表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

白河さんって、誰にでも塩なんですか?

side ナオキ


高校生活二日目。


まだ制服の襟に違和感があって、毎朝ネクタイを締め直すのが妙にぎこちない。

でも、教室の空気は昨日より少しだけ柔らかくなっていた。


周りのやつらも、少しずつ友達を見つけ始めてる。

中学の知り合い同士で集まって笑い合ってたり、休み時間にスマホを見せ合ってたり。

自分は……まあ、まだそこまではいかないけど。


それでも、昨日よりは視界に色がある。


そんな中で――白河ユウリは、やっぱり別格だった。


 


休み時間になると、白河ユウリのまわりには自然と女子が集まっていた。


美人で、頭もよくて――入試の成績は“首席”だったらしい。

まだ入学して2日目だというのに、彼女はすでに“特別な存在”として扱われていた。


けれど、本人は特に気負うでもなく、

話しかけられれば丁寧に応じていた。女子に対しては。





男子に対しては――どこか明確に距離を置いているように見えた。


「よかったら白河さんもLINEとか交換しない?」

「部活、何か考えてる?この学校って結構力入れてるらしくてさ、よかったら……」



そんなふうに話しかけた男子に対しては、


「必要ないけど」

「興味ないかな」


 

と、あっさり。

表情も崩さず、きっぱりと。まるで壁に話しかけたみたいな塩対応だった。



(……あれ?)


 


俺は思わず目をパチクリとさせる。


 

(なんかさっきと態度違わない??)



今朝、俺に話しかけてくれたときは彼女から話しかけてくれたし。

あのときは、もっと柔らかい雰囲気だった気がする。


視線だって合わせてくれてたし、

表情も、今よりずっと素敵な……。






「……佐藤くん」

「ハ、ハイ!?」

 


その名前を呼ばれて、びくっと肩が跳ねた。


視線を上げると、いつの間にかすぐそばに白河さんが立っていた。


 


「これ、さっきの授業のプリント。下に落ちてたよ」


 


プリントを一枚、すっと差し出される。


目を見て、ちゃんと話してくれる。

声のトーンも柔らかくて、拒絶されてる感じなんてまるでない。


 


「……あ、ありがとう」

「ん」

 


受け取ると、白河さんはふっと微笑んで、そのまま自分の席に戻っていった。

周囲にいた女子たちは、白河さんの背中を追いながらも、特に反応はせずに雑談を続けている。


 


(いやいやいや、明らかに違わない!?)


 


俺、何かしたっけ? いや、してない。何もしてない。むしろやらかしちゃってるぐらいだ(おっぱいガン見)

それなのに――


 


(な、なんで俺だけ、普通に会話してもらえてるんだ!?もしかして……)



いやいや、勘違いだ。

白河さんにとっては、たまたま近い席の男子ってだけ。

目が合ったのも、微笑んでくれたのも……全部偶然。


 


のはず。

 


……だよな??




手元のプリントを無意味に何度も見返していた。


 


後ろの席では、白河さんが女子たちと静かに話しているのが耳に入ってきた。

丁寧な口調、落ち着いた声色。

俺に向けたときと変わらない――けど、どこか違うようにも聞こえて。


 


(……いや、気のせいだって)


 


そう言い聞かせながらも、

俺の脳内からは、モヤモヤとした気持ちが中々消えなかったのであった。




















side ユウリ


女子に囲まれているときの自分は、ある意味“仕事モード”に近い。

丁寧に、やわらかく、当たり障りなく。

言うならば、前世で働いていた頃に女性の同僚に接していたときと似ている。


下手にフランクすぎると勘違いされるし、

妙な下心でもあると思われたらそれこそ致命的。

だからこそ、慎重に、礼儀正しく。


 


そういう距離感で、今の私は女子と話している。


……まあ、あっちは高校生で、こっちは中身おっさんだけど。


 


男子に対しては、もっと単純。


用がなければ話しかけないし、話しかけられてもあまり長くは応じない。

理由は簡単で――視線が、わかりやすいからだ。


 


どれだけ取り繕っていても、視線や言葉の端々から、

「こいつ絶対、胸見てたな」ってのが透けて見える。


こっちも元男だから、まあ気持ちは解る。それが露骨に不快ってほどじゃないけど、

わざわざ相手にするほどの価値は感じないよなって話だ。


 


……でも。


 


佐藤ナオキ、あいつは――


ちょっと違う。


 


反応は分かりやすいし、目も泳ぐ。

でも、それが“男”として見られたいというより、

“人との距離感に慣れていないやつ”って感じがした。


……というかまあ、元俺なんだけど。


 


でも、そう思うと不思議と悪い気はしない。


プリントを渡したときも、びくっとして、

焦りながらもちゃんとお礼を言ってくれた。


ちょっと声が裏返ってたけど、それすら可笑しくて――


 


(ほんと、変わってないな)


 


前世での俺も、ああやって人との距離感を測れずに、

無難に生きることばっか考えて、

気づけば“何もしないまま”毎日を流してた。


 


だからこそ、こうしてちょくちょく話しかける。

話しかけられるだけでも、あいつにとっては、たぶん“大きなこと”だ。


 


急ぐつもりはない。

焦らず、自然に。


少しずつ、“あの俺”を変えていければいい。


 


それが、今の私の――ちょっとした楽しみになりつつあった。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ