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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第七部・大樹の森

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061 第七部・大樹の森〈小鬼〉


■生態調査報告書


〈大樹の森〉における変異型霊長類生物〈小鬼〉の観察記録


『〈大樹の森〉南東部、無数の機械人形の残骸が遺棄され、大樹が鬱蒼と生い茂る地域で遭遇。我々の接近に驚いたのか、当初は威嚇や投石などの行動が見られたが、次第に群れの数は増していき、気がつけば大規模な戦闘へと突入していた』


◆変異型霊長類生物


 サルの変異体でもある〈小鬼〉は、全身が不均一な黒褐色の毛皮に覆われている。皮脂腺の過剰分泌と汚染物質の付着により、体毛の表面は常に汚濁した状態にある。森に生息する血を吸う昆虫や羽虫を寄せ付けない効果が確認されているが、毛根部には皮膚寄生性の菌類の痕跡が見られ、脱毛や色素の変化が確認される個体も散見される。


◆皮下組織


 毛皮の下に露出する皮膚はくすんだ青色で、血管分布は表皮直下にまで達しているため、外傷時の出血傾向は極めて高い。皮下脂肪層は一般的な霊長類と比べて薄く、寒冷耐性は低いが、運動時における筋肉の熱効率は高く、瞬発的な行動に特化した体質と見受けられる。冬季には南下して、暖かな地域を求めて群れで移動することも確認されている。


◆頭部形状と骨格


 変異体の頭部は、身体全体に対して異常に肥大していて、頭蓋容積は人類平均のおよそ二倍と推定される。ただし脳化指数は不明であり、それが知性と直結するかどうかについては判断材料が不足している。


 顔面構造は眼窩間距離が極端に狭く、眼球は前方に集中して配置されている。視野角は限定的だが視力は優れていて、鼻孔は大量の空気を取り込むため大きく、口腔は側頭部にまで及ぶ裂状構造になっている。また、牙の露出に適した骨格連動部位が存在することが確認されている。


 威嚇行動時には上唇部を後退させ、口腔より鋭利な犬歯を露出させる。この動作は群れ内の階級示威、または外敵に対する戦術的制止行動としても位置づけられる。


◆手の構造と欠損傾向


 前肢には、通常の霊長類よりも多指の傾向が見られ、指の本数は六から八本とされている。ただし、観察された個体の大半は数本の指が欠損していて、これは狩猟時の負傷、あるいは群れのなかでの争いによる損耗と推定される。


 指骨は長節構造を示し、先端には鉤爪状に湾曲した硬質の爪が形成されている。それらの爪は厚みがありながらも鋭く、捕獲や威嚇時には視覚的脅威としても機能している。また、指の間には微細な皮膜が確認されているが、その目的は不明。捕食時の感触検知に関与している可能性がある。


◆体躯


 平均的な成体個体の体長は人間の成人男性に相当し、一部の成熟個体は二メートルを超える例も確認された。筋肉量は四肢に集中していて、とくに前肢の上腕三頭筋および掌筋群の肥大化が顕著にみられる。


◆特殊個体記録


〈小鬼〉群体において戦闘指揮官的役割を担う個体、通称〈アルファオス〉

 記録番号・OGK-MPRC1-A/47FR


◆個体特徴


 測定された最大体高は二メートルを優に超えていて、群体内の平均個体よりも明らかに大きい。筋肉量は全身に均等に分布し、骨格密度は人類平均の約二倍と推定される。体毛は黒褐色で高密度を示し、裂創痕、咬傷痕、焼痕が多数残存している。これらの傷痕は瘢痕化しておらず、皮膚の再生機能が異常に活発である可能性がある。


 毛皮には泥土、血液、樹脂などが付着していて、解剖個体は強い獣臭と腐敗臭を発している。頭蓋は標準個体と比較して一回りほど大きく、頭部比率において不釣り合いな拡張を示す。顎部構造は前突型であり、犬歯は外部露出に適応した歯槽骨に格納されていて、威嚇動作時には上唇の後退とともに突出することが確認されている。


◆群体統率における地位と機能


 アルファオスは明確な支配行動を持ち、群体を構成する他の個体に対して継続的な身体的優位性を誇示する。群体内における階層型支配構造の頂点に立つ個体であると評価される根拠として、定期的な示威的捕食行動が記録されている。


 これは非捕食対象――たとえば、獲物に対する残忍な殺傷を行い、その様子を群体に誇示するというものである。この行動は、社会的優位性の維持や後続個体に対する抑止的支配に関与していると考えられる。また群体の誘導行動においては、地上ではなく樹冠を経路とし、高所機動による効率的な襲撃展開を指揮する傾向が強い。


◆行動特性


 この個体は、群体の中でも突出して攻撃性が高く、とくに捕食行動においては栄養摂取を目的とした行動を超える攻撃性が確認されている。弱者や――とくに〈森の民〉の子どもを標的とし、拘束や拷問的処置を加えながら、生存状態のまま咀嚼、摂取する例が報告されている。


 これは狩猟本能によるものではなく、快楽的な残虐性に起因する行動であると推定される。廃墟集落付近では、過剰な殺傷、過度の損壊、残骸の広範な分布を伴う遺体群が発見されていて、戦術的効率を無視した捕食様式が確認された。


 この〈アルファオス〉の存在は、群体行動における戦術的支配性と生物的暴力性が融合した象徴であり、〈森の民〉による〈小鬼〉神話においても畏怖の対象となっている。


◆集団構造と繁殖地形成


〈小鬼〉は、常時数百匹に及ぶ大規模な群体を形成し、大樹の樹冠層に築かれた複合巣群を中心に活動している。棲み処は太枝、枯れ木、蔓植物などを用いて構築されていて、その外観は旧文明の高床式小屋に類似している。


 各巣は、群体内の個体数や階層構造に応じて立体的に配置されていて、巣同士は枝道によって連結されて、集団移動が可能なネットワークを形成している。 各巣は、個体の休眠、交配、幼体育成を目的とし、機能ごとに役割分化が確認されている。


◆解剖結果と変異特性解析


 対象個体・成熟オス〈推定年齢六歳〉

 記録番号・OGK-MPRC1-A/47FR

 解剖実施班・█████████


◆心肺器官の異常拡張


 心臓構造は、人類標準の心臓容積の約二倍に達し、さらに異常に発達した筋組織を有する。これにより、瞬発的な筋収縮に対する酸素供給能力も二倍程度に達すると推定される。


 肺葉数は通常の五葉構造ではなく、異常に膨張した七葉で構成され、毛細血管の密度も増加している。これらの特徴は、酸素交換効率の向上および低酸素環境への適応を示唆している。心肺系全体としては、戦闘行動や跳躍時における極めて高い持続力を支え、狩猟に特化した生理特性として進化していると考えられる。


◆胃腔内容物と捕食痕跡


 胃部から未消化状態の人肉断片および多数の人毛が確認された。毛髪の特徴から、幼児のものと推定される。消化速度に比して咀嚼および嚥下行為が極めて迅速であることが判明した。また、腕部の表皮には明瞭な円弧状の咬痕が検出されていて、歯列間隔および咬合圧の分析から、同種別個体による攻撃であることが確認された。


 傷口は化膿し異常な腐敗の兆候を示していた。これにより、唾液中に毒性のある細菌が含まれている可能性が示唆される。以上の分析結果から、本変異体は明確に〝人間を捕食対象として認識〟していて、とりわけ〈森の民〉の集落を優先的に攻撃している可能性が高いことが判明した。

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