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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第五部・異海

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047 第五部・地域〈海岸線〉


■環境


◆旧横浜湾岸地帯環境調査報告書


 本報告は、〈旧横浜湾岸地帯〉における生態、環境調査を実施した傭兵部隊が残した情報端末より回収されたデータを基に作成されたものである。記録された情報の一部は不完全であり、現時点で未確認の項目が多数存在するため、さらなる調査が必要とされる。


◆環境


 かつて横浜港の臨海部を再開発し、都市機能を集積した計画都市として賑わったこの地域は、現在では荒廃と汚染が進行し、危険な変異体が徘徊する区域へと変貌していた。潮の満ち引きが汚染物質を運び、かつての海岸線は変異生物の生息地と化している。


 沿岸域には、戦乱の名残を刻む軍艦の残骸が多数座礁していることが確認されている。船体は長年の波と風に浸食され、剥き出しとなった鋼鉄の骨組みが錆びつき、朽ち果てながらも海岸線の風景と同化している。


 一部の甲板には、通常の生態系では見られない異常な付着生物が繁殖し、肉質のような赤黒い組織が広がっている。艦橋部分はさらに異様な様相を呈し、変異菌類が増殖している。菌糸は艦体を覆い尽くし、一部は発光を伴い、夜間になると深海生物のように淡い緑色の輝きを放つ。その胞子は風に乗り、周囲の環境をさらに汚染している可能性が高い。


 海岸の砂地には、かつての軍装品が散乱。錆びた弾薬筒が砂に半ば埋もれ、戦闘車両の装甲は海風にさらされて朽ちている。流れ着いた無人機の翼部は、主要な部品が持ち去られ、骨格だけが残されていることが確認された。周辺の瓦礫の中には、スカベンジャーと思われる遺骸が朽ちた衣類とともに発見されることもあり、死の静寂に支配されている。


 また、この区域では未知の変異生物の目撃情報が多数報告されている。とくに船体の影に潜む大型の変異甲殻類や、腐敗した水域に生息する発光性の変異魚類などが確認されており、調査の際には警戒を必要とする。


◆生物相


 調査区域において、異常生物の死骸が多数確認された。潮間帯には、通常の海洋生態系に属さない形態の水棲生物が打ち上げられ、腐敗臭とともに空気を汚染している。巨大化した甲殻類の外骨格は異常なまでに硬化しており、通常の生物では捕食が困難な形態を示す。


 その一方で、複数の眼球を持つ軟体生物は、組織の大部分が半液状化し、潮の流れに溶け込むような形で分解が進んでいた。不規則な骨格構造の魚類については、骨の間に異常な軟組織が存在し、何らかの新たな生体機能を持っていた可能性が示唆される。


 死骸の一部には捕食の痕跡が確認されており、裂傷や消化液による分解が見られた。これらの異常生物同士の捕食関係が新たな食物連鎖を構築している可能性があり、生態系が通常の進化の枠を超えて変容していることが考えられる。


◆甲殻類型変異生物


 注目すべきは、沿岸の広範囲にわたる甲殻類型の変異生物の異常繁殖である。これらの生物は通常の脱皮周期を持たず、硬化殻の成長が継続的に進行する。そのため、個体の外殻は幾層にも重なり、時に岩のような質感を呈することがある。殻の表面には金属を含む物質が蓄積しており、通常の兵器での破壊を困難にしていることが確認された。


 調査の結果、一部の個体の体内から鉄粉やアルミニウム片が検出された。このことから、彼らの代謝機構が根本的に変異しており、無機物をエネルギー源とする特性を持ち始めている可能性がある。金属を摂取することで殻の強度を増していると考えられ、その異常な進化が他の生物との競争環境に影響を及ぼしていることが示唆される。


 これらの変異生物が環境に与える影響は未知数だが、今後の調査によって食物連鎖や生態系全体の変動についてさらなる分析が必要となるだろう。


◆環境汚染状況


 調査区域の海岸線は、壊滅的な汚染により自然の姿を失い、異様な色彩を帯びた荒涼とした景観が広がっていた。とくに有害物質の高濃度流入が確認された区域では、地表の変色が顕著であり、砂浜は深い灰色や黒色へと変化し、一部では紫がかった異常な斑紋が見られた。地表の温度が周囲よりも高く、汚染物質が化学反応を起こしている可能性がある。


 調査の結果、以下の有害物質が検出された。


・放射性残留物

 局所的な高線量の放射線が測定され、一部の区域では崩壊した軍艦の残骸が放射線源である可能性が示唆された。これにより、周辺の生物に異常な変異が見られる。


・重金属類

 鉛、カドミウム、水銀などの物質が堆積し、潮の満ち引きによって拡散している。とくに水銀濃度の高い地点では、既存の生物の生息がほぼ確認されず、変異体や死骸の蓄積が目立った。


・未知の化学汚染物質

 分解されることのない謎の物質が発見され、地表の一部がゼリー状に軟化している区域が確認された。この物質は通常の分析では構造が特定できず、夜間には異常な発光現象が断続的に発生している。


◆生態系への影響


 これらの汚染の影響により、生態系の崩壊が進行していることが考えられる。つまり、通常の生物活動は停止し、代わりに汚染耐性を持つ変異生物のみが生息可能な環境へと変貌していく。


 とくに金属汚染区域では、甲殻類型変異生物の異常な増殖が確認され、彼らは地表の重金属を吸収しながら独自の生態系を形成しつつある。一部の水域では、発光する藻類のような未知の微生物が増殖し、水面が青白く輝く異様な光景が広がっていた。この藻類の光には低レベルの放射線が含まれており、生物への影響が懸念される。


◆さらなる調査の必要性


 沿岸地域の変異と汚染の進行速度は予測を超えており、通常の生態系復元が不可能な段階に達している可能性が高い。今後の調査では、汚染源の特定、変異生物の生態研究、および環境変異の長期的影響を検証することが求められる。


◆湾岸の異常環境に適応した共同体


 現在、沿岸では生態系と環境の破壊が進行し、もはや人類の居住に適さない危険地帯となっている。しかし、そんな極限環境の中で独自の生活様式を持つ共同体の存在が確認された。彼らは決して内陸へ進むことはなく、海に寄り添う形で生きている。その排他的な性質ゆえに、外部との接触は極端に少なく、彼らの正確な起源や生活様式については謎が多い。


◆生態的特徴


 彼らの外見は人類のそれとは大きく異なる。イボガエルを思わせるような大きな頭部を持ち、青白い肌には無数の突起が散在している。顔面は常に湿り気を帯び、まるで海底から引き上げられた深海魚のような異様な質感を持つ。


 眼球は通常の人間の比ではなく、大きく突き出し、常にわずかに濡れたような光沢を帯びている。暗所においても視覚能力を維持できる可能性が高く、これは彼らが夜間や濁った水域に適応していることを示している。


 さらに、首元には厚い脂肪に埋もれるような鰓状(えらじょう)の器官が存在し、彼らが水中での活動を可能にしている可能性がある。現時点では、彼らが完全な水棲生活を行えるかどうかは不明だが、潮間帯での行動を観察した結果、短時間の潜水能力を持つことが示唆される。


 しかし残念ながら、彼らの生活様式について詳しいことは分かっていない。ただひとつ確かなのは、彼らが常に海岸を徘徊し、浜辺に流れ着いたゴミを収集していることである。これは単なる生存活動なのか、それとも文化的、儀式的な行動なのかは不明だが、彼らが積極的に海岸の環境と関与していることは明らかだ。


 この共同体がなぜ湾岸に留まり続けるのか、どのような社会構造を持つのか、そして彼らが通常の人類からどれほどかけ離れた存在なのか――さらなる調査と観察が求められる。


◆今後の調査課題と周辺一帯の封鎖の検討


 これらの変異生物の進化特性と環境汚染の拡散メカニズムについて、詳細な解析が求められる。生物学的変異の進行速度、外部環境との相互作用、そして汚染物質が生態系へ及ぼす影響を評価することが、今後の調査の最重要課題となる。


 データを収集、分析した後、沿岸封鎖の必要性について慎重に検討しなければならない。汚染が周辺地域へ拡大する兆候が見られる場合、封鎖措置は迅速に決定されるべきであり、周辺地域への拡散防止策も並行して講じる必要がある。そしてそれは、組合の枠組みを超え、共通の目標に向けて協力しあうことで達成できる課題なのかもしれない。

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