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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第七部・大樹の森

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065 第七部・大樹の森〈地下施設〉


■旧文明〈地下施設〉


『〈大樹の森〉を探索していた部隊の目の前で、突如として轟音が鳴り響き、地面が陥没し崩れ落ちた。その際、一台の多脚車両が土煙を巻き上げながら暗く口を開けた縦穴へと沈んでいった。車両の引き上げを命じられた傭兵たちは装備を整え、慎重に降下を開始する。たどり着いた先は、暗闇と静寂に包まれた地下施設だった。誰も存在を知らなかった旧文明の〈無人販売所〉が、地底の闇の中からその姿をあらわした瞬間だった』


◆発見経緯と初期接触


 調査隊の支援車両として運用されていた六脚歩行式戦闘車両が、地盤の不均衡によって突如として発生した崩落に巻き込まれ、直径約十メートルに及ぶ縦穴へと沈み込んだ。土砂とともに姿を消した車両の状況を確認すべく、傭兵部隊がロープによる降下を敢行する。


 地下約三十メートルに到達した彼らの眼前には、沈黙の中に佇む人工構造物が暗闇の中から姿をあらわした。それは、旧文明に由来する施設の外壁だった。


 数時間にわたる調査の末、崩落によって損傷した天井部から施設内部への進入が可能であることが判明した。偶然にも自然発生した進入口を経由することで、旧文明の施設で必要とされる生体認証を経ることなく、施設内に侵入することができた。


 驚くべきことに、崩落した天井部とは対照的に、施設本体の天井や壁に用いられた構材には目立った損傷が確認されず、まるで時間の侵食を拒むかのような状態が保たれていた。後の分析によって、これらの構材には高強度の複合鋼材が使用されていることが明らかとなり、旧文明が有していた高度な技術力の一端を垣間見る結果となった。


◆構造解析と施設概要


 発見された地下施設〈販売所〉は、少なくとも七層に区分された広大な構造を有していると推定された。これまでに判明しているのは、物流管理区画、物資保管区画、そして制御端末の設置された一角のみであり、調査は施設全体のほんの一部にしか及んでいない。


 暗がりに沈む通路の奥には、未だ誰も踏み入れていない未知の階層が眠っている可能性が高い。


 施設壁面に使用された素材は、合金パネルを基材とし、その表面にはセラミック系の耐摩耗コーティング層が形成されていた。驚くべきことに、周囲の酸化作用や高濃度の塩素を含む土壌環境にも一切腐食の兆候を見せることなく、まるで時間の経過がなかったかのように建造当時の姿を保っていた。


◆中央区画の様子


 施設中央部は、長年にわたる土砂の堆積によって植物群に覆われていた。かつて通路として使用されていた空間には、薄暗い照明と暗所環境に適応した異形の植物や苔が繁茂していた。


 植物の一部は壁面や床を這いまわり、葉は蛍光を帯びて、不気味な光を放っていた。それらはまるで旧世界の遺構に寄生する存在のように、静かに空間を支配していた。


 調査隊が通路の奥に進むと、金属フレームに覆われた簡素な構造物が姿をあらわした。後の解析によれば、旧文明の無人販売所であった可能性が高く、壁面には複数の情報端末が設置されていた。


 驚くべきことに、これらの端末には腐食や物理的損壊の痕跡はまったく見られず、電源さえ供給されていれば即座に起動可能な状態が維持されていた。この施設全体が、過去の遺物であると同時に、何らかの力によって保護されている――そう感じさせる不気味な整然さを保っていた。


◆物資保管区画


 開放されていた隔壁の先には、かつて物資が整然と保管されていたと思われる広大な区画の痕跡が確認された。散乱した収納ラックや冷却容器の残骸、ホロラベルに記された識別コードの数々は、この場所が高度に管理された物流拠点であったことを物語っていた。


 調査班の解析によれば、物資の大半は自動搬送機構によって他の施設へ移送されたと考えられ、施設の放棄時にシステム命令に従って搬出が完了した可能性が高い。


 その広大な区画には、複数の機械人形が残されていた。物流補助型の作業機と見られるそれらは形式不明ながらも、外装の損傷は最小限にとどまっていた。動作こそ停止していたが、破棄処理は行われておらず、なぜその場に留まっていたのかについては依然として不明である。


 まるで自らの役目を終えたことを理解し、自発的に眠りに就いたかのような静けさを湛えていた。


 さらに奥の区画では、旧文明の兵器と見られる小銃や拳銃が複数発見された。それらにはID認証による厳重なロックが施されていて、一般的な手段では利用できないように設計されていた。


 現在、〈技術組合〉の解析班によって、非破壊状態のまま再起動が可能かどうかの検証作業が進行中であり、これらの兵器の技術的構造や使用履歴の解明が期待されている。


◆隔壁と権限制限構造


 数週間に及ぶ調査の末、施設の最奥部にて、地下の搬入路へと繋がる巨大な隔壁構造体が姿をあらわした。その表面は無機質な鋼材に覆われていて、周囲の植物ですら近づくことを拒むかのように静かに佇んでいた。


 壁面に組み込まれたアクセスパネルには、高度な生体認証と端末認可キーの両方を要求する複合型セキュリティが施されていたが、現時点ではいずれの起動手段も判明していない。


 隔壁そのものは未知の分子強化鋼材によって構築されていて、傭兵組合が保有するあらゆる兵器や爆薬、最新型の切断装置による破壊も不可能であるという解析結果が示されている。


 まるで〝開放されることを前提としていない〟かのようなこの構造体は、隔壁の先に何か重大な機能、あるいは触れてはならない禁忌が存在することを暗示しているようでもあった。


◆技術的価値


 調査隊によって偶然発見された地下施設は、旧文明において流通拠点、もしくは自動物資供給センターとして機能していた可能性が高いと考えられている。区画ごとに役割の異なる機能が整備されていて、通信網、物流制御、防衛機構が緊密に連携したインフラ設計が確認された。この施設全体が、ひとつの自己完結型システムとして統合されていた。


 特筆すべきは、自律型搬送装置や保管システムに示された高精度な制御技術、極限環境に耐え得る素材構成、そして情報端末の高度な保護機構である。いずれも、現代の標準技術を大きく凌駕していて、当該施設が単なる倉庫ではなく、より高度な役割を担っていた可能性を強く示唆している。


 施設の全貌を解明するには、長期的かつ精密な調査および解析装備の導入が不可欠である。今後の〈技術組合〉との共同研究において、本施設が最重要拠点となることは疑いようがないが、現地の〈蟲使い〉による妨害は避けられないと予測される。


 施設内部には、未だ誰の目にも触れたことのない中枢機構が眠っている可能性が高く、その発見までは当該地点の警備強化が最優先事項として扱われるべきである。

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