040 第四部・鳥籠〈紅蓮〉
■地域
◆紅蓮〈ホンリェン〉
文明崩壊後の世界に生きる人々が、過酷な砂漠に築き上げた集落。赤く染まる夕焼けのような岩肌が特徴的で、遠く離れた場所からでもその存在を確認できる峡谷に位置している。
周囲の峡谷には、かつての文明の名残が色濃く残されている。崩れかけた建造物の廃墟が集落を取り囲むように点在し、ひび割れた地面の隙間には、朽ち果てた鉄骨や錆びた標識、半壊した機械類が埋もれている。荒廃した都市の亡霊のように、それらは静かに砂塵に覆われ、風が吹くたびに物悲しい音を立てている。
しかし〈紅蓮〉の住人は、その残骸を単なる過去の遺物として放置することなく回収し、巧みに修理しながら利用している。廃材を組み合わせた住居や、旧文明の機械を改造した発電装置が雑然とした集落に点在し、人々の知恵と適応力の象徴として息づいている。
集落の中心部は活気に満ち、市場には露店が立ち並んでいる。各々が工夫を凝らして手に入れた物品を取引し、時折聞こえる笑い声と口論が入り混じりながら、かつての都市の喧騒を彷彿とさせる雰囲気を作り出している。
この地は、文明崩壊後の苦難の時代を生き抜く者たちの象徴であり、砂漠に揺らめく紅蓮の炎のように、人々の決して消えない生命力を映し出している。
◆地上区画
地上には人々が思い思いの住まいを構え、その場しのぎの工夫が集落の至るところに見受けられる。赤茶色に錆びついたトタン屋根が目立つ掘っ立て小屋が連なり、歪んだ鉄骨とひび割れた赤レンガが無秩序に組み合わさっている。細く入り組んだ小道が縦横無尽に走り、迷路のような通りを形成している。
その集落の中心には市場があり、大小さまざまな露店がひしめき合っている。広大な砂漠を行き交い物資を運ぶ隊商が定期的に訪れ、そのたびに喧噪が増す。食料や衣服のほか、旧文明の遺物も取引され、電子機器や機械部品、故障したホログラム投影機などが売買されている。つねに商人たちの威勢の良い声が飛び交い、武装した傭兵集団が物資を守るために睨みを利かせている。
入り組んだ小道が縦横無尽に走り、それらの通りは人々でごった返し、砂漠地帯とは思えないほどの活気を見せていた。通りは人波に押し流されるほどの混雑を見せて、商人たちは大声で呼び込みをし、行き交う者たちは交渉に熱を上げる。客引きをする娼婦の声、酔っ払いの笑い声、賭博場の熱気が入り混じり、混沌とした空気が市場を支配している。
市場へと続く道では露店が軒を連ね、異国の言葉が飛び交う。スパイスの刺激的な香りが混じり合い、油の焦げる匂いが鼻をつく。この通りには異国情緒が漂い、様々な民族が肩を並べる。アジア系のみならず、遠く異国の血を引く者たちが集まり、それぞれの言葉が飛び交う。焼け付く太陽の下、雑多な文化が溶け合いながら、終末世界の中でも確かに人々の営みが息づいている。
◆水の供給
砂漠の過酷な環境の中で、澄んだ水を湛えた溜池は〈紅蓮〉の住民たちにとって生命線そのものだ。強烈な陽光が降り注ぐなか、さまざまな容器を抱えた人々が列をなし、警備員の監視のもと、慎重に水を汲み取っていく。
水源の確保は決して容易ではない。地下施設に眠る旧文明の浄水装置を修復しながら、集落全体へ供給するための試みが続いている。巨大なパイプラインの継ぎ目には錆が浮き、時折漏れ出した水が乾ききった地面へと染み込み、瞬く間に蒸発して消える。しかしそれでも、人々はこの貴重な資源を守るために知恵を絞り、協力しながら施設を維持していた。
その溜池の周辺には厳重な警備が敷かれている。完全武装した警備員たちが目を光らせ、周囲を巡回していた。彼らの鋭い視線が張り詰めた空気を生み出し、何者にもこの場所を脅かさせない。小銃を携えた兵士や多脚車両が巡回する様は、この地が厳重に管理されていることを思い出させるには充分な光景だった。
◆地下施設
〈紅蓮〉には、市民権と資格を持つ者だけが降りることを許された広大な地下施設が存在する。その扉の向こうには、かつて栄華を誇った文明の名残が沈み込むように息づいている。
巨大な地下空間では、旧文明期の設備が機能を保ち、水の循環システムや電力供給設備が今なお稼働している。金属の配管が幾重にも張り巡らされ、微かに機械の駆動音が響く。
地下施設は単なる避難所ではない。むしろ〈紅蓮〉の生命線を支える中枢であり、その運営を担う者たちは、特別な知識と技能を持つ者ばかりだった。彼らは技術の継承者として古びた端末の解析を行い、壊れかけた機械を修復しながら、かつての文明の灯火を守り続けている。
地下施設への入り口は厳重に管理されていた。巨大な鋼鉄の隔壁は鈍い光を反射しながら聳え、その周囲では黒い戦闘服に身を包んだ武装警備員たちが冷徹な眼差しで通行人を監視している。彼らの指は常に小銃の引き金にかかっていて、少しの異変も見逃さぬよう神経を研ぎ澄ましている。
ゲートの先に広がる広場は、かつての施設の面影を微かに残しながらも荒廃していた。コンクリートブロックが無造作に積み上げられ、即席の障害物となっている。そこに設置された検問所は絶えず通行人の身分をチェックし、厳しい審査のもとに選別を行っていた。施設へと足を踏み入れる資格がある者だけが、ここを通過できる。
広場では多脚車両が不気味なほど静かに巡回している。無骨な作業用ドロイドは油の臭いを漂わせ、関節の駆動音が耳障りなほど響いている。戦闘用機械人形が無表情に立ち尽くし、各種センサーを駆使しながら周囲の熱源と動きを分析している。ここは、選ばれし者だけが許された領域。その境界線の向こうは、無秩序と死が支配する世界になっている。




