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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第八部・水底の色彩

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092 第八部・〈母なる貝〉02


◆居住区


〈科員居住区〉のホログラムが天井付近に投影される場所までやってくると、通路内に設置された生体認証のための装置が作動し、通路の先に設けられた気密扉が自動的に開く設計になっている。認証は網膜スキャンと皮膚電位の同時照合によって行われ、個人識別とアクセス権の確認が瞬時に完了する。


 スライド式の気密扉が開くと、床の中央に敷かれた誘導ラインからホログラムが投影され、目的地までの経路を視覚的に案内してくれる。このスマート誘導システムは船内AIと連動していて、情報はリアルタイムで更新されるため、搭乗員が変更されても目的の部屋まで適切に案内されるようになっている。


 この誘導システムにより、初めて訪れる者でも迷う心配はない。通路の左右には、搭乗員用の個室が並んでいて、それぞれの扉には識別コードと職務階級を示す表示が投影されるようになっている。扉は気密性を保つために自動ロック式で、居住者の生体認証によって開閉が可能になっている。


 各部屋はコンパクトな個室構造で、限られた空間を効率的に活用するよう設計されている。デスクやイスは壁面に収納されていて、使用時には折りたたみ式のアームによって展開される。使用していないときには自動的に収納され、床面のスペースを確保するだけでなく、無重力環境における安全性の向上にも寄与している。


 ベッドサイドには、室内設備を操作するための簡易ディスプレイが設置されているが、音声認識による操作が標準化されているため、物理的な操作はほとんど行われない。


 照明の調整、温度管理、空調の制御などは音声で即座に反映される。そのシステムは〈データベース〉にも接続されているので、娯楽コンテンツや学習資料、一部制限はあるものの、通信機能などにもアクセス可能になっている。


 寝台の上部と下部は収納スペースとして活用されていて、生体認証によるロック機能が備わっている。個人の荷物や装備品はこのスペースに安全に保管され、第三者によるアクセスは不可能になっている。部屋全体が、長期滞在と高効率な生活を支えるための設計思想に基づいて構築されている。


◆士官用個室


 士官のために用意された個室は、単なる居住空間ではなく、応接室としての機能も兼ね備えた設計になっている。標準的な乗員室よりも広めにスペースが確保されていて、来客や戦術会議にも対応できるよう配慮されている。


 壁面には大型モニターが設置されていて、船内ネットワークと連動して、戦術情報や航行状況、通信ログなどをリアルタイムで表示することが可能になっている。モニターは音声認識とエアジェスチャを備えた空間タッチに対応していて、士官の指示に応じて即座に情報を切り替えることができる。


 会議に使用されるミーティングテーブルの天板には、ホログラム投影機が内蔵されていて、立体的な船内マップや敵機の航跡、環境センサーのデータなどを高精度で表示可能になっている。複数人での作戦会議にも対応していて、投影された各種情報はエアジェスチャで拡大、回転が可能になっていて直感的に操作できる。


 さらにソファーセットやドリンクサーバーも備えられていて、長時間の作業や会議の合間に休息を取ることができる。ドリンクサーバーは水分補給と栄養補助を目的とした設計で、カフェイン飲料や微量栄養素を含む合成飲料が選択可能になっている。


 このように、士官用個室は快適な居住空間であると同時に、情報処理や意思決定、乗員との対話の場として機能する多目的空間として設計されていた。


◆大食堂


 居住区には、〈大食堂〉と呼ばれる広々としたフロアが用意されている。整然と並べられた多数のテーブルとイスは、今にも乗員たちが戻ってくるかのように整えられていたが、そこに人の気配はまったく感じられない。空間は静寂に包まれ、壁面に設置された大型ディスプレイだけが、どこかの浜辺を映し出していた。


 その映像は、波の音と柔らかな光に満ちた風景で、搭乗員の精神的ストレスを緩和するために設計されたものだった。宇宙を行き来する任務に従事する者たちにとって、こうした視覚的な癒しは不可欠であり、ディスプレイは船内AIによって乗員の心理状態に応じて映像を自動選択する機能を備えていた。


 食堂のカウンターに目を向けると、メニュー表示用の電光パネルが並んでいるのが見えた。各パネルは、視認性の高いディスプレイで構成されていて、その多くが合成食品のホログラムを投影していた。


 そのホログラムでは、合成食品の多くが視覚的に美味しそうに見えるように演出されていて、料理の湯気や照りまで再現されていた。


 カウンターのとなりには、〈フードディスペンサー〉が並んでいて、そこで各種合成飲料や合成食品のホログラムが投影されていた。これらは、乗員の嗜好データと健康状態に基づいてAIが推奨するメニューを提示する仕組みで、視覚刺激によって食欲を促進するよう設計されている。


 船内には、有機物を徹底的に再利用する高度なリサイクルシステムが組み込まれていて、〈フードディスペンサー〉からは〈ナノミート〉で知られた培養肉も提供されている。このナノミートは、従来の食品の代替品という枠を超え、食の概念そのものを再定義する存在となっていた。


 船内での〝リサイクル〟と聞くと、搭乗員の食べ残しや傷んだ食材、さらには排泄物まで再利用されているのではないかという誤解を招きがちだが、実際のプロセスは極めて衛生的かつ精密に管理されている。


 船内の〈食料プラント〉では、投入された有機物――船内で分解処理された廃棄物などを含めた原料――を分子レベルで解析、分解し、最適な栄養素比率で再構築する機能を備えている。


 このプロセスには、旧文明期の高度な装置が用いられていて、分子構造を自在に組み替えることで、食感、風味、栄養価を精密に調整した食品を生成することが可能となっている。生成されたナノミートは、見た目や味において従来の食品と遜色なく、むしろ栄養価や保存性において優れているとされている。


 衛生面にも問題はなく、生成された食品は無菌状態で提供され、品質検査を通過したモノのみが乗員に供給される。このシステムにより、限られた資源環境下でも持続可能な食料供給が実現されていて、宇宙航行時の栄養管理において不可欠な技術となっている。ここで重要なのは、リサイクルシステムについて深く考えすぎないことだ。


◆大浴場


 居住区には、食堂だけでなく〈大浴場〉が併設されていて、長期任務に従事する搭乗員たちの憩いの場として機能していた。


 浴場の入り口に設置されたロッカールームには、生体認証によるロック機能が備えられていて、個人識別と利用履歴の管理が自動で行われている。さらに、浴場のとなりにはトレーニングルームが設けられていて、ランニングマシンなど、宇宙環境下でも効果的な運動が可能な設備が整っていた。


 それらの各機器は、搭乗員の体格や健康状態に応じて自動調整され、AIエージェントによる運動プログラムの提案も受けられる。


 リラクゼーションルームには、マッサージチェアが複数設置されていて、マッサージ機能だけでなく精神的なリフレッシュも可能になっている。


 各チェアには、〈データベース〉の娯楽コンテンツにアクセス可能なインターフェースと、〈電脳空間(サイバースペース)〉に接続するためのヘッドセットが備えられていて、ユーザーは任意の〈仮想空間(メタバース)〉に没入(ジャック・イン)することができた。


 これらの施設は二十四時間利用可能であり、メンテナンスドロイドによって常時清掃、点検が行われている。とくに大浴槽は、抗菌ナノコーティングと自動濾過システムによって、つねに衛生的な状態が保たれている。


 その浴槽のそばには大型モニターが設置されていて、リラックス効果の高い映像――海辺や、文明崩壊以前の地球の風景などが、AIによって自動再生され、心身の回復を促していた。もちろん、入浴設備も船内のリサイクルシステムに接続されているが、その点についてはあまり気にしないほうがいいだろう。



 このようにして、居住区では搭乗員の生活環境を向上させるための多角的な試みが行われていた。長期任務における心身のケア、娯楽、衛生、栄養管理までを網羅した設備群は、乗員たちの〝日常〟を支える空間として設計されていて、それらの設備のいくつかは、現在でも完璧な状態で稼働していることが確認されている。

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