098 第八部・標準装備
◆火器
略奪者やスカベンジャーたちが使用する標準的な武器は、軍用規格の装薬銃になっている。これらの火器は、文明崩壊後の世界において比較的容易に入手可能な装備品であり、〈鳥籠〉の市場や旧文明の〈販売所〉、さらには放棄された軍施設の廃墟など、あらゆる場所で入手できる。
一般的な装備としては、ハンドガン、アサルトライフル、ショットガンなどの扱いやすい火器が主流で、旧文明期の〈販売所〉に限らず、各地の闇市や交易所でも入手可能となっている。とくに人気が高いのは、耐久性に優れた旧式のボルトアクションライフルや、メンテナンス性の高いセミオート拳銃だった。
〈商人組合〉に所属する商人の中には、より強力な火器――いわゆる携行型グレネードランチャーや短距離迫撃砲などを取り扱う者もいて、〈販売所〉でも火砲の入手は可能になっている。
これらの製品は旧文明の無人工場で今なお製造されていて、弾薬も同様に供給されていて、電子貨幣さえあれば、事実上無制限に入手可能になっている。
また、一般的な火器に加えて、近接戦闘用の装備も携行していることが多い。折り畳み式の戦闘ナイフ、電磁スタンバトン、さらには旧文明期の素材を再利用したカーボンブレードなどが好まれている。これらは、弾薬の節約や静音性を重視する場面――〈人擬き〉との戦闘などで重宝される。
彼らは、ハンドガンやショットガンといった汎用火器から、スナイパーライフルや軽機関銃などの特殊武器に至るまで、状況に応じて多様な装備を使い分けている。
たとえば、〈傭兵組合〉などで特殊訓練を受け、銃剣術に精通した者たちは、小銃に装着可能なタクティカルナイフを携行していることもある。
ハンドガンは近距離での護身用として、ショットガンは遮蔽物の多い廃墟での制圧戦に、スナイパーライフルは遠距離からの索敵と狙撃に、軽機関銃は集団戦闘や防衛戦に用いられることが多い。
しかし、これらの装備が〈大樹の森〉に出現する変異体に対して、どれほどの効果を発揮するかは定かではない。変異体の中には、通常の弾丸を弾く外骨格を持つものや、異常な再生能力を備えた個体も確認されていて、従来の火器では充分な制圧力を持たない可能性がある。
そのため、熟練の傭兵やスカベンジャーは、旧文明期の技術を利用したエネルギー兵器や、弾道補正機能を備えたスマートライフルを携行している例も稀にある。
◆個人用防護装備
略奪者やスカベンジャーたちが身に着けているボディアーマーなどの軍用装備は、旧文明期の〈販売所〉や闇市で入手可能な既製品が中心になっている。
略奪者たちの多くは、現場での生存率を高めるために、鉄板などの廃材を利用して保護力を強化したり、重量を軽減するための改造を施したりする者も少なくない。
一般的なボディアーマーは、胴体などに金属板を配置した構造を持つ。使用されている合金は旧文明以前に使用されていた素材とされているが、それでも旧式の小銃による近距離射撃にも耐えられるように設計されている。
金属プレートの下には複数層のケブラー繊維が使われ、万が一貫通した場合でも、破片から着用者を保護する役割を果たしている。
市販されているボディアーマーの多くは、スチールやセラミック製の複合素材によるプレートが使用されている。これらは比較的安価で流通しているが、プレートの厚みと重量は相当なもので、着用者が長時間の移動や戦闘において動きづらさを感じることも多い。とくに湿地帯や瓦礫の多い地形では、機動性の低下が致命的なリスクとなる。
一部の熟練者は、旧文明の技術を応用したナノ積層処理を施した軽量合金プレートや、衝撃分散構造を持つ多層式アーマーを自作、改造して使用している。これにより、従来の装備よりも高い防御力と機動性を両立させている。ただし、こうした装備は希少であり、入手には高額なクレジットが必要となる。
それでも、これらの装備は〈大樹の森〉に出現する変異体に対しては、あくまで最低限の防御手段に過ぎない。変異体の中には、酸性の体液を噴出する個体や、金属を腐食させる胞子を放つ種も存在していて、通常のボディアーマーでは対応しきれないケースも多い。
そのため、旧文明の高性能装甲板を用いた特殊装備――たとえば、多層構造の放射線遮蔽繊維や、旧文明の鋼材を使用したボディアーマーなどが入手できない者たちは、代替品としてそれらの装備を利用せざるを得ないのが実情である。
◆個人用装備品・タクティカルギア
戦闘服には、耐久性と柔軟性に優れたアラミド繊維が基材として使用されていて、軽量かつ特殊な金属繊維を織り込むことで、高い防刃性能を実現しているものが主流になっている。
この構造により、ナイフや手榴弾の破片による切創に対して一定の耐性を持ちながらも、機動性を損なわない設計が可能となっている。多くの製品では、関節部に伸縮性のある素材を採用し、長時間の探索や戦闘における疲労を軽減する工夫が施されている。
傭兵たちは、衝撃吸収性と防弾性能を兼ね備えた戦闘用ヘルメットを好んで使用していて、状況に応じて拡張現実による視界補助機能を備えたスマートゴーグルを装着することもある。
これらのゴーグルには、動体反応のハイライト表示、暗視モード、汚染濃度の可視化などの機能が搭載されていて、廃墟や森林などの探索において有効なサポートを提供している。
索敵や警戒任務では、携帯型ドローンを使用する者が多い。これらの装備は旧文明期の〈販売所〉や市場でも比較的入手性が高いモノであり、スカベンジャーや傭兵の間で広く普及している。
とくに廃墟探索においては、地形スキャン機能を備えた多脚型の小型ドローンが重宝されていて、瓦礫の下に埋もれた通路や、崩落の危険がある構造物の安全確認、さらには〈人擬き〉などの事前発見に利用されている。
スカベンジャーの多くは、〈テックスキャナー〉と呼ばれる携帯型分析装置を携行している。これは旧文明の遺物や素材の組成をリアルタイムで解析し、〈リサイクルボックス〉での換金価値を予測するために使用される。
標準モデルでも金属成分や放射性物質の検出が可能であり、一部の上位モデルでは、〈データベース〉照合による遺物の識別まで対応している。
戦闘や探索中の負傷に備えて、鎮痛剤や止血剤、救急包帯などを含む簡易ファーストエイドキットも常に携行している。キットには、旧文明期の医療技術を応用した即効性の高い注射型鎮痛剤や、自己凝固性を持つ止血スプレーが含まれていることもあり、応急処置の精度は個人の装備レベルによって大きく異なる。
それらの装備の携行性を高めるために、各種ポーチ類も身につけている。マガジンポーチ、ツールポーチ、メディカルポーチ、さらには小型ドローンやテックスキャナーを収納する専用ケースなどが、戦闘服やベストにモジュール式で取り付けられている。
これらのポーチは、耐水性、耐摩耗性に優れた素材で作られていて、過酷な環境下でも安定した使用が可能になっていたが、略奪者の多くは粗末なチェストリグなどで代用している。
一部の熟練者は、装備の配置や重量バランスを細かく調整していて、迅速なアクセスと動作の妨げにならない装備を追求している。こうした工夫は、戦闘だけでなく、廃墟探索や変異体との遭遇時においても、生存率を左右する重要な要素となっている。




