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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第三部・異界

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027 第三部・図書館


■異次元


◆〈図書館〉に関する調査報告書


調査日・年月日不明

調査員・名称非公開

調査対象・図書館


・異界

 空間の歪みを越えた先、目の前に広がるのは異次元の世界だ。その領域は錆びた鉄のような赤茶けた霧に覆われている。霧は静かに漂いながらも、何かを隠しているような不気味さを孕み、訪れる者の視界を奪う。


 この異質な霧の中でただひとつ、明確な存在感を放つものが〈図書館〉である。まるでこの領域そのものを支配しているかのように、孤島に威厳をもって佇んでいる。


〈図書館〉は、文字通り水銀の海に囲まれた孤島に存在する。その海はただの液体ではなく、観察者の潜在意識を映し出す鏡として機能する。波間には時折〝影〟があらわれ、それが緩やかに形を変える様子を目にした者は、不安や恐怖を超えた感覚に囚われる。


 ある者は、音を立てることのない静かな波が水面をわずかに揺らすたびに、その振動が異界の鼓動のように感じられるという報告もある。


〈図書館〉へと続く港は、どこか幻想的な美しさを秘めた未知の物質で形作られている。長方形の金属質の石材は見る者の記憶に触れるような、妖しげな輝きを放ち、見る角度によって微妙に色彩を変化させる。これらの石材は地球では見ることのできない未知の物質で構成されている。


 宝石のような輝きに魅了された者は、一瞬の陶酔感とともに現実感が薄れていき、記憶の喪失や、自己否定的な思考の増加、幻覚などの精神的影響を受けるという。


 濃い霧が漂う異次元の世界に足を踏み入れた者を迎えるのは、林立する円柱だ。高さ百メートルを超えるその円柱は、闇の中に堂々とそびえ立ち、訪れる者に不気味な威厳を示している。


 それらの円柱の表面には、金と銀の光を帯びた古代文字が浮かび上がり、見る者の記憶や思考に反応して絶えずその形を変化させる。


 その文字は読解不能でありながらも、視線を捉え、思考をかき乱すような効果を持つ。時折、円柱の表面に歪んだ空間があらわれ、その歪みに無意識に触れてしまった者は異なる次元へと意識を奪い去られる。意識を喪失した者が再び帰還することは稀であり、多くの場合、この孤島で――あるいは次元の狭間で永遠に彷徨うことになる。


 霧の中で断片的に浮かび上がる円柱の光が、まるで異界の灯台のように、〈図書館〉への道筋を示している。それは単なる光ではない。霧の中で彷徨う者の心の奥底に眠る恐怖や不安をかき立てるものであり、進むべき道を暗示しつつも迷わせる力を秘めているという。


 そして霧の向こう、列柱を抜けた先にあらわれるのは荘厳なる〈図書館〉だ。その姿は神殿を思わせながらも、地球の建造物の枠組みを超えた異質な美しさを放っている。


 漆黒の外観と青白い光が交わり、〈図書館〉全体を包み込む。その表面は生命のように脈動しているようにも見え、近づくにつれてその圧倒的な威厳が増していく。


 赤い月を背に聳えるその姿からは、ある種の神々しさすら感じられるという。そして実際に、その〈図書館〉には、無限に存在する星々、そして〈混沌の領域〉を含む異次元の知識が収められていると信じられていた。


 この〈図書館〉は、あらゆる世界と次元から秘匿され、神々すらその領域を見つけることはできないという。〈図書館〉はただの建築物ではなく、存在そのものが宇宙の記憶を編み込むように存在している。


 知識を求める者だけが、空間の歪みを超えてこの特殊な領域へと足を踏み入れることができる。しかしその道は簡単ではない。赤い月が照らす光の中で、歪んだ空間は揺らめき、門が開く瞬間を予測することは不可能だ。


 神殿内部の廊下は、静謐かつ荘厳な雰囲気に包まれている。大理石調の白いタイルが床一面に敷き詰められ、その表面は無数の星々の光を反射するように輝いている。傷ひとつない滑らかな壁にも同じ建材が使われていて、丁寧に磨かれた鏡面のように周囲の光景を映し出している。


 その異様なまでの整然さに、訪れる者は次第に自らの存在が小さく感じるようになる。廊下の両側には聳える太い円柱が、終わりのない回廊のように並んでいる。


 その柱は金色と銀色の装飾が施された複雑な幾何学模様に覆われ、どこかイスラムのモスクを連想させる。その模様が単なる装飾なのか、それとも何らかの意味や力を秘めているのか、誰にも知る術はない。


 光の加減で模様が微妙に動いて見えるようであり、その不可解な揺らぎは視線を吸い寄せるような魅力を持っている。


 視線の先には、果てしなく続く廊下が広がっていた。その長大な空間を支えるように並ぶ列柱の間に、木製の重厚な扉が並んでいる。扉には装飾的な金属細工が施されていて、ひとつひとつが独特の雰囲気を放っていた。


 しかし扉のほとんどが固く施錠されていて、力ずくで開けることはできないようだ。ただし、その者が求めている知識が収められている扉だけは、簡単に開く仕組みになっている。


 扉の先には、無限の書物が収められた広大な空間が広がっている。棚の間を流れる水銀の川は、波ひとつ立てることなく、静かに生命のない鼓動を刻む。


 水銀の表面は訪れる者の潜在意識を映し出し、心の奥底にあるものが影となって揺らめく。川の流れは訪問者の心に静かに語りかけ、意識を彼方へと誘う。静寂が支配するその空間では、時間すら意味を持たず、ただ知識の探求だけが進行する。


 そこには無数の書棚が並び、棚にはこの世の理を超えた知識が収められている。本の背表紙に刻まれた文字は見る者に不可解なものでありながら、同時に妙に懐かしさを感じさせる。


 書庫はまるで海の底にいるかのように静かだった。何も聞こえず、ただ圧倒的な静寂の中で、知識への渇望だけが深く呼吸を繰り返しているように感じられた。足音が反響するたびに、それは水銀の川の表面を微かに揺らし、瞬間的に浮かぶ奇怪な影が通り過ぎる。


〈図書館〉は、知識を求める者に試練を与える場所でもある。その壮大な外観と底知れない内部は訪れる者を圧倒し、彼らに究極の選択を迫る。知識が救いとなるのか、それとも混沌の果てへと繋がる扉となるのか――それを決めるのは、探索者の心そのものに他ならない。


・注釈

 この報告書は、機密に指定された調査報告書を基に作成されたものであり、その内容が必ずしも正確であるとは限らない。

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