048 第五部・地域〈洞穴〉
■環境
◆旧横浜湾岸地帯環境調査報告書
本報告は、〈旧横浜湾岸地帯〉における生態、環境調査を実施した傭兵部隊が残した情報端末より回収されたデータを基に作成されたものである。記録された情報の一部は不完全であり、現時点で未確認の項目が多数存在するため、さらなる調査が必要とされる。
◆洞穴
新たに発見された記録には、横浜の海岸線に突如形成された異常な岩礁地帯の存在が記されており、その中心部に位置する巨大な洞穴の構造とその影響を分析した結果がまとめられていた。
これらの岩礁地帯は、通常の地質学的プロセスでは説明が困難なほど急激に形成されており、その規模と形状は、過去の記録に類似例が見られない。岩石組成の初期分析によると、周辺地域とは明らかに異なる鉱物が検出されており、成因に関する既存の理論では解釈しきれない特異な特徴を有していることが示唆される。
また〈技術組合〉との合同調査チームは、岩礁地帯の形成に伴い、周囲の生態系に異常な変化が生じている可能性を指摘している。沿岸部の海洋生物の生息域には明らかな変化が認められ、一部の種では個体数の減少や移動パターンの変化が報告されている。空気中の微粒子成分には、通常観測されない汚染物質が含まれていることも確認された。
洞穴内部の構造は極めて異質であり、従来の海岸地形や地下空間の形成理論では説明しきれないほど複雑な地質的特徴を有している。実施された内部探査では、通常の地質層とは異なる堆積物が確認され、温度や湿度に異常な変動が見られた。これらの現象が周囲環境に及ぼす影響について、より詳細な調査が必要とされる。
◆洞穴の構造
洞穴内部に足を踏み入れると、すぐに異様な光景が広がっていることが確認された。洞穴の入り口近くには複数の竪穴が存在し、その内部には人為的に設置された梯子が確認された。これらの梯子には使用痕が見られ、金属部分は潮風による軽微な腐食が生じているものの、構造的には比較的新しく、定期的に利用されている可能性が高い。
洞穴内の環境は潮の干満の影響を強く受けているのか、満潮時には内部の一部が海水に没していると推測される。天井部の岩盤からは常に海水が滴り落ちており、床面には大小さまざまな水たまりが形成されていた。これらの水たまりの水質は通常の海水とは異なり、一部に濁りや異質な鉱物成分が含まれていることが確認された。
さらに調査チームが竪穴の周囲を確認したところ、地底から断続的に強烈な腐敗臭が漂ってきていることが分かった。これが生物由来のものなのか、地質的な要因によるものなのかは現時点では不明である。この異臭の発生源を特定し、洞穴内の構造的特性と環境への影響を詳細に解析するため、さらなる調査が必要になるだろう。
◆内部環境
本調査により、洞窟内の壁面が常に湿潤状態にあり、岩盤表面には水滴が絶えず形成されていることが確認された。鍾乳石の成長速度が通常の石灰岩洞窟よりも顕著に速い可能性があり、これが単なる湿度の影響によるものなのか、それとも鉱物組成や化学反応の異常によるものなのか、さらなる分析が求められる。
初期サンプルの採取結果では、石灰分の濃度に加えて未知の成分が含まれている可能性が示唆され、通常の堆積プロセスでは説明できない特異な鉱物の生成が進行している可能性がある。〈廃墟の街〉で確認されている汚染地帯でも、同様の現象が確認されているが、因果関係は証明できない。
地面には多数の甲殻類の破片が散乱しており、その大きさや形態から、既存の種とは異なる特徴を持つ可能性が考えられる。破片の分布や状態から判断するに、これらの甲殻類が外部から流れ込んだのではなく、洞窟内に生息していた個体が捕食や環境変化によって死滅した可能性が高い。
本地域における異様な共同体の存在との関連についても検討する必要がある。これまでの報告では、海岸線に点在する集落や未確認の活動拠点が確認されており、洞窟内に設置された梯子との関係が指摘されている。
◆生物の異常
洞穴周辺では、通常の生態系では確認されない巨大な甲殻類の死骸が多数点在していた。これらの甲殻類は一般的な種と比較して異常なサイズを持ち、変色した甲羅の表面には未知の鉱物成分が付着していることが観察された。また、腐敗した変異体も複数確認されており、その形態は通常の生物学的成長過程では説明がつかないほど異形を呈していた。
これらの異常生物の発生要因として、付近の環境汚染が深刻な影響を与えた可能性が指摘される。海岸線には座礁した複数の軍艦が散在しており、それらから流出した化学物質や重金属による生態系の攪乱が、洞窟内の異変につながった可能性がある。
調査チームが死骸の状態を詳細に分析したところ、組織の変異や異常な細胞構造の変化が確認され、通常の生物的分解過程では見られない特異な腐敗形態を示していた。
洞穴内部との関連性についても検討されるべき点が多く存在する。これらの生物の一部は洞穴内から溢れ出てきた形跡があり、内部で何らかの異常現象が発生した可能性が高い。今後、より詳細な解剖および分析を行い、洞穴内の環境との関係性を明らかにする必要があるだろう。
◆異質な構造物
犠牲者を出しながらも継続された調査の末、洞窟の最深部にて〝魚人〟らしき生物の姿を象った浮彫が刻まれた祭壇を確認した。
この祭壇は、自然の岩石を加工して構築されたものであり、表面には異形の模様や象徴的な図像が刻まれていた。これらの刻印は既存の文化的、宗教的表象とは一致せず、未知の信仰体系または儀式的な行為と関連している可能性がある。
祭壇の周囲には複数の遺物が供えられており、単なる供物として置かれたものではなく、何らかの象徴的意味を持つ可能性が示唆される。供物の一部は腐食が進んでいるものの、保存状態が比較的良好なものも確認されたが、分析によってその出自や用途を特定することは困難だ。
祭壇に近づくにつれ、調査員の間で〝監視されているような異常な感覚〟が報告されている。これは単なる心理的影響ではなく、洞窟内の構造的特徴や音響効果によるものである可能性も考えられる。
洞窟の内部は音が反響しやすく、わずかな物音が遠くから聞こえることで、周囲に何者かが潜んでいるような錯覚を引き起こす環境が形成されている可能性がある。それ以外にも、微細な空気の流れや光の反射が異常な感覚を誘発していたのかもしれない。
◆調査の継続
汚染物質による生態系の変異が顕著であり、通常確認されない異形生物の存在がその影響を裏付けている。洞穴内部の構造や遺物の配置から、未知の知的生命体が関与している可能性も示唆される。
洞穴内部に残された遺物の分析は、今後の調査において極めて重要な手がかりとなり得る。とくに、祭壇や遺物に刻まれた模様や象徴は、この洞穴の形成過程や目的を解明する鍵となる可能性がある。これらの要素を慎重に調査し、洞穴の危険性や周囲に与える影響を明らかにすることが喫緊の課題である。
現時点で判明している異常現象や洞窟の性質を考慮すると、追加の探索および警戒態勢の強化が不可欠である。調査チームの安全を確保するとともに、外部環境への影響を最小限に抑えるための慎重な対応が求められる。
海岸線一帯の掌握を望むのであれば、異常地帯の発生要因や影響の調査、今後の対応策に加え、さらなる探査と防衛戦略の確立に向けて、慎重かつ継続的な調査の実施が求められるだろう。




