043 第五部・埋め立て地〈報告書〉
■施設
◆調査報告書・横浜工業地帯
報告者:ラグバ・ガンパ
所属:傭兵組合〈ジャンクタウン〉
階級:傭兵〈マーセナリー〉
場所:横浜埋め立て地・工業地帯跡
埋め立て地へと続く高速道路は、かつて都市の動脈の一部として賑わっていたことが窺えたが、時間の経過とともにその役割を終え、今では静寂に包まれている。
ひび割れたアスファルトの上には雑草が繁茂し、ひび割れから濃紫に染まる雑草が顔を出している。その道の両脇には、廃車の群れが沈黙のうちに並び、錆びついた車体が陽に晒されているのが見えた。
窓ガラスは砕け、タイヤはなく、部品はすでに持ち去られ、無機質な骨組みだけが残されている。シートがあった場所には土埃が堆積し、かつての運転手の存在を示す手掛かりは何ひとつ残されていない。風が通り抜けるたびに、赤茶色に錆びついた金属の軋みが聞こえてくる。
かつて、この場所にも人々の営みがあったのだろう。車を走らせる者、荷物を運ぶ者――そのすべてが、この道の上で交差していた。しかし今、その痕跡はゆっくりと朽ち果て、自然の力によって静かに呑み込まれつつある。まるで時間が止まり、過去の記憶だけが漂っているかのような光景だった。
ゲート付近では、警告表示がホログラムとして投影され、侵入者に危険を知らせていた。しかし投影機が故障しているのか、ノイズ混じりの映像が微かに空間に揺らめくのみだ。
歪んだ光の断片の中には、かろうじて文字の輪郭が残っているものの、ほとんどは判読不能であり、そのメッセージが最後に更新されたのがいつだったのか、それを知る手掛かりもない。
ゲート周辺には無造作に積み重なった重機の残骸が散乱し、多脚車両の骨組みがむき出しになっている。フレームはひび割れ、油の臭いはすでに風に流され、装甲の一部はネズミどもに――スカベンジャーたちによって持ち去られていた。
機体の内部を覗けば、配線は切断され、コアとなる部品は根こそぎ剥ぎ取られている。ここを訪れたスカベンジャーが、わずかに残された資源を求めてこの地を荒らしたことは明白だった。
厳重に管理されていたであろう場所は、今では廃墟と化し、崩れゆく構造物が過去の名残を語るのみだった。無人のゲートが風に晒され、音もなく警告の映像を繰り返すさまは、かつての秩序を取り戻そうとする亡霊を見ているようだった。
敷地内には、規則正しく働き続けていた作業用ドロイドの群れが、大量に放置されていた。その姿は不気味なほど静かで、動力を失ったまま地面に横たわる機体は、時間に取り残された遺失物のようにも見える。
かつてこの場所で膨大な作業をこなしていたはずの機械たちは、今ではその役割を終え、ただ朽ち果てていくのみ。外装は剥ぎ取られ、装甲の一部には焼け焦げた痕跡が残っている。関節部の油は乾き、細かなパーツはすでに抜き取られ、露出した内部構造はむき出しのまま錆びついている。
光を失った光学センサーが空虚に闇を映し、焼け焦げた電子回路と断線したケーブルを晒している。
ここを訪れたネズミたちが、その残骸から使えるものを回収したのだろう。動力コアはすでに抜き取られ、多くのドロイドはバラバラに解体されている。腕部の関節機構が露出し、足元には無数の金属片が散らばっていた。廃棄された機械の山は、スカベンジャーたちの活動の跡を語りながら、静かにその存在を終えようとしている。
この場所に残るのは、機械の残骸と、忘れ去られた過去だけだった。さらに進むと、工場の大通りに大量の機械人形の残骸が放置されているのが見えた。精密な動作で無人工場を支えていたであろう機械たちは、今では折り重なるように積み上げられ、廃棄された兵士の墓標のように静かに横たわっている。
皮肉なことに、この場所には異様な歴史が刻まれていた。労働者たちが工場の無人化に抗議の声を上げた際、それを鎮圧したのは、その工場自身が生産した警備用ドロイドだった。冷徹な機械の判断のもと、デモ活動を封じ込めるために製造された機械人形の残骸も、ここで見つけられるのかもしれない。
文明崩壊後も、無人の工場では車両や機械人形が製造されていたのかもしれない。〈人擬き〉を排除するための行動だったのか、それともただ暴走したプログラムが無意味な戦いを演じ続けていたのか、その答えを知る者はもういない。
道路に散乱した破片、溶けた回路、そして無数の傷を刻まれたボディが、その荒廃した光景の中に不気味な痕跡を残しているだけだ。
無機質な静寂の中で、倒れた機械人形たちは、ただ記憶なきまま朽ち果てていく。その場に立てば、遠い過去の喧騒がまだ微かに空間に染み付いているような錯覚に陥る。歪んだ鉄屑と沈黙だけが支配する工場の奥深くには、かつての秩序と混乱の名残が深く埋もれているのかもしれない。
この工場地帯の荒廃は、単なる産業の崩壊を超え、文明そのものの終焉を象徴する光景のようにも思えた。人々が去り、機械もその役目を終えた今――風だけが無人の廃墟を吹き抜け、冷たい空気が残骸を揺らしている。
かつてこの場所では、巨大な設備が秩序の中で動作し、作業員の足音が響いていたのかもしれない。しかし、それらはすでに過去の話だ。今や倒壊した構造物が沈黙を守り、かつて賑わっていた空間は、ただ崩れ落ちた鋼鉄の塊と吹き荒ぶ風の音だけを残している。
弾痕が刻まれた壁面には、錆びた警告プレートが張り付いているが、文字はすでに判読不能だ。崩れた壁から制御室を覗けば、コンソールは砕け、配線は断ち切られ、埃まみれの床が無機質な静寂に沈んでいる。どこか遠くで、朽ちかけた鉄骨が軋む音が響くたび、かつての喧騒が幻のように蘇る。しかし、それを思い出す者はもういない。
この場所に刻まれた歴史は、過去の繁栄を微かに思い起こさせながらも、未来に向けた手掛かりを何ひとつ与えてはくれない。ただ、風だけが廃墟を巡り、失われた文明の断片を囁くように吹き抜けていた。
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おい、誰がポエムを書けと言ったんだ?
俺が欲しいのは報告書であって、郷愁を誘う作文じゃない。次に報告書を用意するときは、ガンパの馬鹿野郎に触らせるんじゃねぇぞ。




