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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第七部・大樹の森

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068 第七部・スィダチ〈共生〉


■大規模居住地〈鳥籠〉


◆環境居住地調査記録


・鳥籠〈スィダチ〉に関する簡易報告書


調査:ケリィ・カルヴァー

所属:傭兵組合〈情報局〉


 本報告は、〈大樹の森〉に形成された大規模居住地〈スィダチ〉において、生態系の一部として住民と共生する昆虫型変異体群についての観察記録をまとめたものである。これらの変異体は、戦術的使役、生活支援、生物防除、照明、食品供給など多面的に機能している。


 いずれも鳥籠の維持、発展において不可欠な存在となっている。これらの個体群は、ある種の〝生体資産〟として位置づけられていて、中央制御による技術的管理というより、むしろ生態系内での動的調整によってその安定性が保たれていると考えられる。


◆戦術的使役〈外敵に対する防衛や索敵〉


・黒蟻型変異体

〈スィダチ〉の警備を担う〈蟲使い〉たちは、主に〈黒蟻〉の変異体を使役している。個体差はあるものの、体長は約六十~九十センチ。艶のない黒色のキチン質外皮に覆われ、群れでの行動に特化している。


 単独では小銃を携行した傭兵の脅威にならず、限定的な防衛力しか示さないが、数匹から数十匹単位で戦術的に配置された場合、その脅威度は飛躍的に上昇し、容易に制御できなくなるほどの攻撃力を発揮する。戦闘車両の撃破も確認されていることから、その存在は侮れない。


〈昆虫制御装置〉を移植された〈蟲使い〉たちは、つねに数匹の〈黒蟻〉を同行させていて、噛みつきによる捕縛、包囲、そして高精度な索敵行動を集団で実施できる。また、夜間であっても群体での連携が可能であるため、巡回や哨戒などの前線警戒任務において重用されている。〈黒蟻〉が鳥籠警備の中核を担う昆虫として、〈スィダチ〉の持続的な安全性を支えていることは疑いようがない。


◆生活支援


・荷運搬用甲虫〈甲虫型変異体〉

〈スィダチ〉の居住地では、物資搬送のために大型の甲虫型変異体が使役されている。極めて温厚な気質を持ち、群れを形成しない点が特徴的である。平均体高は八十~九十センチ、体長はおよそ百五十センチに達する。


 蟻型変異体に似た強靭な脚部構造によって、重量物でも安定した運搬が可能。食品、木材、石材、水瓶といった容器など、日常的な物資の搬送作業に広く活用されていて、その汎用性と動作の正確性から、〈スィダチ〉の物流の根幹を担っていると考えられる。


 使役には〈昆虫制御装置〉による指示に加えて、ある種のフェロモンとしても機能する植物を用いることで行動誘導が可能であり、制御装置を未移植の商人でも使役可能である点が利便性を高めている。


 また、これらの変異体の幼虫を育てる専用施設も存在するようだが、部外者の立ち入りは禁止されていて詳細は不明。ただし、大量の葉を必要とする点から、餌となる葉の調達を専門に担う〈蟲使い〉も存在することが確認されている。


 その穏やかな性格と力強い四肢により、住民の生活を根底から支える存在であり、過酷な環境下でも安定して使役できることから信頼性も高いとみられる。


◆害獣駆除・食用種


・ノミ型変異体

 部族的な習慣なのか、多くの家屋に家庭菜園が設けられていて、屋根部にあたる切り株状の構造体では野菜やキノコなどが栽培されていることが確認された。これらの菜園内では、体長三十センチほどのノミ型変異体が活動している姿が頻繁に見られる。


 この変異体は優れた跳躍能力を持ち、寄生虫やネズミなどの小型害獣を捕食することで、農耕区画の衛生環境維持に寄与していると思われる。人との共生関係も確立されていて、単なる防除機能にとどまらず、食用資源としての価値も認められているようだ。


 その体内では高タンパクで栄養素に富む体液が生成されていて、これを精製して飲料や栄養強化剤として利用する習慣が定着しているようだ。可食部がほとんどない昆虫だが、乾燥、粉末化したものは薬効があると信じられ、民間医療の一端を担っている。


 この種は害獣駆除と食料供給という二重機能を備えており、民間生活に深く浸透した生体資産のひとつとして認知されている。


◆生活支援〈灯火具〉


・発光型飛行昆虫

〈スィダチ〉の各家庭では、光源として生物発光する小型の飛行昆虫が確認されている。体長は約十センチ。体毛に覆われたホタルに似た外見を持ち、たんぽぽの綿毛に類似した微細な毛をまとっている。発光細胞は主に腹部に集中していて、自律的に青白〜黄緑色の光を放つのが一般的だ。


 その光は視覚的に柔らかく、眼への負担も少ないため、屋内照明としても理想的だ。籠の中で飼育され、家庭内の発光器具を代替する存在として広く活用されている。電力を必要としない生体光源として設置されていて、自然との調和を象徴する存在にもなっている。


 この発光型昆虫は、部外者や潜入調査員でも容易に目にすることができる一般的な種であるが、鳥籠内には、より専門的な機能を持つ昆虫型変異体も多数存在することが確認されていて、今後の調査対象になっている。


◆環境共生型都市構造


〈スィダチ〉における昆虫型変異体との共生関係は、単なる家畜化や道具的使役を超越し、環境、機能、社会の各側面において高度に統合された生態的生活基盤の枠組みを築き上げている。とくに、〈蟲使い〉による育成、維持に関する体系的なシステムは都市構造と緊密に連動していて、鳥籠の持続可能性と防衛力を同時に担保する要因として機能している。


 調査員は今後も、未確認、未記載種の発見、〈感覚共有装置〉との適応検証、幼虫育成施設における環境制御技術の調査などを通じて、昆虫変異体を中心とした共生技術の体系化と、社会基盤としての実装可能性について引き続き研究を進めていく予定だ。

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