045 第五部・車両総合試験場
■変異体
◆横浜廃工場にて発見された車両総合試験場
報告者:カール・シマダ
所属:傭兵組合〈ジャンクタウン〉
階級:工兵〈オペレーター〉
場所:横浜埋め立て地・工業地帯跡
◆概要
〈人擬き〉の特殊個体による襲撃を受けながらも、我々は偶然にも工場の地下で〈車両総合試験場〉を発見した。文明崩壊以前に高度な技術で開発された極秘の試験施設だったのだろう、広大な地下空間に広がるこの試験場は、次世代の多脚車両の性能を極限まで検証するために設計されているようだった。
試験場の構造は驚くほど良好な保存状態を保っており、内部には今も稼働可能な設備が点在していることが判明した。施設内の制御パネルにわずかに残る電源供給の兆しは、この場所が単なる廃墟ではないことを示している。
精密に組み込まれたコンソールパネル、錆びついていたが未だ動作するオートメーション設備、そして施設の奥深くで休眠状態にある試験用車両――それらすべてが、かつての技術文明の遺物として良好な状態で保存されていた。
この試験場は、単なる車両の走行性能試験にとどまらず、障害物走行試験や戦闘性能試験にも特化していたと推測される。天井に設置された兵器の残骸からは、試作型の武装車両の存在が示唆され、試験場の中央に位置する広大なアリーナには、地形変動シミュレーション装置らしき巨大な機構が確認された。
この技術は、試験車両に極限環境での適応力を試すためのものだったのではないか――さらに、施設の最奥部には未踏のエリアが広がっており、アクセス権限を要する制御室が封鎖された状態で存在していた。そこには、文明崩壊以前に開発された技術の最先端の秘密が眠っているのかもしれない。
◆構造と環境
試験場の敷地は――地下であるにもかかわらず、驚異的な広さを誇り、かつての先進技術によって精密に設計された巨大な施設だと分かる。経年劣化の少ない高耐久アスファルトで舗装され、未だに亀裂ひとつない部分があることから、特殊な自己修復機能を持つ素材が使用されていた可能性がある。
一部には――前述の通り、地形変動シミュレーション装置による構造が存在し、砂利地帯や路面、それに砂漠が混在しており、走行試験のために地形が動的に変化する機能が備わっていたと推測される。
施設の中央付近には巨大な障害物群が点在しており、試験車両の機動性能を極限まで検証するためのシミュレーションエリアだったと考えられる。これらの障害物の一部は自動変形する構造を持ち、多脚車両の適応力を試すためにリアルタイムで変化する環境を作り出していた可能性がある。
さらに、試験場内には戦闘試験を目的とした設備が多数確認された。天井部には〈セントリーガン〉が設置されており、それぞれが独立した人工知能によって制御され、敵性対象を高速識別し迎撃する機能を持っていることが、技術組合の協力者〈データスミス〉の解析によって判明する。
驚くべきことに、これらの〈セントリーガン〉は依然として稼働状態にある可能性が高く、侵入者に対し防衛機能が発動する危険性がある。〈セントリーガン〉の内部には未使用の弾薬が装填されており、暴発の危険性もあるため、保安システムを掌握するまで近づくことはできないだろう。
敷地内には、戦闘試験用の標的が多数配置されていた。それらの機械人形の多くは、戦闘車両や遠隔操縦車両の戦闘データを収集するために使用されていたと考えられるが、その多くは破壊され、残骸を晒していた。しかし、施設の奥深くには未だ活動可能な機械人形の存在が確認されているため、貴重な試験データを入手できる可能性がある。
試験場の内部には未調査の区域が多数存在し、その奥にはさらに高度な技術が眠っている可能性がある。もし保安システムを掌握し、制御システムを復旧できれば、この場所の真の目的が明らかになるかもしれない。
戦闘試験の痕跡が多数確認されたことから、本試験場は単なる車両走行試験場ではなく、戦闘車両の戦術試験場としても機能していたことが明白となった。今後の調査では、施設内の未発見領域や地下設備の探索を実施し、さらなる情報を収集する必要があるだろう。
◆調査の継続
廃工場で発見された車両試験場は、かつて最先端技術の開発拠点として機能し、今なおその痕跡を色濃く残していた。本施設が保持していた高度な試験システムは、単なる過去の遺産ではなく、組織の強化につながる可能性を秘めた貴重な資源と言えるだろう。
工場だけでなく、試験場を制圧、占拠することが実現すれば、失われた技術の再発見に留まらず、新たな研究や開発の礎になる。しかし、その過程には慎重な検討が必要であり、未だ稼働可能な防衛システムや制御不能な機構の影響を見極めることが不可欠である。もちろん、〈人擬き〉の特殊個体にも対処しなければいけないだろう。
この施設を確保し、その機能を再構築できるならば――それは単なる技術遺産の回収ではなく、人類がかつて到達した革新の光を再び灯すことにつながる。試験場の奥深くに眠る技術と知識こそが、組織の未来を左右する決定的な鍵となるだろう。
そのためには、さらなる調査資金を投入し、必要な人員を速やかに派遣することを決定し、具体的な計画を迅速に策定する必要がある。技術を正しく活用するためにも、慎重かつ大胆な行動が求められるだろう。




