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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第七部・大樹の森

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089 第七部・試作機〈プロト〉


◆調査の継続


〈大樹の森〉で辺境部族〈ミツバ〉との交流や遺構の調査を続けていたタカクラ率いる部隊に、〈傭兵組合〉本部から新たな情報がもたらされたのは、新たに支給された戦闘用機械人形の試作機〈プロト〉が、本格的なフィールド試験に入った直後のことだった。


 情報は、通称〈蜘蛛使い〉として知られる賞金首の動向に関するもので、複数の傭兵部隊と監視ドローンによって断片的に捕捉されたものだった。


 幸いにも、タカクラの部隊には現在の任務――〈ミツバ〉族との交流と遺構調査が優先されていて、前回のような緊急任務で密林を強行突破する必要はなかった。


〈蜘蛛使い〉の登場によって、森の各部族の活動が活発になっていることが確認されていることもあり、その行方を追うことは重要ではあったが、組合本部の判断により、直接的な追跡や監視任務は他部隊に委ねられることになった。


 それでも、タカクラは警戒を怠らなかった。〈蜘蛛使い〉は、かつて複数の傭兵部隊を壊滅させたことで知られ、〈技術組合〉にすら存在が知られていなかった大型多脚車両を所有していた。その未知の賞金首が〈大樹の森〉で活動しているという事実は、部隊の安全保障にとって無視できない脅威だった。


◆試作機〈プロト〉


 試作機〈プロト〉の運用にあたっては、部隊に配属された技術者アンナが主導する形で各試験が進められることとなった。〈プロト〉は、部族の儀礼場周辺の警備任務に投入される予定であり、まずは密林という過酷な環境下での運用性能を検証する必要があった。


 試験は、〈大樹の森〉特有の極端な地形と気候条件を想定して段階的に実施された。樹高が百メートルを超える巨木の根が複雑に絡み合う地形、足元が不安定な沼地、空気中に浮遊する高濃度の菌類胞子――いずれも、従来の地上型兵器では安定した運用が困難とされる環境だった。


〈プロト〉は、こうした条件に対応するために設計された可変多脚型戦術支援ロボットであり、以下のような性能を備えている。


・地形適応型脚部ユニット

 各脚部には圧力センサーと地形解析モジュールが組み込まれていて、根の隙間や泥濘地でも自動で姿勢を調整し、転倒や沈下を防ぐようにプログラムされていた。


・耐候性外装素材

 ナノセラミックを基材とした合金外装は、軽量かつ耐腐食性に優れ、胞子や酸性雨による劣化を自己修復する機能を持つ。しかし自己修復機能に関しては、旧文明の技術に依存するため、技術の解析や本格的な運用には至っていない。


・環境センサー群

 空気中の汚染濃度、温湿度、微生物活動などをリアルタイムで検出し、AIによる行動制限や環境調査が行えるようになっている。また、儀礼場周辺での運用を想定し、稼働音や機体の振動を抑えるステルスモードが実装されている。


 アンナは、現地でのフィールドデータを逐次収集しながら、〈プロト〉の挙動を細かく調整していくことになる。この試験運用は、単なる技術検証にとどまらず、〈ミツバ〉との信頼構築にも関わる重要な任務だった。部族の聖域に配備される機械が、精霊の怒りを買わないよう、慎重な調整が求められていた。


◆動力源


〈プロト〉は高機動戦闘を想定した試作機であり、従来の電力供給では出力が不足するため、〈小型核融合ジェネレーター〉が搭載されていた。旧文明の驚異的な製品群の中では旧式に分類され、旧世代型で知られていたが、トリチウムと重水素を燃料とすることで安定したエネルギー供給を長時間維持できる設計になっていた。


 超電導磁石による磁気閉じ込め方式を採用していて、プラズマを安定的に制御することで、暴走や臨界事故のリスクを理論上ほぼゼロに抑えるだけでなく、戦闘時の急激な出力変動にも即応できる設計となっていた。プラズマ温度の制御にはリアルタイムのフィードバック機構が組み込まれていて、外部からの衝撃や環境変化にも柔軟に対応可能だった。


 ただし、未知の生態系が確認されている辺境地域での運用になるので、交換部品や高性能な冷却ユニットの入手が困難であり、冷却材の劣化や磁場の不均衡が致命的な故障につながる可能性もあった。そのため、常時センサーによる動作状態の監視と、プラズマ密度や磁場強度、構造材の疲労度などを含む定期的な診断が不可欠とされていた


 さらに、〈プロト〉の背部には、翼のように展開可能な補助発電装置〈SOL-ARC-7M〉が搭載されていた。このユニットは、折りたたみ式の多層薄膜型ナノ有機太陽電池パネルを採用していて、曇天や密林の薄暗い環境下でも微弱な光を高効率で電力に変換することが可能になっていた。


 発電効率は高く、核融合炉の補助電源として機体のセンサー群や兵器システムを維持する役割を担っていた。


 この二重の電力供給システムにより、〈プロト〉は長時間の戦闘行動や警戒任務においても、エネルギー切れによる機能停止のリスクを最小限に抑えることができた。アンナは過酷な環境下での運用に備えて、ジェネレーターの出力ログと太陽電池の発電状況を常時モニタリングし、異常があれば即座に対応できるようにしていた。


◆機体設計


〈プロト〉の各関節部には、特殊な磁場コーティングが施されていた。この技術は、磁気流体を用いた微細制御により、関節の応答速度と動作精度を劇的に向上させるもので、従来の油圧式やモーター駆動型に比べて摩耗が少なく、静音性にも優れていた。これにより、機体は人間の筋肉運動に近い滑らかな動作と高い機動性を実現していた。


 この動作制御は、アンナの専門分野である生体模倣型制御アルゴリズムによって支えられていた。彼女が開発した機械学習を基礎とした運動モデルは、人間の歩行、跳躍、姿勢制御を模倣し、〈大樹の森〉のような不安定な地形でも自然な移動を可能にしていた。


 菌類が繁茂する倒木を乗り越え、ぬかるみに足を取られず、急斜面を滑らずに登る――その一連の動作は、まるで訓練された兵士のような滑らかさを持っていた。


〈プロト〉は、密林環境に特化した多脚変形機構を備えた戦術支援型機動兵器でもあった。通常は二足歩行で移動するが、地形に応じて四脚モードへと自動変形し、安定性と機動力を両立させる設計となっている。学習型AIは、環境センサーから得られるリアルタイム情報をもとに、最適な移動パターンを即座に選択、実行することを可能にしていた。


 このように、〈プロト〉は単なる兵器ではなく、極限環境における〝適応型知能機械〟として設計されていて、アンナの技術と現地の地形情報を取得することで、初めてその真価を発揮する機体でもあり、試作機としても成果を上げることができる構造となっていた。


◆兵装


〈プロト〉の肩部および前腕部には、軍用規格の〈レーザーガン〉が組み込まれていた。これは旧文明期の〈販売所〉で流通していた兵器のなかでも高性能モデルであり、現在でも希少価値の高い兵器とされていた。


 機体に搭載されたセンサー群により、遠距離からの精密射撃が可能であり、移動中でも照準のブレを最小限に抑える設計となっていた。その〈レーザーガン〉は、可変出力型の指向性エネルギー兵器であり、補助動力となる発電ユニットと組み合わせることで、高出力のレーザーを集中照射することが可能になっていた。


 これにより、植物型の変異体に対しては細胞構造を瞬時に焼却するほどの効果を発揮する攻撃が可能になっていた。その一方で、大型の昆虫型変異体が持つ高密度の外骨格に対しては、熱拡散による耐性が高く、実戦での有効性は未だ検証段階にあった。


 エネルギー供給は、〈プロト〉本体に搭載された〈小型核融合リアクター〉から直接行われていて、安定した出力を維持しながらも高いエネルギー効率を実現していた。冷却機構には、高性能な冷却材――ナノ粒子を液体に分散させることで、冷却性能を飛躍的に向上させる循環システムが採用されていて、連続射撃時の熱暴走を防ぐ設計となっていた。


 この兵器は、〈プロト〉の戦術的優位性を支える重要な構成要素であり、密林地帯での索敵、排除任務において不可欠な装備となっていた。


◆機械精霊


 こうして運用が開始された〈プロト〉だったが、単なる兵器としてではなく、〝精霊を宿す機械〟としての役割を担うため、部族の伝統に則った儀式が執り行われることになった。


 その儀式では、アカネ科の中高木から抽出された赤褐色の天然染料が用いられた。この染料は、〝精霊との交信を媒介する〟モノとして好まれていて、巫女の手によって〈プロト〉の装甲に複雑な幾何学模様が描かれていった。その模様の多くは、機械と自然の調和を示すものとされていた。


 この儀式により、〈プロト〉は森の精霊が宿る番人として認識され、部族の信仰体系においても特別な存在となった。以降、〈プロト〉は儀礼場周辺の警備任務に就くことになり、外敵の侵入を防ぐだけでなく、儀式の進行や参列者の安全を見守る〝聖域の番人〟としての役割を与えられることになった。

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