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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第六部・遺跡

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057 第六部・特殊遺伝子〈人類亜種〉


 技術組合に所属する複数の情報解析技術者――通称〈データスミス〉によって、これまで未確認とされていた新たな遺伝子系列を保持する〝人類亜種〟の存在が明らかとなった。本報告書は、当該亜種の個体に関して取得された物理的特徴、認知機能の傾向、ならびに極限環境下における生理的、機能的耐性に関する観察、分析記録である。


 本資料には以下の情報が含まれる。

・生体構造の異常または特異性「筋繊維密度、皮膚の再生速度」

・神経応答および学習能力における差異。

・高放射線、高圧、低酸素環境における耐性限界の測定結果。


 これらの所見は、当該個体群が従来の人類と異なる進化的分岐を辿った可能性を示唆するものであり、今後の研究および監視対象として極めて重要な存在であることを証明している。


 組合設立初期に稼働していたが、その後放棄されたバイオラボから回収されたヒトゲノム試料群〈分類(Class-B1)〉に対する定期的な検証作業であった。ところが、遺伝子解析を進める過程で、現行人類の標準プロファイルとは一致しない未知の遺伝配列が断続的に検出された。


 なかでも特筆すべきは、現在では汚染地帯となっている地下軍用施設で収集されたサンプルに含まれていたゲノム断片である。分析の結果、当該配列は従来型ヒトゲノムとの相同性が低く、残存するセグメント内には代謝系、免疫応答系、さらには神経伝達機構に関する複数の遺伝子領域に高度な改変の痕跡が確認された。


 とりわけ、細胞内の異物認識機構における高感度化や、シナプス伝達速度に関わる構造遺伝子の調整が示唆されていて、この個体群が意図的な強化処理を受けた可能性が高いと考えられる。


◆人類亜種〈E系列保持者〉の存在確認と分類


 これらの異常な遺伝配列は、複数の地点――〈鳥籠〉や〈廃墟の街〉に点在する集落で検出され、統計的有意性が確認されたことから、技術組合の上層部によって正式に「E系列(Type-E)」として分類された。


 以降、〈データスミス〉は現地観測班と協力し、E系列に一致する人物群の追跡および観察を実施。十二個体との接触と遺伝的確認に成功している。


◆観測されたE系列保持個体の特徴


・身体的特異性

 身長が高く、全身骨格における密度分布が異常なまでに均一であり、外部からの衝撃耐性が高いと推定される。骨格構造にセラミックにも似た未知の炭化物が確認されているが、組合が所有する医療器材を使用しても移植や解析は不可能とされている。


・視覚的異常

 虹彩における微弱な常時発光、生体発光タンパク質の影響によるものなのか、光源刺激時に発生する角膜表層のフレア現象が確認されている。それにより、虹彩の色も通常では見られない色彩になっている。多くの場合、体毛や髪色の異常も確認されている。


・神経応答性能

 反応速度試験において、標準型人類よりも高い数値を記録し、戦術的処理能力の向上が確認されている。反射神経の向上だけでなく、記憶力や知能にも影響していると思われる。


・生体認証装置との適合

 一部個体は、旧文明の認証装置との整合性を保持。プロトコル残留または旧文明におけるバイオエンジニアリング介入の痕跡と考えられる。


◆機能的耐性の解析結果


 E系列保持者に対して軍用サイバーウェアの接続適合試験を実施した結果、標準人類個体が即時に強い拒絶反応および神経系崩壊を引き起こす高負荷制御プロトコルにおいても、E系列個体は安定した動作出力と持続的な神経応答を維持可能であることが判明した。


 神経接続適応性の測定値は、正常人類平均比で約三倍に達していて、特異的な神経再構成機能もしくは合成ニューロン受容因子の存在が疑われる。


 内分泌系の検査では、外部ストレス環境下におけるノルアドレナリンおよびコルチゾールの分泌量が異常に低く抑制されていることが観察された。これにより、被写体は高ストレス下でも感情的、認知的混乱を示さず、精密作業や戦術行動において一貫した身体的パフォーマンスを保持可能であると推定される。


◆特殊認証遺伝子と旧文明インフラへのアクセス特権


 遺伝子調査により、E系列保持者の一部において、旧文明期に構築された高等インフラ設備ならびに自律型防衛機構へのアクセス権限を遺伝的に保持する個体の存在が確認された。当該アクセス権限は、通称〈遺伝的認証GAP(Genetic Access Protocol)〉と呼称され、かつて利用されていたバイオセキュリティ認証技術の一種であると考えられている。


 遺伝的認証対応個体が装置と接触したさい、〈接触接続〉により、システム内部に埋設されたDNA認証センサーが遺伝子配列を即時走査し、プロトコル整合時には自動的に立ち入り制限の解除、および制御権限の付与が行われる仕組みとなっている。


 ただし、E系列すべての個体がこのプロトコルと一致するわけではなく、現在までの統計では約2.2%の対象が高次アクセス権限を有することが確認されている。これらは分類上〈特殊権限保持者SAGE(Special Access Granted Entity)〉通称〝賢者〟とされ、〈技術組合〉内でも最高秘匿指定〈Class A〉の対象として特別管理されている。


 セキュリティ認証の突破例も報告されている。廃墟化した旧文明施設〈食品工場β〉にて観測された三件の通過記録によれば、〈SAGE〉個体が施設の稼働端末と接触した瞬間、一切の外部信号応答を示さなかった装置が自動稼働を開始し、内部アーカイブへの接続を許可した。


 該当端末は既存のいかなる暗号解析手法でも作動不可能であったため、当該事象は〈GAP〉の実在と機能性を裏付ける極めて重要な証拠とされる。


 このことから、E系列遺伝子は単なる進化的逸脱体ではなく、旧文明によって意図的に設計された継承構造体=文明鍵遺伝子である可能性が高まっている。今後は〈SAGE〉の特性解明とあわせ、彼らが旧文明の機構体系においてどのような役割を担っていたのか、またその設計目的に関する歴史的再構築が急務とされる。


◆今後の戦略的対応


 E系列保持者――とりわけ階位〈SAGE〉に該当する個体群の存在は、〈技術組合〉の戦略的立場に多大な影響を及ぼすものである。現在において最上位に位置する生体認証プロトコルへの対応能力、並びに旧文明期の遺産ともいえる機構へのアクセス権限は、現行文明圏においては事実上の〝唯一無二の鍵〟として機能し得る。


 このため、技術組合としては以下の三点を優先的に実施する必要があると考えられる。


・継続的な観測体制の維持

 観測班および周辺観測拠点との連携強化。E系列被写体の出現頻度が高いとされ鳥籠周辺区域において、移動式生体認証解析ユニットの常時配備が検討されている。


・捜索および保護対象としての正式指定

 E系列保持者は、非武装であっても旧文明のシステムへ介入可能な存在であるため、他勢力による拉致、監禁の危険性が極めて高い。従って、〈技術組合〉所属の戦闘部隊による強制保護体制の確立が望まれる。


・勢力基盤への統合

 当該個体群は、直接的戦力としての価値にとどまらず、旧文明の知識資源や自律システムへのアクセス手段として、組合の影響範囲を拡張する重要素である。〈技術組合〉は、彼らとの関係性を敵対的とせず、可能な限り協調的な関係構築を目指すものとする。

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