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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第七部・大樹の森

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067 第七部・大規模居住地〈スィダチ〉


■大規模居住地〈鳥籠〉


◆環境居住地調査記録


・鳥籠〈スィダチ〉に関する簡易報告書


調査:ナグモ・マイ

所属:傭兵組合〈情報局〉


〈スィダチ〉と呼ばれる鳥籠は、〈大樹の森〉の中心域に築かれた巨大な集落構造体であり、旧文明から受け継がれた遺構と、自然環境との調和的融合によって形成された稀有な鳥籠である。


 その外周部は、旧文明由来の建材――強化合金製の壁材および高耐腐食性のセラミック素材によって囲まれていて、外界の風雨や腐食環境から防壁を長期間にわたり保護している。壁の表面には、旧文明の都市設計には見られない昆虫型変異体との共生構造が確認されていて、これらの生物は居住地にとって重要な環境要素を形成している。


 昆虫型共生系には、空気浄化、湿度調整、フェロモンによる警戒警報などの機能を備えた種が含まれていて、それぞれが居住空間と周辺環境との動的なバランスを維持する役割を担っていると考えられる。


◆昆虫との共生構造・蝶型変異体の機能生態


〈鳥籠〉の外壁構造体においては、若緑色の光沢を帯びた蛹状組織が複数箇所に垂れ下がっている様子が観察できる。これらの蛹様体は、無数の葉を束ねた保護構造に覆われていて、その内部には、遺伝的に変異した蝶類の蛹が生態的に安定した状態で休眠していることが確認されている。


 これらの蝶型蛹の幼体は、居住域周辺に繁茂するツル植物や寄生植物に対して選択的な捕食行動を示し、鳥籠構造体への植物の侵食や構造の腐食の進行を抑制する〝生物的フィルター〟として機能している。鳥籠居住者は、専門的な知識を有する〈蟲使い〉を各所に配備し、蛹体の保護および生態系バランスの維持に努めている。


 蛹は変態を経て成熟した後、成体となって巣外へ飛散するが定期的に居住壁面へ回帰する行動が記録されていて、その移動パターンは遺伝的に刻まれた高度な空間認識能力に基づいていると推察される。


 この生物構造は、機械制御を必要としない有機的な自律防衛システムとして機能していて、〈生物的制御基盤〉として、鳥籠保全の重要な構成要素と位置づけられていると考えられる。


◆鳥籠警備機構


〈スィダチ〉の外周域を巡回警備する守備隊は、甲虫型変異体の外骨格を加工して製造された特殊な装備を身に着けている。


 この外装はキチン質を主素材としていて、その構造は中世の騎士鎧を彷彿とさせる全身を覆う装備となっている。関節部には、軟質でありながら高い弾性を保つ昆虫由来の複合素材が使われ、柔軟かつ俊敏な動作を可能にしている。


 旧式火器の銃弾程度の運動エネルギーでは損傷が確認されないほどの高い耐衝撃性を誇り、鳥籠の境界防衛において重要な役割を果たしている。


 警備隊員の多くは、高度な訓練を受けた〈蟲使い〉であり、〈感覚共有装置〉を有した神経接続型の戦士で構成されていて、それぞれが体長六十〜九十センチに及ぶ黒蟻型変異昆虫と神経リンクを確立している。


 このリンクにより、〈蟲使い〉は視覚、聴覚、周辺環境の情報を高解像度かつリアルタイムで取得でき、従来の電子機器を用いた監視を凌駕する即応防衛が可能となる。各隊員の警備範囲は外壁周辺の直径約六百〜八百メートルに及び、昆虫の移動網を活用することで、死角のない高密度監視体制を維持していると考えられる。


◆遺棄車両群――入場ゲート周辺の旧文明痕跡


 入場ゲート付近では、未知の寄生植物に覆われた旧型多脚車両および輸送コンテナが数えきれないほど放置されたままの状態になっている。これらの遺棄車両の多くは、旧文明期に発生した緊急避難行動の痕跡であると考えられていて、以下の特徴が記録されている。


 各多脚車両には物資収納用コンテナが搭載されているほか、家族識別用のIDタグや遺伝子スキャンシールが残されたままのユニットも多数確認されている。


 これらの情報から、民間避難者による集団退避が行われた可能性が示唆されている。また、一部のタグには避難認証データの断片が記録されていて、避難先の候補として〈スィダチ〉の地下に存在する〈核防護施設〉が指定されていたことが推察される。


 核防護施設の存在は確認されているものの、隔壁構造と高度な立ち入り制限により、内部への侵入は依然として不可能な状態が続いている。ロックダウンは自動防衛システムの作動および認証プロトコルの喪失によって維持されていると考えられる。


 こうした遺棄車両群は、旧文明末期における民間生活者の足跡を残す〝遺構〟として、人類の記憶を後世に伝える貴重な資料であると考えられ、歴史的、文化的な価値を持つものである。


◆居住構造・昆虫外骨格および樹株型住居


〈スィダチ〉内部の住居の多くは、かつて存在した超大型昆虫の外骨格を再利用して構築された特殊住居群によって占められている。これらの外骨格は紫黒色の光沢を帯びていて、表面には微細な反射膜が形成されている。構造全体は、螺旋状に重なった筒型ユニットが上方へ向かって収束する〝巻貝型〟の形状を呈している。


 住居の高さには個体差があるが、おおよそ十〜十五メートルの範囲に分布していて、内部には複数階層の間仕切りが設けられているため、垂直方向への空間利用効率は非常に高い。〈カスクアラ〉とも呼ばれるこれらの住居の壁面は、防水性、耐寒性、生物腐食耐性に優れ、長期的な居住環境としての高い信頼性を有している。


 他にも大樹の切り株を掘削、整形して構築された住居も点在していて、これらの住居は地形や植生だけでなく、昆虫との共生にも優れた〈環境融合型居住構造〉としての機能を有していることが確認された。


 生物的素材の柔軟性と断熱性が相まって、内部環境は季節の変化に適応可能となっている。現在、〈スィダチ〉の正確な人口は記録されていないが、調査員によって確認された住居数と一住居あたりの平均居住者数から推定すると、少なくとも二千人規模の集団生活が可能な構造密度であると考えられる。


◆考察


 鳥籠〈スィダチ〉は、旧文明由来の技術資源、生物共生制御システム、さらに〈蟲使い〉による独自の防衛体系を複合的に融合させた居住構造体であり、単なる集落や大規模な鳥籠ではなく、理想的な都市の原型として評価できるだろう。


 居住区画の設計思想、外部環境への適応性、防衛システムの組み込みなど、複数の要素が高度に統合された特異な事例でもある。


 とりわけ、超大型昆虫の外骨格を利用した住居構造は、戦闘および自然環境に対して極めて高い耐性を示していて、既存の建材供給に依存しない持続的居住の可能性を提示するものとして、非常に興味深い事例となっている。


 こうした構造は、極限環境下における生物資源利用型居住の事例として位置づけられ、〈廃墟の街〉における居住地設計の新たな可能性を提示している。


 なお、本拠点に関する詳細調査は、現在潜入中の連絡員によって継続されていて、今後の報告次第では、部族中心の組織運営構造の理解も進む可能性がある。

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