄ってきた子――橘めいさんと目が合った。


彼女の目には、少しだけ困惑と、なぜか尊敬めいた色が混じっていた。


 


(……変な子だ)


 


私は何も言わずに、視線だけを一瞬返して、

そのまま背を向けて、更衣室をあとにした。

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