026 第三部・混沌の領域
■異世界
◆〈混沌の領域〉に関する調査報告書
調査日・年月日不明
調査員・名称非公開
調査対象・混沌の領域
・異界
混沌の領域は、物質世界とは異なる次元に存在する異界であり、その次元への接続は超自然的に発生する〝空間の歪み〟を通じて行われる。
空間の歪みは、〈転移門〉とも呼ばれ、宇宙に無限に存在する星々に繋がっていることが確認されている。〈混沌の領域〉は、それら無限に存在する異世界と異なり、異次元に存在する特殊な世界です。この領域は悪意と憎悪に満ちていて、あらゆる世界、そして生命に対して敵対的である。以下に、その特徴をまとめる。
・物理的構造
空間の歪みの所為で地形や建造物が常に変動している。一瞬前まで壮麗な古代ローマの街並みが広がっていたかと思えば、次の瞬間には肉の襞に覆われた腐敗した都市へと変化し、気がつけば森のなかに迷い込んでいる。そのため、物理的な安定性は皆無である。
また時間の概念が存在せず、調査者は〝無限とも、一瞬とも感じられる不安定な時間〟を経験することになった。腐臭、不規則な重力など、空間は常に薄い霧で覆われていて、肺を蝕む大気が確認されている。
・混沌による侵食
〈混沌の領域〉につながる空間の歪みが発生すると、世界は少しずつ混沌の悪意に侵食されていきます。
侵食が進むほど、物質世界が混沌化し、〈混沌の領域〉に似た環境に近づいていきます。森のなかに古代遺跡が出現したり、酸性の川が流れたりするようになり、建築物は脈動する肉に覆われていきます。その過程で、混沌の生物が生み出され人間は捕食されます。
・侵食の初期段階
自然界では植物の異常な色彩化、赤紫や蛍光緑、極彩色の植物の発生が報告されていて、野生動物が凶暴化する傾向が見られる。都市環境では、建物に肉腫のような物体が寄生し、徐々に広がっていく。
・進行段階
酸性の川が広がり、黒い雨や血の雨が降る現象が確認されている。また、人間の記憶や現実に対する認識が曖昧になる〝混沌の影響〟が確認されていて、精神的侵食が進んでいく。その過程で凶暴化した人間は、無差別に他者を攻撃するようになり、猟奇的な行動や食人に至ることもある。
侵食された地域では物理法則が崩壊し、あらゆる生物が混沌の生物として再構築され、現実世界とは異なる生態系が形成されていくようになる。
複数の異種生物が融合したかのような形態を持つ個体。例えば、鳥の翼に魚の鱗があるなど、異形に変異していく。また、空間の歪みをさらに拡大する能力を持つ〝歪みの核〟となるような個体が誕生し、侵食を加速させる。それらの異形は、たえず腹を空かせていて、人間を捕食対象にしています。
それらの生物を観察した人間は幻覚や精神不安定を経験し、自ら混沌へ近づく傾向が確認されている。
・調査者の影響
混沌の領域を調査した者は、酸性の雨や毒性の霧による健康被害が確認されている。記憶の喪失や、自己否定的な思考の増加、幻覚など精神的影響も報告されている。
・注釈
この報告書は、調査内容を基に作成されたものであり、すべてが完全に正確とは限らない。さらなる調査が必要になっている。
◆〈混沌の監視者〉に関する調査報告書
調査日・年月日不明
調査員・名称非公開
調査対象・混沌の監視者
・混沌の監視者
混沌の監視者は、多くの場合、人型の石像であり体高は三メートルに達する。その身体は通常の石材とは異なり、磁性流体の特性を持つ鉱石で構成されている。この鉱石は絶えず流動し続け、まるで〝生きている〟かのような反応を見せることがある。
鱗のように重なり合う鉱石は、見る角度によって色彩が変化し、鈍い光沢を放つ。この鉱石の集合体は観察者に不安感や恐怖を与えることが確認されている。
石造の胴体には大きな穴がぽっかりと開いていて、その内部に湾曲した鏡面のようなモノが確認されている。この鏡面はただの反射材ではなく、異世界の光景を映し出していて、異世界と地球を結ぶ役割を果たすと考えられる。
多くの場合、超自然的に発生した〝空間の歪み〟と同じように、他の星々とつながっていますが、〈混沌の領域〉や、それ以外の未知の次元に繋がっている可能性があります。この光景は観察者に強い精神的影響を与え、記憶の断片が乱れる現象も確認されている。理由は不明。さらなる調査が必要だ。
〈混沌の監視者〉は異世界につながる門としてだけなく、侵入防止の役割を兼ね備えていて、接近する者に対して攻撃的な態度を取ることが確認されている。その手段は直接的な、あるいは物理的攻撃だけでなく、精神的恐怖や鏡面を介した異次元の力――超自然的な力によるものと推測される。
このことから、〈混沌の監視者〉は、異世界からの侵入を防ぐための守護者としても機能していると推測できるが、その理由や目的は完全に解明されていない。
混沌の監視者は、世界各地にある遺跡などで存在が確認されているが、いつからそこに存在しているのかは、誰にも分かっていない。もちろん、放射性炭素年代測定法でも年代を推定することはできない。
監視者が現れた場所では、以下のような影響が観察されている。
監視者の周囲では、磁力異常が発生し、電子機器の故障や自然環境の変化が確認されている。また、鏡面を目にした者は幻覚、記憶喪失、自己否定的思考に陥る傾向がある。これにより、監視者に近づくことに対する嫌悪感のような心理的効果を生んでいると思われる。
混沌の監視者は、異次元との接点として重要な存在であり、その特性や目的の完全な解明が求められている。とくに〈転移門〉として機能する〝鏡面〟の能力について、さらなる調査が必要であり、それが異次元における侵略や防御の鍵を握る可能性がある。
・注釈
この報告書は、現地調査と観察を基に作成されたものであり、すべてが確定的な情報ではない。さらなる調査が進行中である。




