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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第八部・水底の色彩

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097 第八部・大樹の森〈外縁部〉 


■地域:侵食帯

 集落:灰の裂け目〈AshRift(アッシュリフト)


◆廃墟


〈大樹の森〉の外縁部に位置する集落には、〈廃墟の街〉で居場所を失った略奪者や、野良の廃品回収者(スカベンジャー)たちが暮らしている。彼らは、人の姿が消えた崩壊した都市の残骸や〈大樹の森〉から廃品を回収し、再利用可能な資源として取引することで生計を立てている。


 この地域には、一般的な組合とは異なる独自の組織が存在していて、護衛や情報収集を専門とする者、生体素材の売買や加工を担う者などが活動している。


 彼らの主な収入源は、〈大樹の森〉から這い出てくる昆虫の変異体や野生動物によって得られていた。変異体の肉は昆虫由来であっても一定の栄養価があり、廃墟周辺の市場ではそれなりの価格で取引されていた。


 希少な毛皮や骨は防具や装飾品の素材として重宝され、とくに昆虫の外骨格は軽量かつ高強度なため、車両の簡易装甲や工具の素材として高値で売買されている。


 回収された資源の多くは、旧文明の施設に設置された〈リサイクルボックス〉に投入することで、電子貨幣(クレジット)として換金されていた。このシステムは旧文明の残存インフラを利用していて、素材の種類、純度、希少性を管理AIが判定し、即座に報酬が支払われる仕組みになっている。


 一部の熟練スカベンジャーは、素材の組成を事前に分析するために携帯型テックスキャナーを使用し、より高い換金率を狙っている。


〈大樹の森〉の外縁に位置するこの集落は、秩序なき自由と暴力が支配する場所でありながら、資源と情報が集まる交易拠点としての役割も果たしている。そこで生活する人々は、単なる野蛮な存在ではなく、文明崩壊後の世界に適応した者たちの集まりでもあった。


◆廃品回収者


 スカベンジャーたちの多くは性格に難がある者、あるいは組合内で問題を起こし、最低限の掟すら守れず破門された者たちだった。暴力的な気質、命令無視、物資の横流し、人格異常――理由は様々だが、共通しているのは、彼らが文明崩壊後に形成された社会の枠組みからも逸脱した存在であるということだ。


 しかし、彼らの多くは単なる無法者ではない。〈大樹の森〉の外縁から深部に至るまで、危険な変異体が徘徊する魔境に足を踏み入れ、探索任務を遂行できるだけの技術と経験を持つ者たちでもある。


 毒性の胞子霧、精神汚染を引き起こす怪音、予測不能な地形変化――それらに対応するための知識と装備を備えた彼らは、いわばサバイバルの専門家であり、文明崩壊後の世界における実践的な適応者でもあった。


 かつて傭兵だった者たちの多くは、過酷な探索に耐えられるよう、身体能力や感覚器官を強化する外科手術を受けている。これらの身体改造には〈サイバネティクス〉と呼ばれる製品が使われ、旧文明期の医療技術によって身体に移植されていた。


 人工筋肉繊維を組み込んだ義肢、拡張現実対応型の義眼、嗅覚増幅モジュール、神経インターフェース――脳幹と脊髄に接続されたナノ導線によって反射速度と空間認識能力を強化するものなど、その性能は多岐にわたる。


 これらの改造は、非合法な診療所や、医療組合から追放された者たちによって施術されることが多い。施術には高額な費用と、拒絶反応や精神障害といったリスクが伴うが、スカベンジャーにとっては生き延びるための投資であり、同時に誇りでもあった。


 彼らの姿は、皮膚の下に走る金属線、義眼の冷たい光、感情に乏しい表情など、人間と呼ぶにはあまりに異質なものとなっている。しかし、その異形こそが〈大樹の森〉という魔境に挑む資格であり、彼ら自身が選び取った進化の形態でもあるのかもしれない。


 一部のスカベンジャーは、改造によって人間性を失い、感情の起伏が乏しくなる者もいる。けれど、彼らはそれすらも恐れない。むしろ、感情を犠牲にすることで生存率が上がると信じている者たちもいる。


◆行商人


〈大樹の森〉の外縁部には、〈廃墟の街〉から流れてきた者たちだけでなく、森を拠点とする行商人たちが定期的に姿をあらわすことがある。


 彼らは、外見上は都市圏を離れ、辺境の森で暮らす原始的な集団――いわゆる〝蛮族〟と呼ばれるような装いをした野蛮な者たちにも見える。粗野な衣装、獣骨の装飾、儀式的な刺青などがそうした印象を与えるが、彼らの装備は異質だった。


 行商人たちは、旧文明期の施設から入手した高性能な製品や武器を携行していて、その多くは〈販売所〉で高価で取引される希少品でもある。携行品には、環境適応型の呼吸装置を備えたガスマスクや、エネルギー収束型のレーザー兵器などが含まれ、都市部の傭兵ですら滅多に目にすることのない代物だった。


 彼らが輸送手段として用いる乗り物も、〈廃墟の街〉では見られないような大型の多脚車両(ヴィードル)になっている。車両そのものは旧文明の建設用車両を改造したものだったが、樹木の登攀機能を備えた脚部と、環境適応型の装甲を搭載していて、森の瘴気にも耐える設計となっていた。


 行商人の多くは、スカベンジャーたちの主要な取引相手であり、彼らが入手した遺物や、かつて略奪者だった者たちが手に入れた生物資源を買い取っている。取引された資源の多くは、彼らの拠点とされる旧文明の施設に設置された〈リサイクルボックス〉に投入され、電子貨幣として換金される。


 このクレジットを元手に、行商人たちは〈廃墟の街〉に点在する旧文明の施設からしか入手できない装備、食料品、医薬品などを調達している。


 そして、それらの物資は最終的に森の部族の手に渡ることになる。彼らが〝蛮族〟に見えるのは、文化的な外見に過ぎず、実際には旧文明の技術と経済を巧みに利用する交易ネットワークの一端を担っていることが分かる。


◆闇市


 遺物や生物資源の取引が行われるのは、〈大樹の森〉外縁部に位置する集落で定期的に開かれる闇市だった。この市場は〈廃墟の街〉で見られるような、ヤクザ者やギャングによって管理された閉鎖的な場所とは異なり、誰でも自由に参加できる〝開かれた市場〟として機能していた。


 森からやってくる行商人、〈廃墟の街〉を拠点とする商人組合の人間、そしてスカベンジャーや多くの傭兵たちがこの市場を利用していて、交易の中心地として一定の賑わいを見せている。


 取り引きされる品は、旧文明の遺物、変異体の外骨格、希少な薬草、森の深部を由来とする生物の生体素材など多岐にわたり、いずれも〈リサイクルボックス〉を通じてクレジットへと換金可能な高価値資源となっている。


 その市場は無法地帯に近いが、完全な無秩序ではない。事情を知らずに襲撃を仕掛ける略奪者も定期的にあらわれるが、彼らの多くは即座に排除され、遺体は見せしめとして晒されることになる。


 森の行商人は、護衛として〈蟲使い〉を同行させていて、彼らの操る昆虫の変異種は侵入者に対して容赦なく襲いかかる。さらに、買い物客の多くが元略奪者や傭兵で構成されているため、半端な戦力では市場の秩序を乱すことすらできない。


 こうした暴力と残忍性が抑止力となり、自然発生的な秩序が市場には存在している。誰もが武器を持ち、誰もが信用できない――それでも、クレジットさえあれば交渉は成立する。そこには、文明が崩壊した後に残された最も原始的でありながら、合理的な経済の形が存在していた。

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